68 真実の悪夢と偽物の優しさ
注意
ここの話では子供の虐待などが描かれています。詳しい描写はそこまで描かれてませんが、気をつけてください。(見なくても本篇ではあまり気にしなくてOK)
これはユキが8歳の時のこと。
ユキは手に持った契約書を握りしめ父の部屋に向かった。これは父が何としても取りたかった契約書だ。これ1枚で聖金貨が何百枚もエンゼル家に動くだろう。だがなかなか契約することができずにいた。そこで代わりにユキが契約してきたのだ。もちろん正規の方法?でだ。
「父さん見てよこれ父さんがなかなか取れなかった契約書を僕が1人で取ったんだよ。」
ユキは褒めてもらおうと父の部屋に勢いよく入った。
「父さんすごいでしょ。僕、父さんやこの家の為に頑張ってるんだ。今は仕事が忙しくて家族3人であんまり一緒に居られないけど僕頑張るから今度一緒に、」
ユキは吹き飛んだ。子供であるユキの体重は軽く、ユキは約5mほど吹き飛んだ。ユキには一瞬何が起きたのかわからなかった。父を見る。自分の父親だ。見間違えるわけが無い。ではなぜ?そしてユキの頭にとある疑惑が浮かんでくる。それは疑惑なんてものじゃなくてほぼ確信し近かった。
「父さんもしかしてまたお酒を、」
またもや言葉を遮りユキの父レオンはユキを蹴り飛ばす。軽い悪ふざけではなく、成人男性の、さらに言うなら元騎士団の全力の蹴りだ。普通の子供なら内蔵がぐちゃぐちゃになって死んでいるだろう。だがユキは死んでいなかった。今思えばあの時自分の体がおかしいことに気づくべきだった。
「遅いんだよ。エンゼル家の長男ならもっと早く持って来い。」
「ごめんなさい。でも僕がやるべきかそれとも父さんに任せるか迷ってたら、」
「なんだ人のせいか?お前は人に言われないと何も出来ないのか?ああ?それにな話は聞いてるぞ。このたった1枚の紙を手に入れるのに3日もかかったらしいな。ただの紙だぞこんなもの。」
レオンは契約書を踏みつける。なんどもなんども踏みつける。結果契約書はくちゃくちゃになり所々破けている。あれでは使えないだろう。
「ごめんなさい父さん。でも父さんは半年かかってもその契約書を取れなかったから僕が、」
殴られ蹴られた。顔に4発、腹に8発、腕に蹴りを10回。腕がありえない方向へ曲がってしまった。
「父さんが頑張りがあって結果3日で出来たんだろう。お前一人でやってたら一体何年かかるんだかな。それに父さんはお前と違って他の仕事もしているんだ。お前みたいに毎日遊んでいるわけじゃない。」
「僕は遊んでいるわけじゃない。料理だって簡単なものならマスターしたし、剣だって筋がいいって言われたし、それに魔法に至ってはほとんど失われた古代魔法を複数使えるようになったんだよ。」
なんでこんなことになってるんだろう。僕はただ褒めてもらいたかっただけなのに。
「料理なんて雑用がすることだ。そもそもお前の料理は貴族料理だろう。そんなの覚えたところで使い道はない。剣はお前がまだ幼いから優しさで言ってくれるだけで、正直言ってお前に剣の才能はない。そして魔法はお前の力じゃない。その力はお前のものではなく化け物の力だ。」
「化け物........」
なんでなんでなんでなんでなんでなんで僕だけこんな目に。
「あーあ。同じ化け物ならエリーゼ王女の方が優秀だし、可愛げがあるし、何より駒として使えるし本当にお前って失敗作だよな。お前の母さんはあんなにも美しいのになんだよその顔ブッサイクだな。ははは。つーか気持ち悪いんだよ。」
ユキは思わず顔を守ってしまった。
「ごめんなっ」
「何護ってるんだよこのブス。男の癖に女みたいで気持ち悪いんだよ。このブス。さっさと死ねよ。」
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」
レオンはしばらくユキを殴り続けていた。だが飽きたのか今度はユキの首を締めてきた。
「そもそもお前なんて要らないだよ。オレが欲しかったのはお前の母親だけでお前なんていらないんだよ。ただの金食い虫がいるだけ邪魔なんだよ。」
「ごめんなさい。」
だんだん意識が飛びそうになってきた。このまま楽になろうかなとユキが思った時。
「何寝ようとしてんだよまだ夜の11時だ。寝るのにゃ早いだよ。」
それすら叶わず殴られ意識が戻る。だが父は殴ることを辞めて酒をまた飲み直した。
「立て。」
正直上手く立てないが。何とか立ち上がった。
「何が出来るようになった。」
何故か父はユキが新しくできるようになった特技を聞いてくる。理由は今でも不明。
「...性別を自在に変えれるようになりました。それから魔力を無限に生み出すことが出来ました。」
「チッ気持ち悪い。ん。」
「???」
気持ち悪いと言われたことに対してはこればっかりはユキもしょうがないと思っている。普通性別を変えたり、魔力を無限に生み出すなんて人の技ではない。そんなことより今父は、何かを求めている。ユキには分からず考えていると、
「お前はお酌すら出来ないのか。この家の収入源だぞ俺は。そんな俺の言うことが聞けないのか。」
「違うよ。だだわからなかっただけで。それにもう僕の方が父さんより稼いでるし。」
ユキは殴られた。別に悪意があった訳ではなく、本当にポロッと出た言葉なのだがレオンは聞き逃さなかった。その衝撃で持っていた酒が父の服にかかった。
「あっ!ごっごめんなさい父さん。すぐにシミを抜くから。」
視界が無くなった。当時は気づかなかったが、どうやらロウソクを目にぶち込まれたらしい。それからは父さんが疲れ果てて眠るまでサンドバッグだった。正直痛みはもうほとんどなかった。あるのはただどうして僕がこんな目にあっているんだろう。と云う気持ちと父が言っていた一言「エリーゼ王女飲み直した方が優秀」とゆう言葉だけだった。
恐らく父は眠ったのだろう。音がしなくなった。
「目が見えない。あれどこだろう?」
ユキは手探りである物を探す。常に父の部屋に隠し置いてあるエリクサーだ。そして手探りで何とか見つけエリクサーを飲み干す。すると目は治り体の傷も治り万全の状態になった。そして父の部屋の掃除を始める。
「なんで父さんはお酒が入ると僕に対してだけ厳しくなるんだろう。お酒が入っても僕以外の人には大して変わらないのに、それにその間の記憶全て無くなっているし。」
そうなのだ。レオンは酒が回るとユキにだけ暴力を振る。他の人や他の人がいるところでは酔ったとしても、決して暴力は振るわないのだが、2人だけだと急に殴ってくる。父の部屋は防振防音がバッチリなのでバレることは無い。傷も治せば問題ない。
「そう僕さえ我慢すれば。」
目を覚ませばきっと優しい父でいてくれるはず。きっとさっきまでの父は偽物だ。優しい本物の父がユキを大切にしてくれる。
それが駒と思われていても。




