第8話「倒れていた男と、謎の修理士の誕生」
#第8話「倒れていた男と、謎の修理士の誕生」
料理長のオルドとは、すっかり仲良くなってしまった。
オルドは過去に魔道具を制作する仕事に就いていたので魔道具の知識をいろいろ持っているからありがたいんだ。魔道具の世界についていろいろ聞かせてもらえるし、何より秘密を共有する仲でもある。
俺が魔道具を修理できることは、基本的に他言無用でオルドと俺しか知らない。申し訳ないが父さんと母さんにも内緒だ。
俺が魔道具の修理をしているのだけど、表向きは「謎の修理屋さんが直してくれた」という設定になっているのだよね。オルドもその設定を理解し了解してくれていた。オルドは本当にいい人だ。
そして最近ではオルドと一緒に散歩をするのが日課になっている。
まだ三歳にも満たない俺は、よちよち歩きではあるけれど外の空気を吸うのは楽しい。しかもオルドとは魔道具関連でいろいろな話ができるのでそれもありがたいんだよね。
毎日歩くようになって体もしっかりしてきた。少しずつ走れるようにもなっている。順調に育っていると自分でも思う。
あまり自分を評価しすぎるのも駄目だとは思うけどこの年齢でここまで動けるのは俺ぐらいでは?
おそらくは大きくなったら才能がある人はたくさん出てくるだろうから無双なんてできない。今のうちに頭脳内無双をして喜んでおこう。
(ふふふ、俺は凄いんだ! 天才だ!)
そんなある日のオルドとの散歩中のことだった。
屋敷から少し離れた村道の脇でひとりの男が倒れていた。
薄汚れた服に、やせこけた頬。どう見てもただ事ではない。大変だ。
「ねぇ、オルド、あの人……倒れてるよ。何とかならないの?」
「ええ、見えますが……関わらないほうがいいですわ。こういうのは助けてたらきりがありませんので」
そうオルドに言われたのだが、俺は思わず立ち止まった。
確かにそう言われればそうなのかもしれない。倒れている人がいても放置する、それがこの世の常識なのかもしれない。でも、前世の知識がある俺にはどうしても気になる。
そして、その男が弱々しく「……腹が、へった……」とつぶやいたのを聞いたら、もう放っておけなかった。
「オルド、何か食べ物ない?」
「はぁ……今回だけですよ、坊ちゃん。」
オルドはため息をつきながら、近くの屋台でパンとスープを買ってきてくれた。
俺たちはそれを男の前に差し出した。
男は、まるで獣のような勢いで食べ始めた。あっという間に平らげると、深く息をつき、丁寧に頭を下げた。
「……ありがとうございます。この御恩、一生忘れません。」
ちょっとびっくりした。その所作は妙に上品でただの流れ者ではないように見える。言葉遣いにも品がある。
(この人、もしかして元貴族か、それに近い立場だったのでは……?)
そう思った瞬間、俺の中にひとつの閃きが走った。ピコーンと頭の中で音が鳴ったかのような気分になったよ。この人は使える!
「ねぇ、おじさん。"謎の魔道具修理士"になってくれない?」
オルドが「はぁ?」と絶句する。
男も驚いた表情を浮かべた。
「謎の魔道具修理士?なんですかそりゃ。私はそんなことできませんよ」
「いや特に何もする必要はないよ。仮に誰かにお前は何者かと言われたら”魔道具の修理士だ”って言うだけ。簡単でしょ?」
「……坊ちゃん、また突飛なことを……」とオルドは頭を抱える。
そこで俺とその男性とオルドと会話を続けた。
どうやらこの世の中では1日50鉄貨(俺感覚で500円相当)もあれば安宿にありつけ食事ができるらしい。宿が食べ物に比べてとにかく安い。ならば1か月1500鉄貨あれば生活できる計算になる。
「ほら、食べ物と宿がいるでしょ? 一日50鉄貨あれば暮らせるんだよね。だったら、月に1500鉄貨払うから、屋敷の“修理士”ってことでお願い!あとはたまに連絡を取る可能性あるから宿を教えてくれると助かるんだ」と頭を下げ手を合わせた。
男は目を見開いた。
「そ、そんな大金を……? “魔道具の修理士”を名乗るだけで?」
「うん、それでどうかな?」
「もちろんそれは凄くありがたいですが、本当に私は魔道具について何の知識もありません」
「大丈夫、大丈夫。"魔道具の修理士”って名乗るだけで後は適当にごまかせばいいからさ」
隣にいるオルドは最初こそは反対してきたが、それでも困惑しながらも最終的には折れてくれた。
「……まぁ、確かに理屈は通ってますな。魔道具の修理ができればそれぐらいは軽く浮きますし……分かりました。」
男は深々と頭を下げた。
「本当に、よろしいのですか? それでは恩返しどころか恩が貯まっていく一方になるのですが。それでは本当に申し訳ない」
「いいって、いいって。でも時には何かお願いするかもしれない。力仕事とかさ。そういった時に、何かできることだけ手伝ってくれればいいから」
「ありがとうございます。本当に助かります!」と男性は土下座するかのような勢いで礼をしてきた。
こうして、謎の修理士――名ばかりではあるが”魔道具修理士”の影武者が誕生した。
俺は心の中でガッツポーズを取った。
「ふふふ……これで設定は完璧だ! オルド、やったね! ありがとう!」
「はぁ……」
もちろん、この男が何者なのか、
そしてこの出会いが後に大きな波紋を生むことになるなんて、このときの俺はまだ知る由もなかった。




