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第10話 逃られた王子。優柔不断な貴族の男。

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(ヘンリー王子視点)


 眼鏡を外して髪を下ろした姿は、かつてピアチェーヴォレの舞踏会で出会った名も知らない女性であった。それに気付くと共に喜びの感情が湧き上がる。


「お久しぶりですね。あの時は嘘をついて申し訳ございませんでした」


 艶やかに微笑む彼女の謝罪の言葉。


 何を謝る必要があるのだろうか。俺はこんなにも嬉しいのに。


 自然と距離を縮め、彼女の手を取り唇を落とした。


 今回は振り払われることはなかった。少しは期待して良いのだろうか。


 顔を覗くと真っ赤な顔をした年相応の女性の顔をしていた。目を見開いて俺を凝視してる。


 猛烈に愛しさが込み上げた。


「アンナ・フィオーレ様。どうか俺と結婚して下さい」


 ガシャッガリッ


 彼女は同様のあまりに眼鏡を落としてしまい、よろけた拍子にヒールの靴でレンズを割ってしまった。わなわなと真っ赤になりながら震える彼女が心配になった。


 突然の事で怒ったのかな?


「大丈夫ですか?」と声をかけようとしたが、それは叶わなかった。


「っっいやあああぁぁぁ!?」


「!?」


 叫びながら彼女は全力疾走で図書室の一角から去っていった。


「図書室ではお静かに! 走るな!」と司書が叫んでいたがヘンリーの頭には入ってこなかった。


 ……全力で拒否された。


 がくっと絨毯に崩れ落ちた。




(通りすがりの貴族視点)


 城の荘厳な渡り廊下にて、目の前の侍女こと僕の愛人は怖い形相で僕の襟首を掴んでいた。


「いつになったら奥さんと離婚するんだよ? かれこれ3ヶ月は経つんだが? あの言葉はやっぱり嘘だったんかい? え?」


 ……まるであの鬼の様だ。


 この国の女性は割と気が強い。あの女王が王になった辺りからその傾向が如実に表れてる。


 トップが鬼だと部下も鬼に豹変する。……僕の様な男以外の話だが。


 僕は新婚さんで貴族の美しい奥さんがいる。なのになんで浮気してるんだって? 奥さんが美人過ぎるときちんとしてないとと思って家だと気が休まらないんだよ。素朴な感じなこの侍女ちゃんに癒されたいと思って、口説いてたら止まんなくて、ついうっかり「今の奥さんと上手くいってないんだ」と言ってしまい。同情した侍女ちゃんが「なら離婚されては?」と優しく提案してくれたんだけど、僕としては美人な奥さんを手放したくない。


 でも、でも、この素朴な侍女ちゃんこそ運命な人なのでは!? と曖昧に「そだね〜。離婚しよっかなぁ」とか言ってかれこれ3ヶ月。未だに離婚してません。だって、美人なんだもん! この侍女ちゃん口説いて1ヶ月経ったぐらいから、メッキが剥がれた。本性はどっかの女王様のように鬼でした。「ごめん。やっぱり口説いてたの忘れて」と言いたかったが、「私を口説いてたって奥さんか女王様に告げ口するが?」と脅されてます。怖い助けて。


 僕は悲劇のヒロインの様な心境であった。


 すると、カッカッカッとヒールの音を鳴らして恐ろしい鬼がこちらに早足で歩いてきた。


 きっと僕を断罪する為に来たんだ。……死んだな。


 僕は死を覚悟した。


 侍女の顔も僕と同じ様に強張り、襟から手を離した。


 この子も怒られるかもしれないからね。可哀想に。


 自分のせいなのに同情した。


 女王様は何故か真っ赤な顔をしていた。いつもなら浮気現場を見ると絶対零度の視線で死ねとばかりに睨むのにだ。


 そんなに怒ってるの?


 じーと遠慮なく顔を観察すると、年頃の乙女の様な顔をしていた。


 僕と侍女ちゃんは思わずお互いの顔を見た。


 一体何があった? 浮気現場を見ても怒らないなんて……。


 あっ! 眼鏡! 眼鏡が無くてよく見えないんだ! それなら納得! 納得? こんな女王様初めて見るんですけど!


 女王は結局通り過ぎただけで、何も言って来なかった。



 しばらく固まっていた僕と侍女は宮中伯の男により止まっていた思考が動き始めた。


「何ぼーとしてるのです! 陛下を見張ってろって言いましたよね?」


 辺りを見渡すと女王は既にいなかった。


 この宮中伯の男、確かフィデリオとかという真面目でつまらない男だったな。僕の様な浮気者に嫌悪感を抱いてるようで、無視してくるのだ。今の言葉も僕じゃなくて侍女に話してる。侍女ちゃんは「申し訳ございません」と頭を下げて駆け足で女王様を追いかけて行った。


 そういえば、今日は騎士をぞろぞろ連れて歩いていたな。でもさっきは誰も付いていなかった。一体何があったんだ?


 真っ赤な女王を思い出して、恋人でも出来たりしてな。と貴族の男は推測したのであった。





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