第94話「人の手を借りること」
#第94話「人の手を借りること」
俺は”魔道具の墓場”の原点とも言える場所で、たくさんの魔道具が無残にも捨てられているのを見た。
悲しいことだ。しかし良い解決策が見つからない。本当は壊れた魔道具は修理すればいいのだろうが、それをすることは簡単ではない。
そう思っていたら父さんが静かに続けた。
「これはほんの一部だ。他にも墓場はたくさんある。他にも捨てられている場所は多い」
他にもこの悲しい光景があるのか……俺はげんなりした。そして父さんは谷の向こうを指さした。
「更に言えば、多くの魔道具を作るために森は切り開かれた。鉱石を掘るために山は削られた。自然の破壊が進んでいる。そこに住んでいた動物も危機にさらされている」
「そうやって作った魔道具も壊れたら、こうして捨てられる。更なる自然破壊だ」
自然は壊れ、積み重なる廃棄物。とんでもない大問題であるのは間違いないだろう。
「だがな」
父さんは真っ直ぐ俺を見て語った。
「国の発展のために、こういった問題を切り捨ててきたのが現実だ。国民、そして領民のために選択してきたのだ。だからこそ、それが完全に間違いと断言することもできないだろう」
「レオン。お前は将来、こういう問題と必ず向き合うことになる。辺境伯家の子息として逃げられない問題だ」
「今すぐ答えを出す必要はない」
「だが、自分が何を選ぶのか、考え続けろ」
「もちろん、自分だけのことだけを考えてはいけない。国のこと、領のこと、そして民のことも全て考える必要がある」
なるほど。おそらくは父さんでも答えが出ない問題なのだろう。いや、もしかしたら何らかの答えを出して国に進言はしているかもしれない。
でも国は国で、簡単には変えられないだろう。国の発展が止まれば税収が減る可能性がある。他にも魔道具生産に携わってきた人が職を失い、失業者が増える可能性がある。民が苦しむような政策を簡単にすることはできない。それは魔道具の墓場を放置したとしてもだ。
魔道具生産は今の国の基盤になっている。
問題があるからと言って、簡単に止めるわけにはいかないのだ。
だが、このままでいいはずもない。そう思い、俺はもう一度谷を見下ろした。壊れた魔道具の山が無残にも積み重なっている。
これは国が発展していく上で仕方がない結果なのか?それとも大失敗として捉えるべきなのか?
はたまた未来への警告と考えるべきなのか?
少なくとも、このまま続けることは絶対に無理だと思う。取り返しのつかないことになりそうだ。どこかで必ず変える必要は出てくるだろう。
今は答えが出ない。
でも――
このままでは、いつか取り返しがつかなくなる気がする。
俺は無意識に拳を握っていた。父さんの言う通りだ。いろいろと考えなければならない。
魔道具が好きというだけでは駄目だ。現実に向き合う必要がある。この国に生きる者として。
もし俺が何らかの決断をしたら、将来的に国や公爵家と対立する必要も出てくるかもしれない。
本当に俺にはそんな決断ができるのだろうか。今は本当に答えが見つからない。
でも考えることを止めることだけは絶対に駄目だろう、そう俺は思った。
そこで立ち尽くす俺が気がかりだったのだろう。父さんが言葉をかけてきた。
「レオン、考える必要はある。しかし一人で抱え込んでもいけない」
「えっ?」
俺はちょっと意味が分からなかった。考えろと言ったり抱え込んではいけないと言ったりどちらなんだ?
そう思っていると父さんは続けた。
「レオン、お前は一人で考え込む癖があると思う。でも考えても判断ができない時もある。そういう時は困った時は周りを頼りなさい。私やセレナ、そしてオルドを頼ればいい。一人ではできないこと、分からないことも、みんなで考えれば答えが出てくることもある。一人で背負い込むな」
なるほど、そういうことか。一人で抱え込んでも良いことはないよな。前世でも失敗した。俺は最終的に一人で抱え込んで徹夜を続けて倒れてしまったんだ。
本来はそうなる前に周りを頼るべきだったのだろうと思う。倒れてしまっては、とんでもない迷惑をかけるだけだからね。
そう思っていたらイリス姉さんが声をかけてきた。
「もちろん私も頼ってね。頼りない姉さんかもしれないけど」
「うん、もちろん。姉さん頼りにしているよ」
そう俺が答えると姉さんはにこっと笑ってくれた。
そうだ。俺には父さん、母さん、オルド、そして姉さんもいる。一人で抱え込む必要はないだろう。無理なものは無理と言っていいはずだ。
そう思っていたらエレンさんも声をかけてくれた。
「私もいるよ。魔道具についてはそれなりに詳しいから、何かあれば気軽に頼ってくれていいよ」
「ありがとう、エレンさん」
そうだ。エレンさんはオルドの後輩で過去には魔道具の現場に携わっていたのだ。更に今は研究もしていると聞く。俺よりもいろいろ詳しいだろう。相談するのもありだな。
そう思っていたらエリシアさんも声をかけてくれた。
「私は魔道具については詳しくはありませんが、いくらでも頼ってください。可能なことは何でもします。レオン様には救ってもらった恩がありますので」
「うん。ありがとう。でも救った恩とかは、さすがにおおげさだよ」
エリシアさんは俺に恩義を感じてくれているらしい。でも、ちょっとおおげさだよね。現実にお金を出したり差配するのは父さんと母さんだ。
俺はたまたま困窮した孤児院を発見したにすぎない。
でも、みんなが頼れと言ってくれたおかげで、少しだけすっきりしたような気もする。今はまだ、どうすればいいのか全く分からない。
だけど頼れる仲間が俺にはいる。自分だけで抱え込まないようにしようと思う。




