第93話「魔道具の墓場の正体」
#第93話「魔道具の墓場の正体」
ヴァルドリック領へ向かう途中、父さんが俺の勉強のために寄り道をすると言い出した。
向かう先は――“魔道具の墓場”、その言葉の元になった場所らしい。
エレンさんとエリシアさんは「子供にはまだ早い」と止めた。
でも父さんは俺を見て言った。
「”魔道具の墓場”について考え始めたレオンは今こそ、見ておくべきだ。中途半端な現実を見るだけでは駄目だ。その根本を見ろ。そして、いろいろと考えた方がいい」
父さんがここまで言うならば、おそらくは間違いない。俺が今、見なければいけないものなのだろうと思う。
少し怖いのだが目を逸らしてはいけないものなのだろう。俺は直感的に、そう思った。
その後、公爵領に入った馬車は街道を外れて田舎道へと入っていった。
木々が増え、空気が少し湿っていく。山道に近い感じの通りだ。公爵領と言えば発展しているものと思っていただけに、かなり田舎な部分があるので少し意外に感じた。
そして、しばらくして馬車が止まった。そして父さんの声が聞こえた。
「着いたぞ。ここだ。レオンはこの光景をしっかりと見ておきなさい」
降りて、目の前の光景を見た瞬間……俺は言葉を失った。
谷のような場所、その大きくえぐれた地形の底に――
魔道具の残骸が、山のように捨てられていたのだ。
壊れた照明魔道具、冷蔵庫の魔道具、砕けているようにも見える水生成魔道具など。そして工具らしきものもある。おそらくは魔道具生産で使っている工具なのだろう。
とにかくその数は異常だ。
谷が、端から端まで魔道具で埋まっているように見える。深さは分からない。でも表面に見えるだけでも相当な量だ。
錆び、割れ、折れ、朽ちていく金属と木材。
そこにはもう光はない。ただの“産業廃棄物”だ。前世でもこんな光景をテレビで見たような気がする。それは日本ではなく外国だった。
本来は不法投棄であり駄目なことだ。でも一部に、焼却するよりも捨てた方が早いとばかりに捨てる業者が出てきた。そして、その後は追随するように大手業者も捨てるようになったらしい。
かつては映像でしか見なかった、ゴミで埋め尽くされた光景が現実に広がっている。何とも恐ろしい光景だ。
オルドが静かに言ってきた。
「これはほぼすべて、故障した魔道具ですわ。故障した魔道具は魔石を抜いた後に、そのまま捨てられてしまいます。最初は産廃業者に渡ったはずの魔道具が、何の処理されずにそのままこうやって捨てられているのが現状です」
「どうして? 魔道具として使えなくても、再利用できるよね?」
俺が思わず言うと、オルドは頷いた。
「もちろん、そういう動きもあります。でも……人は再利用品をあまり欲しがらないものなのですわ」
そしてオルドは更に続けた。
「しかも、再利用には多くの人手が必要です。分解、選別、修理、再組み立て。かなりの手間と時間がかかります」
「だから正規品と比べて値段もそれほど安くならない。ならば新品を買う方が早い、という流れになっているんですわ」
なんだ、それは。とんでもない話だ。
ならば、俺がやっているように魔道具自体を修理すればいいのだ。それならばそこまで手間はかからない。修理費用もそれほどたいしたことはないだろう。
そう思った瞬間――はっとした。
もし安く修理できるようになったら?今の魔道具の大量生産はどうなる?
産業構造がまた一変するだろう、それは間違いない。俺がそんなことを、大がかりに始めたら魔道具生産で発展した公爵家と対立するかもしれない。
公爵家の子息は、せっかくできた友達だ。できれば彼らと対立などしたくない。
更に国の税収も大きく公爵家に依存していると聞いた。だから修理するとなると公爵家どころか国全体を敵に回すことになるかもしれない。ソフィア様とも対立することになるのかもしれないな。
公爵家、そして国と対立する可能性があるならば魔道具の修理なんて、簡単に言える話じゃない。対立すればうちの領は孤立する。様々なものを他領からの輸入にも頼っているうちの領はすぐに干上がってしまうだろう。そうなれば領民が苦しむことになるのはほぼ確定だ。
なら、俺はどうすればいい?この光景を見ても何も動かない方がいいのか?
当たり前の話だけど、修理して再利用するのが一番正しい気がする。
でも、国や公爵家と対立する可能性があるなら簡単ではない。
そして、仮に国や公爵家が賛成して進めることができたとしても、それで再び産業構造が大きく変わり、多くの人が職を失うかもしれない。国の税収が下がれば公共事業も滞るかもしれない。
俺が何かを考えて変えれば、その裏で誰かが困る可能性は高い。それが現実だろう。とんでもなく難しい話だ。考えがまとまらない。不確定要素が多すぎる。
俺はその場で立ち尽くし、思考の渦に沈んでしまった。
そして、何が正解なのかさっぱり分からなかった。




