第96話「夜の語らい」
#第96話「夜の語らい」
ヴァルドリック領へ帰還した夜。
レオンとイリスは、長旅の疲れもあってすぐに眠りについた。
一方、執務室では――
領主のギルベルト、妻セレナ、そして料理人にして側近でもあるオルドが、軽く酒を酌み交わしていた。
今回の王都行きは、この三人にとってもあまりにも濃すぎた。
最初は王城からの呼び出しが続き、その後は孤児院の子供達の引き取り、そして合同魔力測定での誤測定問題、魔力が低いことによるレオンの大泣きなど、いろいろな問題が次々と起こったのだ。
そしてギルベルトはおもむろに呟いた。
「本当にレオンは訳が分からんよな。いきなり王女様の寝室に忍び込むとは。とんでもないやつだ」
「そう言えば、そうでした。いろいろありすぎて忘れてましたが、レオンは本当にとんでもないことをやらかしましたね」とセレナも笑った。
本当は笑い事ではない。レオンは下手すれば切り捨てられるところだったのだ。とは言え、一応は終わった話。
酒のつまみとしては面白い話ではあった。そこでオルドも続いた。
「でも、そのぼっちゃんの活躍で王女様が病気から回復し、多額の報酬もいただいたのですよね。まだ三歳なのに凄いことですわ。私まで特別な報酬をいただいて本当にありがたいことです」
そう言えばそうだ。それはオルドだけではない。
ギルベルトは他の使用人の分も報酬も含めて百十白金貨(11億円相当)のお金を国王のエドワードから貰うことになったのだ。当然、使用人にも特別報酬を出さないといけない。
レオンは魔道具の修理によってヴァルドリック領の財政を立て直しただけでなく、王女を助けたことで多額の報酬を受け取るまでに至っている。すでに領主と比べても遜色ないほどの働きをわずか三歳で成し遂げてしまった。
もうしばらくは何もしなくてもいいぐらいの貢献だ。
「まさか領の財政の立て直しに続いて……国王より多額の報酬までいただけるとはな。訳がわからん」
「それにしても、どういう名目で使用人に報酬を渡すかな。レオンの特殊性については使用人には話すわけにもいかん。嬉しい悩みだ」
「そうね。その辺りも考える必要があるわね」とセレナ。
使用人たちにはレオンが魔道具の修理ができることは内緒だ。それを軽々しく話すわけにはいかない。
使用人から下手に伝われば公爵家やそれに連なる貴族、はたまた国外からも狙われかねない。なのでトップシークレットである。
そのためレオンの名前を出さずに報酬を出す方向になる。でもそれはそれで、レオンに申し訳ない気持ちにもなった。本当はレオンの貢献なのにその名前を出さずに報酬を渡すことになるのだ。
まあそこはいくら考えても仕方がないことではある。そうして給金を渡す名目についてしばらくは楽しく話がはずんだ。
しかし、その後でギルベルトは何かを思い出してやや沈んだ声で語った。
「私は……レオンに厳しすぎただろうか」
グラスを傾けながら、ギルベルトは続けた。
「“魔道具の墓場”を見せたのは、さすがに早すぎたかも……私は間違っていたかもしれん」
その言葉を聞いたセレナは穏やかに微笑んだ。
「確かに、年齢的に見れば早いとは思うわ。でも、あの子は自分でも考え始めたのでしょう?」
「なら、ちょうど良いタイミングだと思うわ」
オルドも頷いた。
「私も同意見ですわ。中途半端に聞くだけより、現実を見せた方がよろしいかと。その方が考えが深くなります。絶好のタイミングだったかと」
ギルベルトはレオンの深く沈んだ表情を思い出していた。かなり深刻に思い悩んでいたのだ。それを見た時点で、さすがに早すぎたかと後悔した。
レオンはなんだかんだで、まだ幼い子供だ。現時点でそこまでの重圧を背負わせる必要があったのか――。無理をさせすぎたのではないか?そう思いつめていた。
だが、二人の言葉で少しだけ胸の重みが軽くなった。そうして、自分の選択は間違ってないと確信するに至った。
もちろん、今後はレオンが思い詰めないようにフォローする必要がある。それさえすればレオンは今回の経験をプラスに変えていってくれるだろうと期待を込めた。
そして次に話はエリシアに移った。
「それにしても……エリシア嬢は凄かったな。学園でもトップクラスで凄い魔法を使うとは聞いていたが、あれほどとは思わなかったよ」
「確かにね、あの魔法は本当に凄い。私も本当に驚いたわ。うちの領でも、あれほどの使い手はいないんじゃなくて?」
セレナが素直に感嘆した。あそこまで正確な魔法を見たことがなかったのだ。
そして、オルドも深く頷いた。
「私もたまげましたわ。魔法を使えるとは聞いていましたが、あれほどとは……」
本来はエリシアは貴族ならば誰もが欲しがるほどの魔法の使い手。何故、そんな人物が残っていたのか?それにはいくつかの秘密があった。
その秘密について知っているものは少ない。そしてギルベルトはその数少ない人間の一人。
彼はその秘密について語り始めた。




