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宿の窓から見える景色は、夕方のそれから夜の帳を落とそうとしていた。
その移り変わりを、頭だけ別の世界に飛ばしながら、ぼーっと見つめる。
「はぁ、やっぱりダメだ。」
俺は、頭を抱えながら溜息をついた。
あれから、少し冷静になって、俺が思い付いた考えを整理していた。
だけど、どう考えても一人では達成し得ないんだ。
そもそも、錬成板がある不死山の適性レベルは上級職の50〜150だったんだ……
この比較的大きな、冒険者の都市であるシャーリアでも、ギルドに所属する上級職保有者は5名しかいないって話だしな。
最大レベルが必要なのは、山頂のボスを倒す為だから……
俺が素材を隠してるのは、山の二、三合目の所だから、上級職まで必要無いかもしれないけど……
錬成板のある中腹まで行くには、上級職パーティーじゃないと厳しいよなぁ。
ギルドに一番強いパーティーの協力依頼をしたとしても、無事に帰って来れるか微妙な所だし、俺の個人的な感情に無関係な人達を巻き込むのはダメだ!
他の手は無いか考える。
通常のルート以外で手は無いのか⁈
…あった、
……そうだ。
巫女の力だ。
特殊な職である巫女は、神聖属性の魔法で敵とのエンカウントを、ほぼ回避してくれる【ホーリー・オブ・エネミーリーブ】が習得可能なはずだ。
これなら、空から飛んで襲って来るような、イレギュラーな敵だけに絞って対処が出来れば、充分可能性がある。
それを使ってもらって、急いで素材を取って、錬成板まで行けばれば、帰りは俺一人でも充分敵を制圧できるし…これなら!
ただ……ただ、もし素材が無ければ、最悪の場合、敵に囲まれて全滅って事も…。
くそっ…
ゆっくり装備を整える時間なんか無いんだ。
皆がこの街を離れてしまうまでに、復讐だけは、それだけはやり遂げたいんだ…
これ以上考えても、妙案が浮かんで来ない俺は、夜の街に出掛けて行く決心をした。
クリシナ、イオナ
「お疲れ様でしたー!」
「お疲れ様です。」
ーーバタンっ!
ーーーとんとんっとん
「今日も疲れたねー、クリっち」
「変な呼び方しないでよね、イオナ」
「ねぇーねぇー、今日は夜ご飯一緒に行けるの?クリっち最近、付き合い悪いからなぁ……」
悪びれる様子も無く、続けるイオナに溜息を吐きながら、力なく答える。
「ごめんね、今日も早く帰らないと行けなくて…」
「けっ!男かぁー⁉︎浮気者ー!」
「ちょ、ちょっと声が大きいわよ!変な事言わないでって言ったでしょ!」
クリシナに頬を常られ、うぐぐ…と唸って、黙ったのを確認してから続けた…
「ちゃんと、落ち着いたら説明するし、ご飯も何でも好きな物ご馳走するから、ねっ?」
「ふんっだ!約束だよ?パープルキッチンのフルコースだかんね⁉︎」
シャーリアでもトップ3に入るレストランの名前を挙げるイオナに、
「高過ぎるわよ!もう少し安い処に……」
反論しようとすると、イオナは背を向けて手を振りながら「んじゃ、気を付けてね〜」と行ってしまった。
「ほんとにあの子は……」
そう零しながら、家に向かおうと歩き始める。
イオナはお調子者だけど、心配性で優しい子だから、内緒にするのは気持ち良いものじゃないなぁ…と考えていると、
不意に路地へ引き込まれ、口を抑えられる。
「んー!んぐむむ…うー!」
「クリシナさん!落ち着いた下さい、俺です。アールヴです。」
…てっきり、奴らの誰かか、暴漢にでも襲われたのかと泣きそうになったけど、そこには最近、冒険者登録をした不思議な少年が、申し訳無さそうに立っていた。
「あ、アールヴさん?どうしたんですか?こんな所で……」
しーっと、声を落とすように伝えて来る彼に怪訝な表情を向けると、彼はゆっくり説明し始めた。
アリシアを探していて、彼女が危ない事に巻き込まれている事を、教会のゲイン神父から聞いた事。
そして、赤い盾の話と復讐の事。
最後に、その為の力を得る為に不死山に登りたくて、アリシアに力が借りれないか尋ねてたい事。
…随分な物言いに、私は頭に来た。
「アリシアは"ついで"ですか?」
「彼女は優しい子です。戦争孤児で教会に引き取られから、自分に出来る正義の為に、必死に生きている……そんな子なんです。」
「あなたが頼めば、嫌とは言わないでしょう。命の危険があっても、あなたに恩を感じている彼女は断りません。」
「…ですが、私は、彼女が危険な目に合う事を、ミスミス見逃す事はしませんよ‼︎」
感情が爆発して、一気に捲し立ててしまった……
でも、私は何も間違っていない…はず。
彼にどんな、正論があったとしても、他人を巻き込むのは間違っている!
…だけど、彼女が聞いたら……何て言われるかは…想像が着いてしまう。
私の言葉を聞いて、がっくりと肩を落とし、自分の腕をギリギリと握る彼を見た。
この少年は、アリシアの命の恩人ではある。
モンスターから救ったのだ、見返りも求めず、彼女を励ましてもくれたと聞く。
そんな彼は、赤い盾のメンバーとも懇意にしていたのだ。
それも、登録の時に軽くは見ていたけど、冒険者同士でこんなに、入れ込んでしまう人を私は見た事が無いのも事実だし。
悪い人では無いのだと思う。
恐らく、悩みに悩んで、私に接触して来たのだ……
それなら…
やはり、私が判断するのは間違っているのかもしれない…
「分かりました。アリシアに会わせます。」
私の言葉に驚く彼は、変な顔になっていた。
「…ですが、私はあなたとの同行を止めます。何を言われようとも。」
彼は、少し悩んだ後「…お願いします」と、頭を下げて来た。
俺は、宿を出てからギルド前でクリシナさんを待っていた。
恐らく、アリシアさんを匿っているのは、この人だろうと思ってる。
前にギルドで何度か、やり取りを見たが、気のおける存在のような感じがしたからだけど……
もし違ったら、謝って、思い当たる所が無いか聞いてみよう。
……
……!
……。
どうやら、俺の予想は当たっていたけど、彼女に痛い所を突かれまくった。
不甲斐ない自分に腹が立って、腕を強く握っていると「会わせます。」と、言われた。
訳が分からなくて、ポカンとしてしまった…
……アリシアさんの元に向かうまでに、彼女の状況を教えてもらえた。
匿っているのは、自分の兄に当たる人で、かなり腕の立つ冒険者だそうだ。
身の回りの世話は、仕事前と後でクリシナさんが行っていて、どうすれば彼女の安全が確保されるのか悩んでもいたそうだ……
俺は、自分が召喚士だとクリシナさんに告げた。
こんな、無茶なお願いをするのに、あーだこーだ言うのは卑怯だしね。
…クリシナさんは、最初驚いたけど、半分納得したように頷いていた。
何で納得したんだろうか……?
そんな話をしながら歩いていると、クリシナさんは、少し大きめの洋館の前で止まった。
「ここです」と言い、門の中に入って行く。
俺も後を追って建物の中に入って行った。
一階に人の気配は無くて、二階にいるようだ。
……!…?
……ふふ……?
なんだか明るい感じの話し声が聞こえた。
アリシアさんと一緒に居るのは、仲が良い人なんだろうか?
クリシナさんがノックして部屋に入る。
俺も、少し間を開けてから部屋に入った。




