第9話「冷蔵庫の修理と、白金貨の価値」
#第9話「冷蔵庫の修理と、白金貨の価値」
俺は家にある壊れた魔道具の修理を、ひたすら続けていた。
照明器、コンロ、水生成器などだ。我が家にはいろいろ壊れた魔道具があり修理するのが楽しい。
多い日には一日で十個ぐらい直すこともあったかな。
特に照明ぐらいなら簡単なんだよね。構造も単純。
でも、焦って全部直す必要もない。修理そのものが楽しいから、のんびり進めていけばいいだろう。
それにしても毎日のように新しく壊れた魔道具が運ばれてくる。故障率はかなり高いようだ。
一応、俺が直したものもないかチェックしているけどそれは再び運ばれてくることは今のところない。修理も完璧なようで何よりだ。
そして、それよりも大切なことがある。今は“冷蔵庫”の修理もあるのだ。
これがとにかくでかい。
そして困ったことに中身を冷やす構造がどうにも理解できない。理解できたら修理も早かったのかもしれないけど根本的な原理が不明だ。
前世での冷蔵庫なら、電力でコンプレッサーを動かして冷媒を循環させる。だがこの世界ではそんなことができるのか?そもそも見た感じてはそこまで複雑な構造には見えないのだよね。
となると、代わりに魔石で冷やしているはず――そう考えるのが自然だ。魔石が何らかの形でコンプレッサーの代わりになるのか?それとも「氷の魔石」みたいなものがあるのか?
けれど、今まで読んだ本には「氷の魔石」の記述はなかった。「水の魔石」は間違いなくあるのだけどね。
うーん、謎だ。どういう原理で冷やしているのだろう?
……まあ、いいか。
細かい仕組みなんて分からなくても、とりあえず直せればそれでいい。
そもそも、どこから調べたら冷蔵庫の詳しい構造や仕組みが分かるのか不明。書斎に本はたくさんあるけど、今まで見た本では冷蔵庫の詳しい構造なんて載ってなかった。 回路だけは分かるけどそこまで。冷やせる仕組みまでは分からない。
そして、仮に載っていたとしても、書斎の大量の本の中で、どの本に書かれているのかさえ分からない。逆に、もしかしたらそんな本はないのかもしれない。
となると、構造を調べるよりも結果を出す方が大事だろう。とりあえず直してみて作動するかどうか確認すればいいのだ。書斎の本は今後、少しずつチェックすればいい。
そう思い直して冷蔵庫の基板をチェックすると……
照明とは比べ物にならないほど複雑で長い回路が走っていた。とんでもないなこれは。
そして、ところどころ切れているのが目視でも分かる。そこはまずは修理していけばいいだろう。かなり大変な作業になるけど仕方ない。
とりあえず、目視で一つ一つ確認していく。
魔法インクが途切れている部分を見つけては補修していった。
「とりあえず、これで……よし!」
すべての回路を繋ぎ直したつもりだったが……スイッチを入れても駄目だった。
送風など、一部は動作しているのだけど肝心の“冷却”が全く機能していないのだ。
「まだどこか切れてるのだろうな……」
次に、照明修理の時と同じように“手”で確認することにした。
魔力が流れている箇所は、微妙に震えるような感覚がある。流れていないところは静かなのだ。これは目視よりもかなり大変な作業になる。
その細かい違いを頼りに、回路をひとつひとつ触って確かめる。
複雑な構造だけに、時間はかかる。地味な作業だ。でも俺はこういった地味な作業は大好き。次々と直していった。
もちろん疲れる時はある。そういう時は簡単な照明やコンロの修理を挟んで気分転換した。
そうして地道に冷蔵庫の修理を続けること――およそ一か月。修理が完全に終わった……はずだ。そして祈るような気持ちでスイッチを付けてみた。
「……動いた! 冷えている!」
冷蔵庫の奥から冷たい空気が出てきている。中身も間違いなく冷えている。一度閉じて扉を開けると、ひんやりとした空気が頬を撫でる。気持ちがいいな。
冷蔵庫の中も触ったがちゃんと冷えている。
完璧に直ったはずだ!
俺はオルドの元に勢いよく走り出した。
「オルド―! 冷蔵庫直ったと思うから見てよ!」
厨房にいたオルドは目を丸くした。
「ええ!? まさか照明だけでなく冷蔵庫まで……? 回路基板などの構造の複雑さが桁違いですよ!」
「うん、実は俺も構造や仕組みはまだよく分かってないんだ。でも切れてたところを繋げたら、動くようになったんだ!」
「……確認いたします」
オルドは半信半疑の表情で冷蔵庫の前に立ち扉を開けた。
そして数秒後――。
「ぼっ、坊ちゃん! た、大変です!!」
「えっ、やっぱり何かが駄目だった?」
「いえ、その反対です! 完璧に直っています! それどころか新品の時よりも冷えが安定しているようにも感じます!」
「おお、それは良かったね!」
俺は安心した。オルドが『大変です』なんていうからどこか壊してしまったかと思ったよ。ちゃんと動いているようで何よりだ。
「いや、良かったじゃないですよ坊ちゃん!」
「え? やっぱり何か問題があった?」
オルドは額に汗をにじませながら説明した。
「いや、問題はないというかあるというか……冷蔵庫は魔道具の中でも高級品です。値段は……白金貨単位もするんですわ」
「白金貨って何?」
「はい。坊ちゃんが普段扱う鉄貨に直すと――1白金貨はおよそ百万鉄貨です」
「へぇ、そんなに高いの?(日本円にして1000万円ぐらいか。確かに高いな)」
「そんなに、どころじゃありません! 少なくとも私の五年分の給料です!」
「そっかぁ。それなら儲かって良かったね!」
「それは、まあ…………」
(いや、違う、そうじゃない……1か月で2歳児が私の五年分の給料を稼いだようなものなんでっせ、とんでもない話ですわ!)
「じゃあ、他の魔道具もどんどん直していくね!」
「はぁ、お願いします……」
何だかオルドは放心しているようにも見える。それとも呆れているのかな?でも直ったんだからいいじゃん。儲かったのだよね!
この調子でどんどん壊れた魔道具を直していこうと思う。




