第92話「再会、そして魔道具の墓場へ」
#第92話「再会、そして魔道具の墓場へ」
(レオン視点です)
馬車はヴァルドリック辺境伯領へ向けてゆっくりと進んでいる。姉さんも今回の王都訪問には概ね大満足だったようだ。表情が明るい。
俺と姉さんは王都滞在中について、いろいろと話をした。
「あの串焼き、本当においしかったよね。何度でもリピートしたいよ」
「そうね。でもソフィア様、最後ちょっと寂しそうだったわね。可哀想だった」
そんな話をしながら、俺は王都での出来事を軽く振り返った。
前半は怒涛、後半はゆったりって感じかな。本当に前半は大変だった。一方で後半もゆったりとは言え、考えさせられることが多かったように思う。
とにかく刺激的な数日間だった。たまにはこんな激動の日々もいいのかもしれない……いや、もうしばらくはいいかな。ちょっと落ち着きたい。
そして――。
街道の途中、予定通りエレンさんを拾ったのだが、そこでひと騒動が起きた。
「エリシア!?」
「エレン!?」
馬車の中で、二人が同時に叫んだ。
孤児院のお姉さん――エリシアさんと、エレンさんは知り合いだったらしい。
世の中、狭いね。
「……なんであんたがここにいるのよ」とエリシアさん。
「それはこっちの台詞だよ」とエレンさん。
完全に仲の良い間柄という空気である。話を聞けば、二人は学園時代の同期だったらしい。
俺は簡単に二人の現在の状況を説明した。
「エレンさんはオルドの魔道具生産現場での後輩で、今は魔道具の研究をしていて……エリシアさんは孤児院を運営していたけど困窮して、子供達と共にうちの領に来ることになったんだ」
するとエレンさんがにやりと笑った。
「へぇ。エリシアが孤児院の先生なんて、意外だな。そういう面もあったんだ」
「うるさい。いろいろあったのよ」
俺は少し驚いて、少し笑った。
エリシアさんはいつも丁寧な言葉遣いなのに、エレンさんの前では完全に敬語が抜けている。これが素なんだろうね。
「エレンさんの前だと、随分雰囲気が違いますね」
「……すみません。そっちの方が普通なんです」
真っ赤になっている。
エレンが肩をすくめた。
「エリシアはね、学園では優秀でかなりプライドが高かったんだ。誰もが話しかけることもできず大変だったよ」
どうやら“プライドが高い”という話は本当らしい。前にエリシアさんから聞いた時は信じられなかったけど、今日の会話を聞いていると納得するしかない。
するとエレンさんはエリシアさんに話しかけた。
「でも、私とはよく話していたよな?」
「……一応、エレンの実力は認めていたから」
なるほど。
学園ではライバル関係だったのだろう。二人とも成績は優秀で、それなりに張り合う立場だったらしい。
エリシアさんは自分が認める人とだけ話をしていた感じかな。プライドが高い人にありがちな印象だ。
そしてエレンさんは少しだけ真面目な顔になる。
「正直、エリシアは孤独に見えて心配だった。でも……今の方がいい顔してる。絶対に今の方がいい。子供達が慕うように、人も自然と寄ってくると思うよ」
「分かっているわよ。でも、うるさい。そういう上から目線が前から気に入らないのよ。この魔道具オタク。あんただって内気すぎて、私以外では友達いなかったでしょうに」
ぴしゃりと返すエリシアさん。でもその表情はどこか柔らかいような気もする。おそらくは、ずっと緊張していただろう。久しぶりに友達に会って安心しているのかもしれない。
そして、何よりもこの二人の会話は面白い。どちらかが会話を投げかけたら、すぐに返事が出てくる。息ぴったりだと思う。親友なのかも。
そうやって過去を知る人間がいるというのは少し羨ましい気もする。そんな和やかな空気の中、父さんがぽつりと言った。
「レオン、お前の勉強のために少し寄り道をするぞ」
馬車の中の空気が変わった。勉強?何かあったのだろうか?そこで父さんは続けた。
「……”魔道具の墓場”、その言葉の元になっている場所に寄ることにする」
エレンさんとエリシアさんはすぐに察したようだ。
「さすがに子供にはまだ早いのでは?」
しかし父さんは譲らなかった。そして話を続けた。
「オルドから話を聞いた。魔道具の墓場についてレオンはいろいろと真剣に考えていたそうじゃないか。ならばその言葉の元になる場所も一度見ておくべきだろう」
そう言えば確かに、俺も疑問に思っていた。”魔道具の墓場”は魔道具の発展に付随した様々な問題の総称と言っていたはずだ。
でも、産業が変わったり、物価が上がったり、失業者が出たりと……それだけで“墓場”という名前が付くのはどこか違和感があったのだ。
どうやら、本当に墓場と呼ばれる理由のある場所があるらしい。どのような場所なんだろう。
期待半分だけど、その一方で怖さも半分ある。何しろ墓場と言われるような場所、あまり良いところではなさそうだ。
そうして馬車は、街道から少し外れた道へと進路を変えた。途中、馬車が止まって身分の確認などをしている。
どうやら、ここから公爵家の領に入るらしい。
俺はまだ知らない。
この寄り道が、これからの俺の価値観を大きく変えることになるとは。




