第86話「親友との戦い」
#第86話「親友との戦い」
俺は公爵家の子息二人と一緒の部屋で話すことになった。父さんはこれについて詳しい話をしなかった。作戦だったのだろう。
まあ分からないでもない。最初から聞いていたら緊張で死にそうになったことだろうからね。それを考えたらぶっつけ本番で良かったのかもしれない。
そうして俺たち三人は意外にも意気投合。親友になることに。前世から考えても初めての親友ができたかもしれない。
だけど、カールは急に真剣な顔つきになって話を続けた。
「あと、大事なことを言っておくよ。矛盾するみたいで申し訳ないけどさ、僕にとって一番大事なのはうちの領民だ。もしレオンが敵対すれば、親友であっても容赦はしない。完全に潰すように動くと思う」
うわ、さっきまでと違う。潰すとかって物騒、怖いことをさらりと言うね。
「でも立場を離れた今のような時は、親友に戻って欲しい。わがままだって分かっているけどさ」
……なるほど、その気持ちは本気なのだろう。
「もちろんだよ。立場上仕方がないよね。やはりいつでも守るべきは領民だよね」
そう答えると、カールは静かに微笑んだ。
ハイニも頷く。
「そうだな、俺も領民が一番だ。だから敵対することもある。その時は全力だ。何があっても恨むなよ?」
「もちろんだよ」
こいつらは凄いな。
どう考えても三歳とは思えない。
でもそうだった。こちらでは精神年齢は五歳ぐらいまでは二倍~三倍だよね。だから三歳と言えば六歳~九歳ぐらいになる。
公爵家では教育が早いからもう少し上かもしれない。とは言え、まだ前世でいうところの十歳ぐらいなものだろう。
それでも、すでにしっかりと優先順位を決めている。親友は欲しいけどそれはあくまでも私情なんだ。やはり領民が優先なのは、なにがあっても変わらないらしい。
自分の欲を出すと同時に、公爵家の子息という自分の立場と優先順位も予め明確に提示しており誠実と言えるだろう。俺よりずっと先にいるように見える。
俺はまだ領民について、そこまで考えていない。もちろん守れるならば守りたいけど、そもそも論としてほとんどの領民のことを知らない。だから、そこまでの気持ちはないのだよね。
一方で彼らにとってはすでに最優先と言うほどに大事なんだ。しっかりしているよ。
でも、そういう考えだからこそ、領民は多少の無理があっても付いてくるのだろうな。それはリーダーの資質のようなものなのだろう。
俺も、早くそういう考えになるべきなのかもね。
そして、こんな凄い連中と対等に話せるなんて、ありがたいことだ。
そう思っていたらハイニが唐突に言ってきた。
「あとレオン、騙されやすそうだから気をつけろよ」
何だよ、びっくりするな。騙されやすそうって、どういうことさ。
「今の俺の気持ちは本心だ。だけどな、そうやって本心のふりをして近づく人間もいる。特に大人は危険だ。話術に長けたやばい奴はたくさんいる」
それは分かる……前世でもいたな。マルチ商法、投資詐欺、絵画や宝石などを売ってくる怪しい人達など。
この手の人達の話はみんな同じ。「本当に君のためなんだ、だからこそ薦めているんだ」みたいに言ってきたよな。
現実には自分のことしか考えてない奴ばかりだった。
それはそうだよな。本気でそう思っているなら俺の分の金も出せばいいだけだ。あいつらが考えていたのは俺の幸せではなく、俺の金だった。
でも、この二人は違うと思えた。本当に良い友達になれそうだ。
その後もいろいろな話をしたけど、やがて話は女の子の話や恋バナへ。え、なにこれ、更なる陽キャ空間じゃないか。俺は本当に、ここにいていいのか?前世でもこんな話をしたことなかったのでは?
そこで俺は勇気を振り絞って聞いてみた。
「二人は好きな人とかはいるの?」
カールに聞くと、少し寂しそうに笑った。
「いることはいる。でも無理だね。立場が違う。自由に恋愛はできないな」
「うちも同じだよ。まあ俺の場合は好きかどうかも自分でよく分かってないけどな。気になる女の子はいるよ」
カールもハイニも似たようなものらしい。
公爵家は大変だ。
そしてカールがソフィア様のことについて言及した。
「立場上、僕たちはソフィア様を争うことになるよ」
どきっ。
俺はすでに対外的には圏外らしいけどね。この二人で実質的に決りだから、その点についてはまあ気楽なものだ。
「でも、どうなんだ? 公爵家と辺境伯家までの秘密の話だから二人共に知っているだろうけど、ソフィア様の魔力量は本当はS級で、もう長くないかもしれないんだろ」とハイニ。
「そうだね。ソフィア様もお気の毒に。本当にややこしいよね」とカール。
二人が言う。
そこで俺は思わず口を開いた。
「大丈夫だよ。ソフィア様はずっと生きる。間違いないよ」
俺があまりにもはっきりと言うから、二人は驚いたようだ。
そしてハイニが言ってきた。
「……そうだな。不思議だな。レオンが大丈夫というと、本当に大丈夫と思えてきたぞ!」
「まあ、親がいろいろと勝手に動くだろうけど、俺たちはできるだけ正々堂々といこう。もちろん、負けないよ」とカールは続けた。
「俺も負けないぜ」とハイニ。
そして、俺も流れで言ってしまった。
「俺もソフィア様を振り向かせるように頑張るよ」
三人で軽く拳をぶつける。なんだこれ。凄いよ、完全に青春じゃないか!
ついに俺も陽キャの仲間入りだよね?
その後も三人でいろいろ話した。勉強が始まり面倒なこと、付き添いの人間がいつまでも子供扱いしてうざいこと、親がやたらと心配性なことなど。
そういう話だけを聞くと、今の俺と余り変わらない。そうやって本音で語れる同年代の友達との会話は楽しかった。
将来は派閥が違うということで敵対するかもしれない相手だ。
でも、もしこの二人に負けるなら、それは仕方がないと思えた。もちろん、負けないように俺も頑張るけどね。
✳✳✳
一方。
その隣室において、一人の少女が聞き耳を立てていた。
それを見て、侍女が呆れ顔で言う。
「……趣味が悪いですわよ、ソフィア様。もう少し王女らしくして頂かないと駄目ですよ」
でも、それを聞いてもソフィアは知らん顔だ。
「聞きました? レオンが私を振り向かせるよう頑張るって。私のためだけに頑張ってくれるのよ。私もレオンのために頑張らないとね」
そう言う、ソフィアの顔は得意満面だった。間違いではないが、ちょっと拡大解釈しているような気がしないでもない。
こうしてレオンは知らぬ間に、更に身動きの取りづらい状況へと自ら嵌っていくのであった。




