第81話「自分の本当の気持ち」
#第81話「自分の本当の気持ち」
貴族の合同魔力測定が行われていた。
そこでの俺の結果はE級だった。
貴族の中では下位、ほぼ平民クラスの魔力量。秀才クラスの姉さんは当然のことながら、父さんや母さんよりも低い。
……それ自体は、別に気にしていない。
――でも、本当に気にしていないのか?
自分でも少し分からなくなってしまった。俺自身は間違いなく低い方がいいと思っていたはずだ。現実に、今でもそう思っている。
だって目立たない方がいいのだ。俺は田舎でのスローライフ希望なんだ。理屈上は間違いなく今のままでいい。
だから魔力が低いこと自体は全く気にしていないはずなのに……あの場では急に悲しくなった。不思議になるくらい、胸が締め付けられて涙が止まらなかった。
そんな泣き続ける俺を、ソフィア王女は庇ってくれた。
人のために動ける、本当に凄い人だと思う。三歳なのに、あれだけ堂々と大人に対して言い放つなんてとんでもないや。
俺には到底できないことだった。俺はただただ涙を流すだけだった。
その後、ぼーっとしている俺を心配したのだろう。父さん、母さん、そして姉さんは合同魔力測定の途中で退席した。
特に姉さんが痛々しいほど俺を気にしていた。
「ごめんね……レオン、本当にごめん」
涙ぐみながらそう言うのだ。
どうやら自分に魔力が多いせいで、俺の魔力が少なくなったのではないか、とでも思っているらしい。
そんなこと、あるわけがないだろう。そして、例えそうだったとしても全く問題はない。
俺は魔力が低いこと自体は気にしていないはずなんだ。
……いや、本当に?では何で涙が止まらなかったんだ?
部屋に戻っても、ぼーっとして頭の中がまとまらない。食事もほとんど喉を通らず、そのままベッドに横になった。
そして、いつの間にか眠っていた。ぼやけた意識の中で、自然といろいろと考えていた。
俺はなぜ、あんなに涙を流したのだろう。魔力が少ないことが悲しかったのか?でも、おかしいよな。魔力が少ないことはむしろ好都合だと思っていたはずだ。
それによって注目されず目立たないことになる。そして平穏に田舎でスローライフを堪能できる。そう考えていたのに……。
それでも涙が出て止まらなかった。
いろいろと考えて一つの結論に達した。なんだかんだ言っても、やっぱり俺はまだ三歳なのだろう。
前世の記憶はある。だが、今は三歳のレオンだ。
こちらでは知能の発達が早いとは言え、それでも前世基準で六歳から九歳ぐらいだ。
感情も、衝動も、年相応の部分があり完全には制御できていないのだと思う。希望通りの結果だったけれど、周りの人たちに馬鹿にされてその気持ちに流されて悲しくなったのだ。
少しずつ頭が整理されていった。そうだ、俺のあの時の感情はただただ悲しいというものだった……おそらくだけど、そう思う。
思い起こすと、たまに何も考えずに行動することもある。
いや、考えていたはずなのに、自分や周りの感情に引っ張られることもあるんだ。公園で子供たちに串焼きをあげた時もそうだった。
今後はしないように、と注意されていたのだ。それで頭の中ではそれは駄目だと分かっていた。
でも、気付いた時には行動していた。年相応の部分がそのまま出てしまったのだろうと思う。
かわいそうと思う気持ち、そして食べさせてあげたいという気持ち。喜んでくれるだろうという気持ち。いろいろあっての行動なのだろう。
でも、これじゃ駄目だよな。
本当にしっかり反省しないといけない。行動する前に、必ず考える。それを癖にしないといけない。
俺は父さんと母さんに守られているから何も問題はないが、この世界は貴族社会だ。おそらくは前世よりもずっと厳しい、こんなことでは今にとんでもないことをしでかすかもしれない。
先日の孤児院の件も結果オーライだっただけの話。たまたま本当に困窮していた話だからよかったものの、あんなことを繰り返していては簡単に騙されてしまうことだろう。
前世でも俺は何度も騙された。
マルチ商法。
怪しい投資話。
絵画や宝石の押し売り。
「うまい話」なんてあるはずがない。なのに「今じゃないとチャンスを逃す」みたいな話につられてしまったんだ。社会人経験を積むことによって騙されなくなったけど痛い授業料だったように思う。その経験はこちらでも生かさないとね。
そして、おそらくはこの世界の方が詐欺や策略は多い。こちらの方が厳しい社会なのだ。裏で何が動いているか分からない。
本当に慎重に行動しよう。そんなことを、うつらうつらとする意識で思いながら、眠ったり目覚めたりを繰り返したと思う。
そうして、気付けば朝になっていた。顔でも洗おうかな、そう思って洗面所に向かうと――
父さんと母さんがじっとこちらを見ている。
……何かあったのだろうか?
「大丈夫、レオン?」
母さんが優しく聞いてきた。
「大丈夫だよ。何かあった?」
そう返してから、ようやく気付いた。
ああ、昨日のことか。俺はあれだけ大泣きしていたのだ。
二人が心配しないはずがない。
「本当に大丈夫か?」
父さんの声も優しい。俺は少しだけ考えてから答えた。
「うん。一晩寝たら、すっきりしたよ」
嘘ではない。もう涙は全く出ない。
魔力がE級でも、俺は俺だ。低い方が望ましいと今でも思っている。とにかく変に目立たないのが俺の第一使命なのだ。あの視線が嫌だっただけだ。
そして――
慎重に生きる。それだけは忘れないようにしよう。何度も同じような失敗を繰り返してはいけない。
俺はもう一度、心の中で決めたのだった。




