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辺境生まれの小さな天才魔道具師( 旧:辺境伯貴族家の息子、魔道具修理で無双し王女をも救う)【書籍化予定】  作者: まめたろう
2-4章「合同魔力測定」

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第89話「これからの俺に必要なこと」

#第89話「これからの俺に必要なこと」


 俺はオルドとイリス姉さんと一緒に、公園での買い食いを満喫した。

 魔道具の墓場という言葉に少しびびったり、デモ活動を見ていろいろ考えたりもしたけど……。

 まあ、今の俺にすぐ出来ることはない。必要なら今後の教育で学ぶことになるだろう。ゆっくりと考えていけばいいかと思う。

 俺ぐらいの人間が国家の産業構造をどうこう出来るわけがない。うん、今はそれでいいよな。


 その後、俺たちはおみやげを持って孤児院へ向かった。

 今日、食べて美味しかった串焼きとソーセージのセットだ。オルドがきちんと包んでくれている。姉さんも初めて孤児院に来るということで喜んでいる。


 孤児院ではお姉さんが移動の準備に忙しそうにしていたけれど、俺たちを見ると柔らかく微笑んで迎えてくれた。

 子供たちは「おみやげがある」と聞いた瞬間に目を輝かせた。


 やっぱり食べ物の力は偉大だね。

 みんなで楽しく食べながら、さっきの“魔道具の墓場”の話が頭をよぎった。きっと、お姉さんも大変だったのだろうな。

 俺は思わず口にしていた。


「お姉さんは、魔法使いだったのですよね。解雇されて大変だったのですね」


 オルドが一瞬だけ驚いた顔をする。お姉さんは少しだけ目を細めた。


「まあ……私の場合は自分も悪かったのです」


「悪かった?」


「ええ。貴族に雇ってもらえただけでもありがたい立場だったのに、プライドだけは高くて……偉そうだったと思います。そんな人間は使いづらいでしょう」


「プライドが高い? そうは見えないけど」


「いえ、本当にそうだったのです」


 本人が言うのだから、そうなのかもしれない。

 前世でもいたな。成績優秀でプライドの高かった人が社会に出てから急に丸くなったケースを思い出した。

 その人は言っていたような気がする。「そりゃ社会に出たら普通に変わるよ。プライドでは食えないし邪魔になる」とかって。


 確かに雇う側からすれば、扱いづらい人間は面倒だ。多少能力が低くても気軽に話できる人の方がいいかもしれないな。

 お姉さんも、雇い主との対立とかがあったのかも。


「辞めてから分かったのです。プライドなんて、表に出せば邪魔になるだけだと。例えば、私は”水を出して欲しい”とか言われても、何で私がそんなことを?と思ってしぶしぶやっていました。そんな人は嫌ですよね」


「なるほど」


 そりゃそうか。面倒くさそうに仕事やる人を雇うのは嫌になるだろうな。そういうのは確かにまずいかも。プライドは邪魔なのかもしれない。

 でもお姉さんは続けた。


「プライドは大事なんです。でもそれは心の中にとどめておくことが大事だと思います。表に出してもいいことはないですね」

 

 なるほど、プライドを完全に捨てたわけではないらしい。そりゃそうか。プライドを捨てたら後は堕落するだけになってしまうかもしれない。

 自分のやることにプライドを持ち日々、成長することも大事だ。

 深い話だな。

 オルドも静かに頷いている。もしかしたら、似た経験があるのかもしれない。


「仕事を辞めた後、いろいろと慈善活動をするようになって……必要とされることが嬉しかったのです」


 純粋に必要とされ満たされなかった心が、少しずつ埋まっていったという感じなのかな。

 でも、そこにも大事なことがあるらしい。

 お姉さんは少し苦笑し続けた。


「ただし、慈善活動はお金になりません」


「しかも、安易に引き受けると逆に問題になることもあります」


「問題?」


「やってくれて当たり前、と思われるのです。こちらが出来なくなった時、責められることもあるんですよ」


「これまでの苦労は何だったのか? と馬鹿らしくなったこともありますよ」


 ……それはきつい。慈善活動をしていて責められるとか、たまったものではないだろう。

 自分の体は一つしかないのだ。慈善活動ばかりできるわけではない。それで少しでもやらなくなったら責められるとかひどすぎる。

 それぐらいならば最初から関わらない方が楽かもしれない。


「だから安易な施しはいけないと思います。もちろん状況にもよりますけどね」


「どんなに小さなことでも、対価をいただくことは必要なのかもしれません」


 その言葉は、少し胸に刺さった。俺はこれまで、無意識のうちに善意でやってしまったことがある。ライゼンに食べ物を与えたり孤児院の子供たちに食べ物を与えたりと……。

 でも、それが当たり前だと思われたら?

 しかも相手が依存するようになったら?


 安易な施しは駄目と分かっているようで、分かっていなかったのかもしれないな。依存させてしまうと、その人は自立しなくなるかもしれない。

 自立しなくても生活が成り立つならば、堕落しそこに落ち着いてしまうかもしれない。そして善意でやってくれる人に対して、それが止まったら文句を言ってしまうのも有り得る話だ。堕落すると人は傲慢になることもある。


 だからこそ対価が必要なのだろうね。そう考えたら、何かを与える時には少しでも何かしてもらうといいのかな?


 なるほど、本当に深い。

 対価があるということは、責任の線引きでもある。対価が必要になると簡単には求めてこなくなる。それによってお互いが対等に近くなるだろう、それも必要なことなのかも。


 本当に難しい話だ。でも、何となく理解できる気がした。

 こちらに生まれてから、いろいろな経験をしてきた。魔道具ばかり触ってきたけど、こうやって人の話を聞くことも大事なのかもしれないな。

 いや、おそらくは俺はもっと人の話を聞いた方がいいと思う。そうしないと知らないことばかりだ。

 前世とは常識が違うことも多い、知らず知らずのうちに失敗してしまいそうだ。


 技術だけでは足りない。人を知らなければ、俺自身が知らず知らずのうちに“墓場”を増やすかもしれない。もしくは依存する人を増やす可能性もある。


 俺は静かに頷いた。

 改めて挨拶をして、俺たちは城へ戻ることにした。


 戻る時間もあれこれ考えた。

 王都での時間は思っていたよりもずっと重かったような気がする。領に籠っていては分からないことが多すぎた。一気に、いろいろな経験ができたよ。

 でもきっと、この重さは無駄じゃないと思う。

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