第3話 変人画家。
令和初日めでたいです。
ゆっくりとわざとやった仕事がちょうど昼に終わった。まだ半日あるよ。この半日何の仕事をしようかしら?
悩み出した私に書類を回収しながら、宮中伯は話しかけた。
「よろしければ、肖像画を描いてもらったらどうですか? 」
肖像画って縁談を勧めるためのあれですか? まだ私にはこれといった縁談ありませんよ?
肖像画は縁談を勧める上で必要不可欠なものだ。先ずは肖像画を見てから、縁談を進めるか断るかを決めるのだ。要は見た目が好みかどうか肖像画で決めるのだ。今の時代、肖像画を描く画家は重宝される。気に入った画家は専属として雇われたりするのだ。
画家ねー。大概、人物より美化して描くのよね。盛り過ぎってやつ。私の場合まずはこの瓶底眼鏡がとっぱわれる。まあ、それぐらいなら許されるだろう。次に吊り上がった目が垂れ目になる上に目がデカくなる。もう別人だったよ。どこの可愛いらしいお姫様ですか? って感じ。胸もデカくなるし、ウエスト細くなるし、詐欺だったわ。私はその画家を冷めた目で無言で見つめてあげたよ。後で菓子折りくれたのだけど、あの画家は元気でいるかしら?
「肖像画要らないわ。縁談来ないし」
「まあまあ。そう言わず。肖像画は城で飾る為にも持っておきましょうよ。良い画家知ってるので紹介します」
歴代の王様の肖像画って城にこれでもかって程飾ってある。私のは戴冠式の場面のが1枚飾ってあるぐらい。その時は瓶底眼鏡外したよ。一生残る絵ですからね。ちなみに視力だが、両目で0.3。遠くは見えないが、近くは全然見える。うん。微妙に見づらい。
夜遅くまで蝋燭の火を頼りに勉強してたのが原因だろう。知識は裏切らないからね。モテなくてちょっと自暴自棄だったかもしれない。やり過ぎた。
しまった話が脱線してしまった。肖像画ねー。まあ、暇だから描いてもらおうかしら、と了承することにした。暇はアンナにとって天敵のようなものであった。暇だと気が滅入るんだよね。
〜〜〜
その画家は頰を染めて絵を描いていた。
「ああ。僕のアンナ美しい」
ついに恋愛氷河期が終わるのか!? 念願のモテ期到来か!?
わーーい。…………うわああああ!!!?
鳥肌がブワッとたった。
目の前の画家は金髪に同色のお髭の身長がひょろ長い男性だった。前髪が長すぎてこっちから目が見えない。もじゃっとしててお爺さんにしか見えない。そんなお爺さんは自分が描いた絵をじっと見つめて頰を染めてるのだ。
自分の作品にメロメロになってやがる。決してモデルである私のことを美しいと言ってるわけではない。その証拠に私を見る時は頰を染めてない。完全に物を見るようなぞんざいな感じ。絵を見る時は恋人を見るようなそんな感じ。
おい待てこの野郎。物はその絵であって、私はこの国の女王様だぞ。アホな貴族達でも最低限の敬意を表すぞ。
一体どんな絵を描けば頰を赤らめられるんだよ。逆にどんな絵か気になってきたわ。
「はい。完成」
そして、見せられたのは、まさしく私でした。書類の山を必死になって守ってる姿が描かれている。その表情は青ざめていて必死だった。
あっ。私こんなんに見えてたんだ。客観的に見ると酷いわ。
常に冷静であったと思うが更に冷静になれた。
なんでもこの画家はモデルの内面を描くスピリチュアリティな画家らしい。そして、自分の作品を愛してしまうらしい。
まあ、良いよ。自分の作品を愛するのは別に。頑張って作った作品を大切にするのはごくごく当たり前。だが、この画家は自分の作品に恋してやがる。
「美しいよアンナ」
おい。私がアンナだぞ。絵に囁くな。私に囁け。って違う違う。別に欲求不満じゃないから! (説得力皆無) 誰でも良いってわけじゃないから! (必死)
絵をじっくり見ると、リアルな感じで絵の中から飛び出してくるんじゃないかと驚かされる。モデルが私で真っ青な表情じゃなかったら素敵だと思えただろう。
うん。自分への戒めとしてこの絵は使えるな。自室に飾って仕事人間な自分を悔い改めようと思って画家に「絵を下さい」と手を差し出したが拒否された。まだ完成してなかったのか? と思ったが違うらしい。
「これは僕のアンナだ」
おい。この野郎ふざけんなよ。アンナは私だ! 私に言え!
自分の分身のような絵を必死になって守ってる姿になんとも言えない感情が湧いた。むず痒いような、ぞわぞわって感じ。その青ざめた私の絵の何処に惚れる要素があるんだよ?
「もう一枚描かして」
またしても、無機質なものを見る感じで私を見たよ。イラっときた。許可してないのにすらすらとさっきより大きなキャンバスに下絵を描いていく。ポーズをとる必要はないようで、私は芝生の上で寛いでいる。春の陽気が温かい。目の前には頰を染めて私の名前を囁く画家。
この陽気な空気がなんとも寒々しく感じたのであった。




