第79話「レオンの涙」
#第79話「レオンの涙」
王家の貴族が集まる合同魔力測定が始まっていた。王家など位が高い順に測定するのだが今年はいきなりレベルが高い結果が並んだ。
いきなり王女ソフィアがA級だった。そして続く公爵家の子息の二人、すなわちヴェルムンド公爵家のカール、ザクセン公爵家のハインリヒがC級。
例年は、ほとんどがD級ならびにE級。C級でさえ数えるほどしかいないのだ。
しかし今年は王女のA級、公爵家子息二人がC級と続いてとんでもない状況になっている。
さらに言えば、その前に行われたイリスの再測定はB級だった。魔力量の多い魔法の天才児が連続しているとんでもない状況。
会場はすでに異様な空気に包まれていた。
となれば――
どうしても注目は続くレオンにも集まった。
姉のイリスはA級に近いと思われるB級。
となればレオンも凄い可能性がある。もしかすればB級もしくはそれ以上なのかもしれない。
かりにB級以上であれば王女様の婚約者レースに割って入る可能性もあるかもしれない。そうなれば派閥の均衡が揺らぐ可能性もある。
貴族たちは早速、計算を始めていた。動くならば早い方がいいのか?それとも様子を見た方がいいのか?やはり今の派閥に忠誠を誓った方がいいのか?
それぞれのポジションで考えていた。もちろん公爵家に近い人間は揺らがないが末端はその場の利益と将来性との兼ね合いで動くのだ。
そんな大人たちの思惑がうごめき、次の測定に注目が集まっていく……。
レオンは、最初こそ暢気だった。
魔力が少ない方がいいだろう。その方が注目されないからありがたいぐらいに思っていたぐらいだ。最低の平民以下レベルでもいいのではと考えていた。
だが会場の視線が自分に集中していることに気付いた瞬間、急に緊張が押し寄せた。
(なんでこんなに見られてる……? みんなの視線が怖い、なんでだ?)
急にレオンの心臓がどくどくと鳴った。本当は逃げ出したいぐらいだ。でも、さすがにもう逃げ出すわけにもいかない。会場から出ていくとしても、少なくとも測定を済ませないからでないといけない。
「次はヴァルドリック辺境伯家のレオン様です」
名が呼ばれた。
レオンはおどおどしながらもなんとか勇気を振り絞り魔力測定装置に手を伸ばした。
すると装置から淡い光が出てきた。
その光は……明らかに弱い。
会場にいる貴族たちにもすぐに分かった。
明らかに先ほどまでとは違う光量だ。それはいつもの光景でもあるのだが。
そして貴族たちは少しほっとした。そうそう天才級、秀才級ばかり出ていては見ている方も心臓に悪いのだ。
そして結果が発表された。
「測定結果はE級です!」
一瞬、沈黙が広がった。
そして次の瞬間――
小さな失笑が起こった。一つの失笑が出るとそれは伝搬する、一応は反応することを我慢していた人間も反応する。その雰囲気が更に伝搬していった。
それと同時に憐れむような視線が広がっていった。それは痛いほどの視線だ。
「なるほどそういうことね……まあ仕方がないな」
「あーあ、可哀想にな。これで辺境伯家は更にしんどいか? 公爵家の天下だな」
「姉のイリスに良いところを全部取られたんじゃないか?」
「ヴァルドリック辺境伯家は姉の方が当主に相応しいのではないか?」
「これで王女様の婚約者レースは完全に公爵家の二人で決まりだ」
そんな声も漏れ聞こえてきた。それは明らかにレオンを馬鹿にするような声、そして視線でもあった。
最初、レオンは魔力量が少なくても気にしないつもりだった。むしろ注目されない方がありがたいと思っていたくらいだったのだが……。
現実には魔力量が少ないことで逆に注目を集めることとなったのだ。
周囲の好奇と哀れみの混じった視線。それはレオンにとって想像以上に鋭かった。そしてどう考えても良い話とは思えないひそひそ声。急激に胸が締め付けられた。大人たちが怖い……。
そして気が付けば――
レオンの目からは大粒の涙がこぼれていた。
ぽたり、ぽたりとしずくが床に落ちた。
ぐすっ、と鼻をすする音が静まり返った会場に響いた。
子供を見世物にするような状況だ。本来はおかしな、とんでもない光景であると言えよう。
だが現実的にはこの光景は珍しくない。
期待された子供が低い評価を受け泣き出す。
過去の合同魔力測定でもよくあることだった。時には憐みの声も聞こえてきて、その状況に拍車をかける。
そしてそれを止めようとする大人はいなかった。たまに国王が諫めるのみだった。
泣き出すレオンを見て周囲の大人たちはいつものことだと、どこか冷めた目で見ていた。
(仕方がない。才能がなかったのだ。これも一つの試練、経験だ。生きていくうえで今後もこういうことはある。まあ耐えてくれ)
そんな空気。誰もが適当な言い訳を付けて動かない、大人としての責任を回避している。
とは言え現実問題として、大人であっても自分から今の状況は問題があると言い出すのは勇気も必要ではあった。
これはさすがにまずいか、と国王が立ち上がろうとした、その時だった。
再び、小さな足音が響いた。
ソフィアが立ち上がったのだ。そして声を張り上げた。
「静まりなさい」
明らかに先ほどよりも強い声。
「そして――あなたたちは恥を知りなさい」
空気が凍った。貴族にとって王家からの”恥を知れ”という、その言葉の意味は非常に重い。
「あなたたち、大人の態度はあまりにも残念です。そのような態度をこのまま続けるならば即刻、退出なさい」
貴族たちは顔を強張らせた。子供とは言え、王家に連なるものの警告が続いたからである。ざわざわとしていた雰囲気だったが急に静まり返った。
そしてソフィアはレオンへと向き直ったのだった。




