第7話 姉とは理不尽な立場なのだ。
ロベルトの腕を引っ張りサロンを後にした私はロベルトに何があったのか尋ねた。
ロベルト曰く。
「興味ないからよくわからない」
……だそうだ。
少しでもまともな発言を期待した私が馬鹿だった。
さっきの貴族2人とロベルトの関係を調べるにはパトロンのフィデリオに問うのが一番手っ取り早い。
ロベルトを騎士団に預けるべきか迷ったが、何で私は1人で城下にいるだとツッコまれるに違いないので一度城に戻り出直そうとした。
隠し通路を通って戻るべきか迷ったが、寝室からロベルトが現れるのは色々とマズイ。そこで堂々と城門から入ろうとしたのだが、衛兵達や騎士達やら城に勤めてる者が慌しく動いてる。泣きそうな侍女に問い詰める宮中伯の男。それはフィデリオだった。
「……これは何事かしら?」
私はフィデリオに何があったかを聞いてみたら……
「陛下!? 何処にいたのですか!?」
と目をまん丸くされたよ。質問に質問で返すのはいただけない。ちなみにウィッグは外したままだ。私はわざとらしく溜息を吐いた。
「だから、何事かしら?」
ぐわっと目を剥くフィデリオ。普段の穏やかな表情からは想像出来なかったその怒りの表情に私は少し怯んだ。
「陛下が蒸発したからでしょ!!?」
……うそーん。原因私かよ。えっ? てことは抜け出したのばれてた? 寝室に入るなって言ったよね? 誰が命令破った?
「……フィデリオ。誰が寝室に入ったの?」
「……私の妻ですよ。陛下と約束してたとか」
アウロラか! 私が待ち合わせ場所に行くのが遅かったから部屋に来たのね! 何だか申し訳ない。
今は何処にいるのか問おうとしたら当の本人が駆け寄って来た。
「まあ陛下! ご無事でしたか? 怖い思いはしてませんか?」
凄く心配してくれてた様です。その表情にドキッとしちゃいました。……あれ? 女性相手にときめくとか大丈夫か私?
とりあえず、アウロラに謝らないといけなかった。
「心配をかけてごめんなさい。時間に間に合わず迷惑をかけました」
私は頭を下げた。アウロラとフィデリオが息を飲む声が聞こえた。
「……陛下。一体何の約束をしてたのですか?」
フィデリオは低いドスの効いた声で私を責めてきた。
言うのは恥ずかしいが迷惑をかけた上に嘘を重ねるべきではないと判断し、潔く白状することにした。
「私はアウロラ様と夜遊びをしようと約束してたの」
フィデリオはこの世の終わりかって感じの表情を浮かべた。アウロラは無表情であった。
賑やかな王弟御一行様が私たちの元へ来た。
ジーノに騎士達がうじゃうじゃと纏わり付いていた。そしてジーノと同い年ぐらいと思われる女性がジーノの腕にしがみついていた。私はそれを冷めた目で見た。
「……人気者ねジーノ」
弟は俯き小刻みに震えた。
「……あ……のせいだ」
小声すぎてよく聞こえなかった。
「どうしたのジーノ?」
弟は黄緑色の瞳をぐわっと開き叫んだ。
「姉上のせいだあああああ!!」
私はギョッと怯んだ。弟が取り乱すところなど初めて見た気がする。
「僕は彼女とイチャイチャしてたのに、姉上が行方不明だからって騎士達に監視されるし、いい雰囲気が台無しだよ!!」
……ごめん。何が言いたいのかよくわからない。
「ジーノ。姉さんに分かるように説明して?」
弟は何故か泣きそうな表情であった。
「夜遊びするなら堂々としろよ! 馬鹿なの!?」
……堂々と夜遊びしてるジーノに言われると何も言い返せなかった。
フィデリオは挙手した。もう付き合ってられんって感じなのは気のせいか?
「お二方。国の代表ともあろう方が、夜遊びなどとはしたない事をするのはおやめください」
ジーノは即座に「やだね」と口答えする。
私は「……言われなくてももうしない」と項垂れた。
「……ジーノ殿下は最早そういうご病気ですから、良いとして」
どんな病気だよ。ピアチェーヴォレ発祥のナンパ病か?
カッと目を見開いて私を睨むフィデリオ。
「陛下は罰として明日のご公務の一切をキャンセルします!」
「なっ!?」
そ、それだけはご勘弁下さいぃぃ!! 大好きな仕事を盗るとか最強の嫌がらせでしょ!?
青ざめる私の代わりにジーノが口答えする。
「たかが宮中伯の分際で姉上に指図するわけ?」
……そうだ! もっと言ってやれジーノ!
「そうですね。たかが宮中伯です。もしも、私の言葉に従いたくなかったら、私は職を辞させてもらいます!」
「ま、待ってフィデリオ。貴方が辞めたらこの国が滅ぶわ!」
優秀な人材が不足してるピアチェーヴォレ。真面目なフィデリオのような人材は希少なのだ。辞められたら本気で国が滅ぶ。
「でしょうね。だから、明日は謹慎でお願いしますね?」
柔らかな笑みを浮かべるフィデリオ。その目は笑っていなかった。




