第4話 宮中伯の隠し事。
(宮中伯=フィデリオ視点)
カステッロ城の庭、芝生広場で女王はフィデリオがパトロンをする画家を招き絵を描いてもらっていた。様子見に来たフィデリオは熱心に絵を描く画家の様子に、安堵の溜息を吐いた。
関心を私から女王になすりつける事に成功したようだ。良かった。
あの画家の名はロベルト・ガッティ。心眼でももってるのか人の内面を描き出すのだ。
そんな珍しい能力が重宝され、ピアチェーヴォレでの常習的な問題、浮気調査で役に立っている。フィデリオはそんなピアチェーヴォレの女性たちにとっては嬉しい能力を持つロベルトを重要視し、自らパトロンになる事にした。
ロベルトの能力で助けられた女性は多い。フィデリオはパトロンになった事を後悔してない。むしろ、良かった事だと思っている。だが、ひとつだけ問題が発生した。ロベルトが男の浮気してる証拠となる絵を描く事に飽きてしまったのだ。
流石、個人主義な画家なだけある。誰かの助けになるとかはどうでも良いらしい。別の絵が描きたいと私の事を追いかけ回してくるのだ。なんでも私の絵が描きたいらしい。ぶっちゃけ言って何を描かれるのだろうかと気が気ではなく。その時初めて、浮気がバレたピアチェーヴォレ人の心境を思い浮かべる事ができた。これは怖い。恐ろしい。
そんなこんなで、女王陛下に上手くなすりつける事に成功したわけだ。陛下は内面を描かれても痛くも痒くもないらしい。流石である。ピアチェーヴォレの男共に爪の垢を煎じて飲ましてやりたい。
ロベルトは別の絵が描けて満足らしくて、得意の変人ぷりを遺憾なく発揮してる。陛下の事を呼び捨てにして甘い言葉を絵に囁いてる。やはり、そこら辺のピアチェーヴォレ人と変わらないんだなと無感動に思った。
ピンクブロンドの御仁が私に耳打ちする。
「あのさ。僕いつまで姉上の縁談妨害してなきゃいけないのさ? 姉上に内緒でこんな事して不敬罪じゃない?」
そう。私は王弟と共に陛下の縁談を悉く潰していた。本当はルーナ国では姫ではなくその兄上こと第一王子からの縁談が陛下に来ていた。私が王弟に頼んで破綻させた。何をどうすれば妹の姫から縁談が来るのか謎ですが……。
破綻させた理由は、ルーナ国は弱小国家で、隣国ヴィント国に攻められる危険があった。ルーナ国は一応大国なピアチェーヴォレ国の属国になりたくて陛下との縁談を望んでいた。ルーナ国を属国に入れても何の旨味がない。むしろ、ヴィント国に睨まれて戦争を引き起こされる危険がある。
昔、ピアチェーヴォレ国はアッローラ帝国という今の約10倍以上の面積を誇る帝国だった。アッローラ人には野心家なタイプが多かったらしい。帝国を襲った大寒波により領土は縮小する事になった。かつての功績から、また再び領土拡大するのではと他国から警戒されてるのである。ナンパ大国である今の現状を是非他国は理解してほしいものだ。
そんなわけで、アッローラ帝国だった時ならまだしも、不真面目なナンパ大国と化したピアチェーヴォレ国に戦争なんてさせたら面白い様に負けるでしょう。戦争の火種は徹底的に排除します。
「全てはピアチェーヴォレの為です」
ジーノ殿下は私の事を胡散臭そうに見た。
「結局さ。あんた姉上の事信用してないんでしょ? ピアチェーヴォレの親玉みたいなものだから、カルマ国出身からしたら信用できないんでしょう?」
「心外です。私もピアチェーヴォレ人ですよ」
親の世代はカルマ人だけど、私はピアチェーヴォレで生まれたのでピアチェーヴォレ人だ。血筋は完全にカルマ人だが。
まぁ確かに先王が離婚したショックで退位したので、陛下も恋愛事情で退位するのか疑ってますよ。何せ親子ですからね。私が疑うのは仕方ない事です。
殿下は目を輝かせて私の後ろに向かって手を振った。
「ねえ。お姉さんは美の女神ベッラ? 地上に迷い込んだのかな?」
……何平然と恥ずかしい台詞を吐いてるんですか? まてよ。ピアチェーヴォレでは普通でしたか……。
「あら、お姉さんだなんて嬉しいですわ殿下。私の旦那様はその様なお世辞を言えないので、新鮮でドキドキしました」
この声は!?
後ろを振り向くと、黒髪がゆるくウェーブがかかってる褐色の肌に深い緑の瞳の私の妻がいた。妻は悠然と微笑んだ。
「旦那様は私に気の利いた台詞を言ってくれないのかしら?」
何しに来た!? 仕事はどうした!?
驚く私に妻はわざとらしく拗ねた。
「あら? 私はお邪魔虫のようね? ごめんなさいね。これといって用がないのに旦那様の職場にお邪魔して」
「……仕事はどうした?」
妻は舞台女優をしている。因みに売れっ子だ。
「今日は懇親会があっただけで仕事はお休み。アンジェロがロベルトをパパに盗られたってぐずっていたわよ。城に連れ出していたのね。陛下の要望なら仕方ないわ」
アンジェロとは私と妻の子だ。今年で4歳になる。ロベルトはアンジェロと気が合うのか良く遊び相手になってくれる。
「私達もロベルトに絵を描いてもらいたいわね」
その言葉に冷や汗をかいた。
ロベルトに絵を描いてもらうだなんてとんでもない。遠慮させていただきたい。
妻は冷や汗をかく私を冷めた目で見つめた。
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