第97話「エリシアが残っていた理由」
#第97話「エリシアが残っていた理由」
何故、エリシアほどの凄腕の魔法使いが残っていたのか?それにはいくつかの理由と偶然が重なっていた。
ギルベルトは孤児院から子供達を引き取るときに、孤児院の状況だけでなくエリシアについても調査をしていた。
そのため、エリシアの魔法の腕が一流であることも、学園で天才と呼ばれていたことも知っている。
だが――
問題はその“評判”だった。
「エリシア嬢の評判は貴族内では最悪だったな。悪評しかなかった」
エリシアについて誰に聞いても、悪評の数々が語られるだけで散々だったのだ。特に、最初に仕えた貴族での評価があまりにも悪かった。
能力は高い。だが、扱いづらい。プライドが高く融通が利かない。言うことをなかなか聞かず、ようやく動いたかと思えば悪態を付くと散々だ。
本当かどうか分からないが、すぐに暴力をふるうという話まであった。
また魔道具全盛の今の時代、魔法使いはそこまで働き口がなかった。
もちろん、いざという時には護衛として使えるのだが今の時代は平和でそういう問題も特にない。
そうしてエリシアは金だけ浪費するだけの、扱いづらいお荷物になってしまったのだ。
そして最終的に、その貴族はいざという時のための保険よりも解雇を選んだのだ。しかし、しばらく金を浪費したこともあって他家に取られるのは惜しい。
そのためにエリシアについて解雇と同時に他家に悪評を流した。その結果、他の貴族はその悪評を気にして、なかなか手を出さなかったのだ。
「でも、どう見ても悪い人じゃないわよね。言葉遣いも丁寧、人柄も素晴らしいし」とセレナ。
「そうだな。実際にいろいろと話したが、悪評の方が間違っていたとしか思えん」とギルベルトも返した。
セレナにはどう考えても悪い人間には見えなかった。それはギルベルト、オルド、レオンの評価とも一致している。更に言えばエレンとも親しい。
そう、現実にはエリシアはもともと悪い人間ではない。単にプライドが高かっただけだ。
そして様々な経験を経てプライドだけでは駄目だと悟った。そうして完全なる優良物件に変わったのだ。
しかし、そのうちにエリシアは孤児院の運営をすることに。
そうなると貴族としては更に手を出しづらくなった。悪評もさることながら、さすがに子供ごと引き受けるわけにはいかないという計算が働いたからだ。
それでも優秀な魔法使いである以上、水面下で狙っている者はいた。他家に取られないようにと更に悪評を流す貴族もいた。それで、いずれもが手を出しにくい状況になっていた。
そうして見えないところで様々な思惑が渦巻いていたのだが――
そこへ、レオンが偶然見つけ出してしまった。そして何故か子供ごと引き取ることに。
ヴァルドリック領としては思いもよらぬ大当たりである。
本来なら大金を積んででも確保すべき逸材。
それが――
「まさか、給金もいらないと言い出すとはな」
ギルベルトは苦笑した。当然、それなりの給金を支払うつもりではある。
だが将来を見込んで子供たちを迎え入れただけのつもりが、即戦力の天才魔法使いまで加わった。
偶然にしてはあまりにも出来すぎている。
「やはりレオンは何かを持っているのかもしれんな」
剣聖ライゼン。
そして今回のエリシア。
いずれも第一級の人材。どれだけの大金を積んでも、わざわざ辺境の田舎の地に来てくれるはずもないはずだ。
それなのに自らの意思で、しかも給金も無くていいと言うのだ。常識的に考えてあり得ないことが続いている。
そこでセレナは迷いなく言って笑った。
「ええ。あの子は特別よ。何度も言っているじゃない」
オルドも頷いた。
「さすがに、そう思わざるを得ませんわ。まさか剣聖だけでなく、凄腕の魔法使いまで引き寄せるとは。しかもお二人ともが、レオン坊ちゃんに強い恩義を感じております」
そのオルドの言葉にギルベルトも同意した。
「確かにな。二人とも、あの子に心を許している。共に命までも賭けかねない勢いだ。はたから見て怖いほどだ」
「……本当に意味が分からん」
ギルベルトはさらに思案顔になった。そしてもう一人いたなと思って呟いた。
「そう言えば、エレン嬢は大丈夫だろうか」
「彼女は普段は冷静だが、魔道具の話になると暴走しかねん」
オルドは苦笑した。
「確かに……。下手をすれば、ライゼンやエリシア様以上にレオン坊ちゃんに心酔する可能性もございますわ」
「ありがたいが、それはそれで困るな。あの二人以上となると手が付けられん」
気が付けば、レオンを中心に三人の天才が集まりつつある。剣聖、天才魔法使い、宮廷魔道具師。本当に偶然にしては出来すぎている状況だ。しかもレオンから離れそうにない。
ギルベルトは酒を飲み干して続けた。
「今後どうなるかは分からんが……」
「どこまでレオンは大きくなるのか、そして人を引き寄せるのか、全く想像もつかん」
そこでセレナが微笑んだ。
「でも、今すぐにそこまで考える必要もないでしょう。私達はヴァルドリック領に戻ってきたのですから。レオンも当面は大人しくしているかと。さすがにしばらくは何も起きないでしょう」
それにはオルドも同意した。
「そうですね。レオン坊ちゃんも当面は魔道具を触って満足しているはずですわ。いつもの日常に戻ることでしょう」
そうして三人は静かに笑った。再び穏やかな日々に戻るとして信じて疑わなかったのだ。
だが――
そのレオンは本当におとなしくしているだろうか?
この夜の穏やかな語らいの裏で。彼はすでに、久しく遠ざかっていた魔道具の修理などについて夢を見ていた。そこには、それまで温めていた様々なアイデアも含まれていた。
それが再び新たな騒動を巻き起こすことになるとは――まだ、誰も知らなかった。




