第80話「一つの誓い」
#第80話「一つの誓い」
王女、そして公爵家の魔力量がA級、C級と天才、秀才クラスであった一方で、レオンの魔力量だけはE級、それは平民と同じレベルだった。
会場では失笑が漏れ、哀れみの目がレオンに向けられた。レオンはその視線や雰囲気に耐え切れずに大粒の涙をこぼしていた。
魔力量が少ないことなど気にするつもりはなかったが、とにかく悲しみがあふれ涙が止まらない。
魔力量を知って泣き出す子供がいるのはいつもの光景ではある。
とは言え、問題のある状況だった。そして国王がその貴族たちを諫めようと思って立ち上がろうとしたが実際に動いたのは王女のソフィアだった。
ソフィアは貴族たちに「恥を知りなさい」「そのような態度を続けるつもりならば退出しなさい」などいくつかの警告を与えた後でレオンの方に振り返った。そしてレオンに向けて語ったのだ。
「レオン、ごめんなさい」
更に声を上げ会場にも聞こえるようにレオンに対して言葉を続けた。
「私がA級だったから、こんな騒ぎになってしまいました」
「でも魔力量に特別な価値などありません。強い魔法が使える、ただそれだけのことです。たいしたことではありません。本当にその程度のことなのです」
王女の強い言葉にざわめきが完全に止まった。
そして中には青ざめるものもいた。
本来は大人が鎮めるべきだろうに、わずか三歳の王女様にその役割をさせてしまっている。上位の貴族ほどにこの状況は問題があると感じていた。
「現実に王国を支えているのは、魔力の多い人たちではありません。それより数多くの魔力の少ない人たちです。その大切な人達を馬鹿にするなんて……そんなことがあっていいはずがないでしょう」
王女ソフィアの強い言葉だった。
現実にその通りだ。魔力量が多いことで、確かに強い魔法が使えはする。それ自体は凄い。しかしながらその人間が一人いたところで何か特別にできるわけでもない。当たり前の話なのだ。多くの人によって国は支えられている。
その言葉にうつむく貴族も出てきた。
「A級の私が一人いても、何もできません」
「私は王家に生まれただけの、まだまだ未熟な人間です」
「レオンのような人が支えてくれて、ようやく私も一人前になれるのです」
そして王女はレオンに向かってやや控えめながらも、笑みを浮かべながら告げた。
「レオン。これからも、ずっと一緒に王国を、そして私を支えてくれますか?」
ソフィアはそう言うと、小さな手を差し出した。
その場にいる貴族たちには、レオンに手を差し伸べる王女のその姿がまるで女神のようにさえ思えた。
レオンは涙をぬぐい、その手を両手で握った。
「……はい。もちろんです。王女様を支え続けます」
会場が静まり返る。
そして。
拍手が沸き起こった。あまりにも美しい、まるで演劇のようなソフィアとレオンの姿に感動を覚えたのだ。
そして、貴族たちは自らを真剣に恥じた。
確かに王女様の言う通り、まさしくその通りなのだ。
現実に王国を動かしているのは、多くの人々だ。自分たちが魔力量が多いとか少ない、ただそれだけのことで子供を判断し色眼鏡で見ていたことを思い知った。
本当に馬鹿な話なのだ。国を支えてくれる人を馬鹿にしてどうするというのだ。
「さすが王女様……凄いお方だ」
「三歳とは思えぬ。王家に連なるものとは言え、本当に凄いお方だ」
王女に対する称賛の声が高まった。若くしてこの気高さ、そして誰にでも手を差し伸べる美しさ、大人を前にしての度胸など何をとっても文句のつけようがない。
王家に連なる者の威光をそこに見たのだ。やはり凄い、この国は安泰だと思うものまでいた。
だが……。
その様子を冷静に見ていた者がいた。
それは国王エドワードと王妃カタリーナだ。
二人は話をしている途中で娘ソフィアの口元がわずかに上がったのを見逃さなかった。
(……間違いなく、この状況を利用していた)
そして、決して慈悲の心だけで動いていたわけではないと見抜いてもいた。
それが証拠に話が終わったにも関わらずレオンの手をしっかりと握って放さない。この子はこの寸劇をいつまで続けるつもりでいるのか?と冷めた視線で見つめていた。
とは言えそれに気付く人間はいないだろう。そして、状況の作り方、そして言葉の選び方など憎たらしいほどにうまくやっている。
「レオン。これからも、ずっと一緒に王国を、そして私を支えてくれますか?」
「……はい。もちろんです。王女様を支え続けます」
このやり取りは本当に抜かりがない。この場ではそこまで不自然ではないが、よくよく考えると、これはほとんどプロポーズのような宣言だ。
どう考えても偶然ではないなと。
ソフィアは完全に狙っていたなと。
王と王妃はそう感じ取っていた。
やっていることは本当にこざかしい、だが見事だ。臨機応変にその場の状況を利用するというのは素晴らしい資質ではある。どんな状況でも冷静になるのが必要だからだ。
(我が娘ながら末恐ろしいな)
エドワードはそう思った。
まずは場を治めたことを素直に賞賛する気持ちが強かった。
だが同時にまだまだという気持ちもあった。
(まだ甘い。見抜く者は見抜く)
教育はまだ必要だ。
だが――
三歳にしてこの策。
会場の空気は、完全にソフィアのものになっていた。
ちなみに……。
レオンはソフィアがやさしい、本当に良い子だとこの時は思っていた。
しかし――。
「……はい。もちろんです。王女様を支え続けます」とレオンが言ったのは間違いのない事実だ。
どさくさ紛れに、とんでもない言質を取られている。そのことにレオンは全く気が付いていなかった。
そして今後もこの言葉を利用され続けることになるなんてことは、夢にも思っていなかった。




