第75話「挨拶回り」
#第75話「挨拶回り」
今回の魔力合同測定は特別な子供が多い。
王女、二つの公爵家の子息、そして辺境伯家の子息レオンが参加する。
そのために、ややパーティーへの参加者も多くなっている状況だ。やはり貴族としては顔繋ぎに必死なのだ。
いつもはここまで多くない。それだけにレオンが緊張する状況となっていた。
その中でもやはり中心となるのは王女ソフィア。その前にはすでに、貴族による長蛇の列ができている。早く挨拶して少しでも顔を覚えてもらおうという意図だ。
レオンはその列を見てやはり王女様はすごい人気だなと暢気に構えていた。それより料理はまだかと考えていたぐらいだ。
しかし、レオンの父ギルベルトと母セレナはレオンに移動を促した。他にも公爵家と思われる家がその列の先に向かって移動していく。
公爵家、辺境伯家はやはり上位貴族で優先。その他大勢の貴族とは違う。王女への挨拶も先になる。
レオンは後でもいいのに……と思いつつ父と母の後に付いて行った。
そして、レオンは早くも挨拶か?と、とにかく不安であった。
しかしながら公爵家が先に挨拶し、その後にうちの辺境伯家が挨拶という順番。
それを理解してレオンは少しだけ落ち着いた。先に公爵家の子息が挨拶するならば参考にすればいいからだ。
最初に挨拶したのは魔道具生産最大手のヴェルムンド公爵家の子息。この挨拶においては、親は見守るだけで口を出さない形となっている。
「ソフィア様、ヴェルムンド公爵家のカールです。今後とも宜しくお願いします」と頭を軽く下げる。
ヴェルムンド公爵家のカール、彼は頭がよくすでに魔法も使えるという噂もある。ソフィアの婚約者レースの先頭を走っていると言ってもいいだろう。
レオンも彼を見て、確かに賢そうだと感じていた。そして付き添っている父親と思われる人も同じく頭が良さそうだと思っていた。
(やはり……遺伝ってあるのだろうね)
レオンは余裕が少し出てきたのか、遺伝とかの暢気なことも考えていた。もちろん、油断しすぎではあるが子供の顔合わせなのでとそこまで問題にはならない。
続いて、魔道具生産だけでなく流通の要を握るザクセン公爵家の子息が挨拶をした。ザクセン公爵家は魔道具生産ではヴェルムンドに一歩譲るが、販路は圧倒的、商売に強い。
「ソフィア様、ザクセン公爵家のハインリヒです。宜しくお願いします」とやはり軽く頭を下げた。
ザクセン公爵家の子息ハインリヒは、はきはきした挨拶をした。婚約者レースとしてはカールと拮抗もしくはその二番手になると見られている。
レオンとしてはとにかく明るいタイプに見えた。親はがっつりした体型で堂々としている。「まぶしいな、今世における陽キャだ」とか馬鹿なことを考えていた。
そして王女のソフィアは二人に対して冷静に応じた。
「ヴェルムンド公爵家の魔道具は素晴らしいですね。いつも感謝しております」
「ザクセン公爵家は流通の要。王国の縁の下の力持ちですね。やはり素晴らしい」
見事なバランス感覚、どちらも褒めて基本的に上下を付けることはしない。もちろん、その必要があれば順位を付けることもあるが、今はその時ではない。
現実的に見れば、アストラル王国はこの二つの公爵家が中心となっており動いている。
そして、この国の貴族社会はこの二つの公爵家が形成する派閥、すなわち二大派閥に分かれている。
かつてはレオンのいるヴァルドリック辺境伯家を含めた三派閥だったが、今ではほぼ二強。
正直、ヴァルドリック辺境伯家は完全に取り残された状況だ。味方になる貴族も少ない。
本来はレオンを含めた三人の子息での婚約者レースのはずだったが、現状ではレオンは圏外。公爵家の二子息のいずれかが婚約者となると一般的には見られていた。
そこで王はおもむろに会場にいる人たちに向けて言葉を発した。
「すでに伝達が回っていると思うが、娘ソフィアの婚約者決定は五歳から十歳に延期されている。子供たちの成長を期待してのことだ。皆もそのつもりでいて欲しい。もちろん我こそはと思うものは立候補して構わない」
パーティーに参加している貴族家ともなれば婚約者の決定が十歳に延期されたということを既に知ってはいた。
とは言え、その本質まではほとんどの人間は知らない。知っているのは公爵家、辺境伯家まで。
ソフィアの魔力はSランクで、とても十歳まで生きることはできないと思われていたからこその婚約者延期の決定なのだ。
その問題は解決しそうではあるがソフィアの成長を促す目的で設定を変えてはいない。よって王の言葉もあながち嘘ではない。
しかし王の”誰でも立候補して構わない”という言葉を額面通り受け取った人間はこの場にはいない。公爵家の二子息に絞られていると誰もが思っていたからだ。
公爵家の子息二人の挨拶が終わった後の王の言葉だっただけに、お前らは諦めろよという意味合いで受け取った貴族も多数いたほどだ。
そんなやや微妙な雰囲気の中、特に空気を読まずにレオンが挨拶をした。
「ソフィア様、ヴァルドリック家のレオンです」と頭を下げた。
そう名乗った瞬間、王女ソフィアの表情が少し和らいだ。明らかに笑顔になっている。気が付いた人もいたかもしれない。
そしてレオンは言葉を続けた。
「今日は体調が良さそうですね」
そう言うと、ソフィアの表情は更にぱっと明るくなった。
「ええ! 昨日の朝からとても体調が良くて!」
近くにいた国王のエドワードは思わず額に手を当てた。王妃カタリーナも苦笑気味だ。二人はまだまだ教育が足りないと感じた。そこまで冷静に対応していたのに、レオンに向けてだけ満面の笑みはさすがにあからさますぎる。
とは言え現状ではそこまで問題になるほどでもない。とりあえずはスルーをした。もちろん魔道具の話などをするようならば完全にアウト、その辺りのチェックはしている。
一方のレオンはそんな様子の王と王妃を見て、俺が何かまずいこと言った?後で父さんに確認する必要があるかな?などと考えていた。
「今後ともよろしくお願いいたします」
そう言ってレオンは一礼し、列を離れようとした。
その瞬間に王女様のテンションが急激に下がった。もう駄々下がりである。とにかく分かりやすい。
まあ、そこまで王女の表情を見ている人がいないので助かっているがさすがにまずい。
特に王妃のカタリーナはこれはしっかりと教育せねばと更に気合を入れていた。
その後は立食となりレオンは様々な子息と顔合わせをしていった。もちろんそのほとんどの子息を、まだ覚えきれていない。
後に、父から「食べてばっかりでは駄目だぞ」と駄目出しを受けたのだが、まあ仕方が無いであろう。今後の課題である。




