第78話「二つ目の改ざん」
#第78話「二つ目の改ざん」
四歳以上の再測定が終わった。
イリスの測定で一瞬「A級誕生か!」と騒然となったものの、測定ミスでやはりB級だったという形でひとまず収束した。
表面上は、だ。
そして――これからが本番だ。
三歳児の魔力測定が始まる。
会場の空気が再び張り詰めた。測定は基本的に位が高い順となる。従って最初は王女ソフィアからである。
魔力測定官は、内心で冷や汗をかいていた。
本来、王女ソフィアの魔力量はS級。これは何度か測定して既に知っていた。しかし勅命によりA級として発表せよと命じられている。
S級だと知られると短命である可能性が高いとの情報が国内に広がり混乱すると思われたからだ。A級であってもやはり混乱はあるだろうが少なくともS級よりもましという判断になる。
そして魔力測定官はつい先ほどイリスの結果を改変したばかりだ。そして今回は改ざんすることが早々に決まっている。
測定が始まったばかりなのに、早くも二度目の改ざん。なぜ自分が測定する時に限ってこんなことに……と心の中で頭を抱えていた。
緊張は極限に達していた。
だがさすがはベテランの魔力検査官だった。表情には全く出さない。
「王女ソフィア殿下の測定です」
静まり返る会場。ソフィアが測定装置に手を置いた。
次の瞬間――
眩い光が爆発する。先ほどのイリスを上回る、圧倒的な輝きだ。
誰もが息をのんだ。とんでもないことが起きたと感じ取っていた。
そして測定官がおもむろに声を上げた。
「王女ソフィア殿下の測定結果は――A級です!」
うなるようなどよめきが広がった。いきなり数年に一度の天才の誕生だ。
「なるほど、あれがA級の光か……」
「先ほどのイリス様とは違う光の量だ。凄いな」
「さすが王女様だ」
その光の強さに納得する者も多かった。それは当然だ。本来はS級の光なのだ。A級よりも光が強いのは当然の話である。
だがそれを知る者はここにはほとんどいない。魔力検査官のほかに知るのは王家、公爵家、辺境伯家の一部の人間のみである。
ともかく発表はA級。
そして、ざわつきが続いた。王女様が魔法の天才ということで、めでたいという声、他にも体調を危惧する声など様々だった。
さすがにこれはまずい、貴族に忠告しようと国王が立ち上がろうとした、その瞬間だった――
小さな声が会場を貫いた。
「静まりなさい!」
三歳とは思えぬ凛とした声が響いた。
王女ソフィアが周囲を見上げていた。
「私の測定結果に驚いてくださるのは嬉しいことです。ですが、まだ測定は続きます」
「これから測定する方々の迷惑になるのは、私の本意ではありません」
「意見や確認ごとがあるならば後で受けます。今は静かに次の測定を進めましょう」
王女の一声でざわめきがぴたりと止み、静寂が落ちた。そして貴族たちは顔を伏せた。
確かに王女様の言う通りだ。これからも測定は続くのだ。これほど騒いでいては、次の子供がやりにくいだろう。申し訳ない気持ちとなった。
子供に諭されるとは大人として恥ずかしい。
そして何より――
わずか三歳にしてこの貫禄。
「さすが王家に連なる者……」
そう感じた者は多かった。わずか三歳ながらにして、場を即座に収めるその姿に頼もしさをも感じていた。
国王エドワードも、思わず口元を緩める。
(私が出るまでもなかったな。なかなかやるではないか)
測定は続く。次はヴェルムンド公爵家の子息カールだ。
「次はヴェルムンド公爵家のカール様です」
カールが前に出て魔力測定装置に手を当てる。
そして測定装置からまばゆい光が漏れ出た。
「測定結果はC級です!」
会場がざわめく。公爵家の子息にして魔力量は秀才クラスのC級。地位と才能、両方を兼ね備えた傑物である。どこから見ても非の打ちどころがない。今後も王国は安泰と言える。王女の婚約者はこれで決まりか?という声も聞かれた。
例年ならば大盛り上がりの結果だ。
だが――
直前のA級の光があまりに強烈だった。
歓声はやや控えめだった。まあ仕方がないだろう。王女に鎮められた直後ということもある。
続いてもう1つの公爵家ザクセン家のハインリヒの測定だ。
「次はザクセン公爵家のハインリヒ様です」
同様に魔力測定装置からまばゆい光が漏れ出てきた。
「測定結果はC級です!」
再び軽いざわめきが起きた。
やはり優秀。こちらも公爵家にて魔力量は秀才クラスのC級。地位と才能、両方を兼ね備えている。やはり非の打ちどころがない。
王女様の婚約者レースはこの魔力測定で決定する可能性もあるのではないかと考えていた人間もいた。しかし公爵家の子息は二人共に秀才クラスのC級。
遜色ない結果にため息も漏れた。今後もこの二人のデッドヒートが続くのだろう、そう思う貴族も多かった。
こうして秀才とされる魔力量C級が二人続けて出るという、本来であれば驚きの展開となった。
だが、それでも会場の空気はどこか落ち着いている。
やはり王女の存在感があまりに大きかったようだ。C級でははるかに及ばないA級という魔力量、そしてざわつく周りの声をすぐに鎮めた王女の声がそうさせていた。
そして。
ついにその名が呼ばれた。レオンだ。
「次は――ヴァルドリック辺境伯家、レオン様です」
会場の視線が、一斉に集まった。そして様々な思惑が渦巻いた。彼の姉はA級に近いB級だった。となるとレオンも才能があるのかもしれない。
そして公爵家の子息二人を凌ぐB級以上の魔力ならば……もしかしたら婚約者レースに割り込む可能性もわずかに残るかも?これは辺境伯家に伝手を求めておいた方が良かったか?
貴族の大人たちは様々なことを考えていた。
一方のレオンはと言えば……とくに緊張していなかったはずなのに、その場の異様な雰囲気に飲まれていた。
(え、もう? いくらなんでも測定が早すぎない? まだ心の準備が……)
と、内心で固まっていたのだ。レオンの測定結果によっては派閥貴族の大移動も起こるかもしれない。そこまでいかなくとも多少は勢力図が変わるかもしれない。
貴族の目はレオンに集中していた。




