第73話「子供たちの受け入れ」
#第73話「子供たちの受け入れ」
(レオン視点です)
今日は父さんと母さんと一緒に孤児院に行くことに。本人たちの意思を含め引き取りに問題がないか確認するためだ。
正直なところ、孤児院へ向かう道中はドキドキして全く落ち着かなかった。
本当に父さんは子供達を引き取ってくれるのだろうか。昨日は問題がなければと条件付きで了承してくれたが、最終判断は今日だ。
祈るような気持ちで孤児院への道を歩いて行く。ほどなくして孤児院に到着した。
呼び鈴を鳴らすと、中から昨日会ったばかりのお姉さんが出てきた。少し疲れているようにも見えるが、きちんとした服装で出迎えてくれた。もしかしたら昨日は寝れなかったのかもしれないな。
「本日は、わざわざお越しいただきありがとうございます」
お姉さんが深々と頭を下げてきた。
そこで父さんが一歩前に出た。
「ヴァルドリック辺境伯家当主、ギルベルトだ。レオンから事情は聞いている。いくつか確認したいことがあるが、よろしいか?」
「はい、もちろんです」
お姉さんは真剣な表情で頷いた。そしてみんなで中に入り、父さんに促されてお姉さんが身の上の話を始めた。
「私はもともと魔法使いとして生計を立てていました。最初は貴族に仕えていたのですが、今は魔道具が普及しており魔法使いが不要。更には平和な状況なので私の出番はあまりありませんでした」
「その状況で給金の引き下げの打診がありました。不満はありましたが、仕事があまりない状況だったので受け入れました。そして何度かの給金の引き下げの後に解雇となったのです。まあ、後になって考えれば私のプライドの高さも問題だったと思います。扱いにくかったことでしょう」
なるほど。お姉さんは魔法使いとして生計を立てていたのか。ならばそれなりに優秀な人だ。なんで孤児院の運営をしていたのだろう?
そう思っていたらお姉さんは続けた。
「その後は簡単な仕事をしながら教会での奉仕活動を続けるうちに、孤児院の手伝いを頼まれました。その後は手伝っているうちに園長をしてほしいとの依頼を受け、それも引き受けました。今から考えるとちょっと安易すぎました」
「多少の蓄えもあったことで昼間は私が仕事をして、人を雇ってなんとか繋いでいたのですが建物の所有者が変わり家賃が必要になったことで一気に苦しくなってしまったのです」
なるほど、もともとそれほど余裕がなかったのだろうね。ぎりぎりでやっているところに家賃が必要になったら厳しくなるのは当然のことだ。
「そこで人を雇うことも難しくなりました。そうなると当然のことですが、私が仕事に出ることも難しくなり、どうにも立ち行かない状況になってしまったのです。そこで更に家賃が倍ということで、もう蓄えも尽き孤児院の運営を断念するしかない状況になってしまいました」
話を聞いて、俺は改めて衝撃を受けた。昨日感じた以上に追い詰められていたのだ。やはり俺は甘い。もっと、しっかりと話を聞いておくべきだった。
そこで父さんは静かに言った。
「最初は孤児院を買い取ることも検討したが無理そうだ。すでに公爵家からの依頼で魔道具屋にすることで話が進んでいる」
「ただ、公爵家としても、もともと孤児院を潰すつもりはなかっただろう。普通の商売の話で、良い物件がないか確認したところに、ここがあったというものだ。まずは公爵家、そして貴族を恨むようなことはないようにして欲しい」
「はい。それはもちろんです。仕方のない話だとは思っています。もともと前の持ち主の善意で無料で貸してもらっていたのです。その状況が続くと考えていたこと自体が甘かったと思います。世間知らずでした」
凄いな、父さん。短い時間でいろいろと調べたらしい。安直に話を進めようとした俺とは大違いだ。
公爵家にも確認したのかもしれない。でも内容は普通の商売の話、それを今更、覆すのも困難な状況。
そこまで、きちんと説明すればお姉さんも納得するだろう。さすが父さんだ。
「そこでだ。レオンは、子供たちを我が領で引き取りたいと言っている。君の考えはどうだ?」
「……是非、お願いしたいです。子供たちだけでも、どうか。お願いします」
迷いはなかった。お姉さんは頭を下げてきた。そこで俺も思わず口を挟んだ。
「父さん、俺からもお願いします!」
父さんはちらりと俺を見る。
その目は冷静だ。
「先ほどの話の内容は私が確認したところと概ね一致している。嘘はなさそうだな」
どうやらお姉さんについても事前に調べていたらしい。これもさすがだ。抜かりはない。
「では、子供たちは我が領で引き取ろう。ただ、子供達も同意しているのかな? 私が言うのもなんだがヴァルドリック領は王都に比べるとかなりの田舎だ。生活は一変する」
「はい。昨日のうちにそうなる可能性については話しております。それについては大丈夫です」
良かった。何とかなりそうだ。少し空気が変わったように感じた。
俺は心の底から安堵した。
「ならば、子供達を乗せる馬車を手配します。一週間ぐらい後に向けて出発するので、そのつもりでお願いしますね」と母さん。
「分かりました。ありがとうございます」
子供たちはヴァルドリック領へ同行することに決まった。馬車も手配してくれるとのことで安心だ。
だが、そこで父さんがお姉さんに聞いた。
「で、君はどうする?」
「え?」
俺も思わず声を上げた。当然一緒に来ると思っていた。だけど、お姉さんは首を振った。
「私は……こちらで働けば何とか生きていけます。どうか、子供たちをお願いします」
子供たちの間に不安が走る。泣き出す子もいた。やはりお姉さんとの別れがつらいのだろう。
俺は我慢できなかった。
「姉さんも一緒に行こうよ!」
「私も一緒に行きたい気持ちはあります。でも私まで行くと迷惑になるでしょう。そこまでお願いすることはできません」
父さんが一瞬、また余計なことを、という顔をしたが構わない。
「父さん、お願いします! お姉さんも一緒に。魔法が使えるとのことなので素晴らしいと思う。うちで雇ってください」
再びお願いモードだ。父さんは少し考え、そして言った。
「ならば君も来るか? 来てくれるなら、共に引き受ける。魔法使いとしてではなく、まずは子供たちの世話役として働いてもらう形になるが」
お姉さんは目を見開き、やがて涙を浮かべた。
「……出来れば、お願いします」
子供たちから歓声が上がった。泣いていた子も、今度は笑いながら泣いているみたいだ。本当に良かったよ。
俺は父さんを見た。やっぱり父さんは偉大だ。
「父さん、ありがとうございます!」
思わず父さんに向かって深々と頭を下げた。良かった、本当に何とかなりそうだ。俺は父さんの子供で良かったよ。




