予感
「今日!神様を見たんだ!!」
「はぁ?神様?」
汗だくになって走っていった先は花と緑に溢れた教会だった。中へと急ぎ足で向かい何人かいる人の間を通り一人の男のまわりに集まった人の中へ飛び込んでそいつの肩を勢いよく掴みそう大声で叫んだ。色は黒だが夢で見た男のようにふわっとした髪で男の割に華奢なそいつはビクッと肩を跳ねさせてから何を言っているんだと言わんばかりの返事をする。他にそこへいた男達も同じようなことを思っていることが表情からでも読み取れる。
「本当だよ!いたんだよ!あき...神父様!」
「お前、それは」
神父様と呼ばれた男、深海 明英は本当だと力説する様子に眉を顰めて手に持っていた本を慎吾へ向けようとする。吉良は慌てて「夢の中の話だよ」と訂正する。その言葉を聞いて小さくため息をつき、本を下す。
「で、なんだったわけ」
先ほどまで威嚇でもしているかの様なキツい態度を取っていたが、なんだかんだ言って話は最後まで聞こうとしてくれるし、優しい人なのだ。
「あ!でね、本当に...綺麗だったんだよ。柔らかそうな茶髪でね、目がすごくおっきいんだ、まつげもバサバサ!そこだけ、見たら女の子みたいだったの、でも背が僕と同じくらいでさ、えーと...神様みたいだったんだよ!とくにね髪なんかは本当にきれいでさ...神父様みたいな。」
「な、!」
そういって明英の髪を崩しはしないように撫でてにひひ、と笑いかけた。明英は目を見開いてから照れ隠しに髪へ触れた手を払った。吉良は「わあ」と言ったが本気で嫌がってるわけじゃないのはもちろん分かっているのでそれも面白いなと手を口元へあてて楽し気にさらに笑った。
「吉良、そういうことするよなあ...」
神学校の制服をまとった小柄な男、久尾時雨は苦笑いを浮かべて頬を掻く。同じく神学生の一色雅と朝霧要はそれに同意するようにうなづき口々にずるい奴だなやら上手いよなと言いたい放題だ。吉良はこの中では一番年下で何をしても吉良だからと許されるし明英はもちろん他の人らでさえ何をされても許してしまうなんてことはざらにある話だ。三人の会話は少し脱線しながら盛り上がりだしたが、すかさず悪口を言われていると感じ、それに反応した吉良はぴっと三人へ指をさして不満げな顔を浮かべる。
「そこ!何言ってるのさ、まだ終わってないよここからが本題なんだ。」
やれやれとため息をついて首を振る。そうなのだ、単純に夢を見たことを伝えるためだけにここまで来たわけじゃない。この先のことが大事で相談に乗ってもらうためにきたのだ。なによりも信頼できる友人たちと大切な神父様に聞いてもらうため。久尾は騒がしいやつだなあとつぶやいてから先をいうように催促する。
「僕、もう一度彼に会いたいんだ、どうしたらいいかな...」
「無理だよ、運に任せな」
一瞬のうちに明英はあきれたようにそう言い放つ。そんなことを言われても流石に第三者がどうこうできる話じゃないじゃないかと一刀両断だ。吉良はまぁ薄々そう返されるのは分かっていたのだろう、だよね~とがっくり腰を落とす。
「わかってるんだけど...それでも会いたいんだ、まだ名前も聞けていないし、あれもこれもまだで...あ!また明日って言ってたかも!!じゃあ大丈夫だ!!解決」
ぶつぶつと悔やんでいたことをはいてから一瞬のうちに自己解決してしまった。その場にいた全員がふざけるなと思ったことは間違えないであろう。しかし明英だけはそこで表情が変わって何か思いつめた顔になっていた。
「でも吉良がそんなに会いたがるってことは相当いい顔してんだろなー」
脳内で言われた特徴をくみあわせながら一色がそう言う。彼らが描いた像はそれぞれ違っていて吉良が見たあの男を再現することなんて不可能なのだと吉良は優越感に浸る。そしてあの神々しい容姿や優しい声を思い出してはニヤニヤと笑う。またも明英は少し考えこんだ後なんとも言えない顔をしていたがそれには誰も気づくことなかった。
「はい、おしまい。話はそれだけ?吉良。ここは話をするだけの場所じゃないでしょう。ちゃんとやることやっていきなさい。」
「うん、わかったよ英ちゃん!」
「英ちゃんじゃない。神父様、と呼びなさい。...少し待ってて。」
そう言えば髪をふわりと靡かせ、くるりと踵を返し明英は外へ出て行ってしまった。相変わらずつれないなあなんて思いながら他の三人とともにお祈りをするために会話を終了させた。
「神父さま、なんか機嫌悪そうだったね。どうかしたのかな~」
要が空気を読まず終わらせたはずの会話を再開させる。それについては気になったはいたので思わず返事をしてしまったが。確かに不機嫌そうだったのだ、途中までは普通にしていたはずなのに...何かしてしまったわけでもなさげなので特に深追いすることはなく、簡単にどうしたんだろうね、位で終わらせた。あまり考えてもいいことはないんだろう、彼がいわないということはこちらには関係のない話だ、無理に聞き出そうとしたところではじき返されることは目に見えている。もう一度明英が出て行った方向をなんとなく見てから吉良は少し寂し気に笑って視線を下に落としそっと目を閉じ夢の彼を瞼の裏に思い浮かべた。




