第85話「三人の約束」
#第85話「三人の約束」
元気になった日の昼過ぎ、公爵家の子息二人と顔合わせをすると聞いた。
三大派閥のトップ同士、その子息ということでの顔合わせらしい。
(……うん? なんだそれ、聞いてないよな?)
どうしてこうイベントばかりあるのさ!
慌てて父さんに聞くと、
「これが最後だ。これさえ済めば、あとは帰るまで何もない」
とのことだった。
本当だな? 本当に最後だな?もう騙されないぞ!
父さんに連れられて行くとその場にはヴェルムンド公爵家の当主ゲオルグ様とその子息カール様、そしてザクセン公爵家の当主フリッツ様と子息ハインリヒ様がいた。
こんな場で俺は何を話せばいいのだ?特に何も言わなくてもいいよね。質問されたら答えるぐらいでいいかな?
そう思っていたら、ヴェルムンド公爵家の当主ゲオルグ様がとんでもないことを言ってきた。
「では親は退席する。あとは子供同士で話せ」
そう言って父さんと当主二人は去っていった。どういうことなの?ここには子供三人しかいないよ。
そんなの無理ーー!
二人とも、どう考えても陽キャだ。
というかやはり父さんに騙された。子供同士だけで話するとか聞いてないし!!!
この二人は見てすぐに分かる。完全に陽キャ側の人間。こんな人達と一緒に話するなんて今の俺にはレベルが高すぎる。
しかし既に場は設定済み、もう逃げ道はない。
……気まずい。
ここから、どうするんだ俺。
すると、すっと一人が歩み寄ってきた。
「君がヴァルドリック家のレオンだよね。僕はヴェルムンド公爵家のカール。よろしく」
手を差し出してきた。
明るくさわやかだ。そして後光がさしているように見える。なんともまぶしい、まぶしすぎる。
落ち着いた笑顔で、見るからに頭が良さそう。すでに魔法も使えるという噂の天才。しかもコミュニケーション能力も高いじゃないか。
そこで俺はおどおどと答えた。
「はい。ヴァルドリック家のレオンです。よろしくお願いします、カール様」
握手すると、カール様にくすっと笑われた。
「公爵家と辺境伯はほぼ同格だよ? 僕に対しては呼び捨てでお願いできるかな?」
え、いいの?本当に大丈夫?騙されてないよね?
「……分かったよ、カール」
「うん、よろしく」
更に後光が増したように感じる。明るいだけでなく、とてもいい人だ、本当にまぶしい。完全に陽キャだ。
続いてもう一人が前に出てきた。
「俺はザクセン公爵家のハインリヒだ。ハイニって呼んでくれ」
彼は見るからに元気いっぱいだ。活動的なタイプで間違いない。しかも今度はニックネームで呼んでくれときたよ。
本当にいいんだよね。俺はなんとか勇気を振り絞って答えた。
「僕はレオンのままでいいよ。よろしく、ハイニ」
「ああ、宜しくな!」
手を差し出すと、にかっと笑って強く握り返してくれた。やばい、こっちも完全に陽キャだよ。やはりいい人すぎる。
そうして、しばらく話しているうちになんとなく共通点が見えてきた。そして、この場を設定したその狙いも。大人たちの考えも見えてきたような気がする。
二人とも、やや孤独らしい。
もちろん彼らに友達や仲間がいないわけではない。公爵家の子息ということで多くの自分の派閥の貴族子弟が寄ってくる。
だがそのほとんどは親に言われて来ている。すなわち親に命令されているようなものだ。失礼があってはならないと緊張し身構えている子供ばかり。少し打ち解けて仲良くなったと思っても次に会う時には元に戻っているらしい。
やはり失礼があってはならないと親から言われているのだろう。
ハイニが肩をすくめて言ってきた。
「だからさ、俺たちは本音で話せる友達がほとんどいないんだよ。公爵家の子息ってのは、そういう立場らしい。面倒で少し寂しいことだけど、立場上は仕方がないのだろうな」
そして続けてカールが真面目な顔で言ってきた。
「レオンはうちの派閥とは関係ないよね。だから、彼らみたいな態度を取らないで欲しいんだ」
公爵家は親だけでなく、子供も面倒な立場らしい。
派閥の長として子分筋の子供たちを従えるわけだ。そんな彼らに自分と対等に話せと言っても無理。そこには親の教育が染みついている。
「レオンには普通に話できる友達になってほしいんだよ。分かって欲しい」
「うん、分かったよ」
そう言うとカールもハイニも笑ってくれた。
「「ありがとう、レオン。ならばこの三人は親友だな」」
なんと凄い響き、親友だって……前世にもいたかな?いや、いなかったよね。基本ボッチだったし。
感動していると、少し寂しそうにカールが続けた。
「ただし、立場上、僕の仲間がレオンを軽んじることもあるかもしれない。それは……許してほしい。率いる立場としてはそれを咎めると、結束が揺るぎかねないんだ」
なるほど上に立つ人間は大変だ。率いる立場として咎められない場面もあるという。そういう意味では俺は楽だ。仲間は特にいないからね。
「ややこしいね」
「まったくだな。立場が邪魔するんだよな」
ハイニが寂しそうに苦笑した。
こうして俺は二人の親友を作ることができた……と思う。ただし話はそこまで単純ではなかった。
親友になったからといって全てが甘いわけではなかった。




