第6話 ……何で私がヒーロー?
(ちょっとだけ残酷な場面を想像させる表現が後半にあります。ご注意下さい)
私は自国の民(男)を侮っていたのかもしれない。
「迷子の子猫ちゃん。犬のおまわりさんが付いて行ってあげようか?」
「垢抜けてない子って良いよね。僕がこれから綺麗にしてあげたくなる」
「眼鏡をとって顔を良く見せてくれないかい?」
城下を歩いてるだけで何人話しかけてくるんだよ!? え!? これが普通なの!? 私の瓶底眼鏡はモテない原因ではなかったのか!? ここまでくると、普段の自分の状況が悲しいわ!
不思議とナンパされても全然嬉しくなかった。おかしいな。私は何の為に城下まで来たんだっけ?
私は「狼の間違えでは?」とか「垢は自分でとるわ」とか「目を見してどうする?」と冷めた目で返した。
そうしても、引き下がらない男共に最終的に絶対零度の視線を向けといた。効果は絶大であった。
アウロラとの約束の集合場所、天使の噴水広場にたどり着いた。時間がかかり過ぎた所為なのかアウロラの姿は見つからなかった。
何してんだか。
無性に今の自分の状況が虚しく感じた。
『夜遊びをしてみませんか?』
アウロラのその一言に不覚にも心が踊った。
私は常に真面目な優等生としての振る舞いを母や母が付けてきた教育係から求められてきた。母は私の時と違い弟のジーノには甘く接していた。弟は女の私でさえも可愛いと思えるので仕方がないことかもしれない。母はその分私には厳しかった。
押さえつけられてた分、自由を謳歌するピアチェーヴォレ人が羨ましかった。女王になり、母が城から去り、私を叱る者は誰もいなくなった。私は浮かれてたのかもしれないと、アウロラがいない広場を見て冷静になれた。
夜遊びなど、やはり性分ではなかったのだ。数年前にお茶会の席で恋する令嬢は頰を染めて語っていた。街中を歩いてるとチンピラに絡まれて、それを颯爽と王子様が現れて助けてくれたそうだ。
まさかの身内の話に恥ずかしくなったが、良いなあ と思った。私もそんな出会いをしてみたい。
「おいオッサン顔貸せや」
「……」
「おい聞いてんのか!? お前だよオッサン!」
「……お前よりは若い」
「んなことどうでも良い! とっとと来い!」
騒がしいな。ん? あれはロベルトか? こんなところで何をやってるんだ? 襟を掴む屈強な男は知り合いってわけでもなさそう……。
引っ張ってかれるロベルトの姿に嫌な予感がして、後をつけることにした。
そこは貴族御用達のサロンであった。美術品が並ぶ喫茶店って感じ。会員制クラブのようで屈強な男が入り口にいた。
こういう時の対処方だが、大抵の場合はお金で解決できる。渋られたら更なる大金を握らせればいいのだ。
私はもしもの時に備えてピアスを持ってきた。これといったこだわりもないただ豪華なだけな宝石がついたそれをドアマンのスーツのポケットに入れた。見た目が庶民にしか見えない私だったから、ドアマンはピアスを吟味して考え込む。しばらくすると、「どうぞ」と扉が開かれた。
私は「ありがとう」とそっけなく答えて中に入った。こういう時は感情を下手に出さないことが肝心だ。動揺すれば下手に見られる。
「ようこそ。おいで下さいました。当店には誰のご紹介で?」
なるほど、紹介制であったか。無論、紹介してくれた覚えはない。
「知人の紹介で」
曖昧な事を言っといた。
「知人ですか。お名前を教えていただけますか?」
少し考えたが、別に隠す必要ないよね。私は何も悪いことしてないし。
「アンナ・フィオーレ。これが証拠」
王家である証の勿忘草のネックレスを見せた。勿忘草のモチーフは王家しか使えない。
男の店員は目をまん丸にして顔を真っ青にした。
「な、何故陛下がこのようなところに?」
「私だってたまにはお忍びで遊びたいの」
これは本音である。店員は何か深読みしてるのかビクビクしてる。
怪しいな。
「私が来たら困るのかしら?」
男は慌てて「滅相もございません」と首を横に振った。
「ここにロベルト・ガッティが来たでしょ? どこにいるのかしら?」
店員は固まった。
なるほど、これはロベルトの身が危ないな。
私はハッタリをかける事にした。
「私が無意味にこんな場所に来ると思うか? お前達の行動はこちらに筒抜けなんだよ。外には騎士が大勢待ち構えてる。素直にロベルトの元へ案内しなさい」
店員はもう倒れるかってほど顔色が悪かった。
「は、はいぃぃ!」
〜〜〜
……はあ。私だってときめく出会いや場面に年頃の乙女のように憧れる。それが、何故私がヒーローの如くおじさんを助けてんだよ。
「そこまでだ。全員動くな。ここは既に包囲されてる。大人しく投降すれば命だけは助けてやる」
サロンの一室にてロベルトは複数の男に取り囲まれ、右手を拘束されてた。大男が大きな斧を持ってる。
何が行われようとしたのか想像するとぞっとしたが、表情に出すことはしなかった。ここで動揺すれば下手に見られるからだ。
私は堂々と歩き、ロベルトを庇うべく前に立った。サロンにいた男は目を丸くして私を見た。
「なんだこのアマ?」
店員が「その方は女王陛下でございます」と真っ青な顔で説明した。
ん? んん? よくよく見ると、知ってる貴族が2人いるな。これはどういう事だ?
大男は私を見て嘲笑った。
「はっ。こんな場所に女王様が来る訳無いだろ」
知ってる貴族も苦笑いを浮かべた。
「あ、ああ! 少し雰囲気が似てるが、こんなところにあの鬼が来るわけ無いだろ!」
室内温度が急激に下がった。
誰が鬼だって?
私は絶対零度の視線で貴族共を睨みつけた。
「ほお? 淋しい事を言ってくれるな。私とお前達の仲じゃないか」
ウィッグをするっと外し赤い髪を晒した。赤い髪は王家の証でもある。明らかに狼狽えるロベルト以外の男共。
「後でたっぷりとお礼をしてやろう」
後で教えてもらったがこの時の私は般若に見えたそうだ。
お疲れ様でした^^




