第67話「今の俺にできること」
#第67話「今の俺にできること」
せっかく孤児院に大量の串焼きを持ってきて、みんなで楽しい時間を過ごしていたというのに台無しにされた。
二人組の男が家賃の取り立てにきやがった。そして今月中に家賃を払わなければ退去とか無茶苦茶なことを言って帰っていった。
悔しい、腹が立つ。本当に理不尽だ。お姉さんはいきなり家賃が必要になって、この三か月は一生懸命にやりくりしたのだろう。それをいきなり二倍。
酷い話だ。子供たちのために懸命に生きている人の頑張りを簡単に無にしようとする。
何とかならないか?
しかし、バックは公爵家らしい。俺も何とかしてやりたいところだけど、こんなのどうしようもない。
一応、俺は辺境伯の息子とは言え、地位でも負けているし、そもそも子供でしかない。
(……これは完全に詰みでは?)
あの様子だと、仮に今月の家賃を払えたとしても、きっと来月にはさらに釣り上げる。追い出すのが前提の話だ。
そして言っていた通りに魔道具屋にするつもりなのだろう。
これはもう俺にどうこうできる話ではない。どうしても無理な話なんだ。
それでも、何かないかといろいろと考えてみた。
そして俺はお姉さんに聞いてみた。
「どこか、子供たちを他に引き取ってくれるところはないの?」
お姉さんはゆっくりと首を振った。
「一人や二人なら……もしかしたら何とかなるかもしれません。でも、二十人となると……とてもではありませんが無理です」
「ですよね……」
だよな。仮に知り合いに裕福な家庭があれば、もしかしたら引き取ってくれるかもしれない。それでも数人が限界だろう。
「他に家賃が安いところで住むところはないの?」
再びお姉さんは首を振った。
「厳しいです。この辺りの家賃は……とても高いのです。二十人が住むところとなると、一金貨でも厳しいですね」
詳しく聞いてみると、王都の家賃事情は辺境とは比べ物にならないほど高額。
二十人も住める建物や部屋を探すとなると、一金貨では到底足りない。少し離れた郊外でも高いらしい。
となるとさっきの話もそこまでひどい話でもないのかもしれないな。
二金貨に値上げしたとしても適正な家賃にする程度の話なのかも。そこまで理不尽でもない話ならば、なおさら何ともできそうにない。
あの二人組も、単なる悪党というよりは、一般的な金の論理で動いているだけなのかもしれない。
「ちなみに、さっきはスラムでも行けとか言われていたけど、そこでは生きていけるの?」
「絶対に無理でしょうね。住むところがない人間が集まる、生存競争が激しい場所です。すぐに食い物にされるだけでしょう」
(やはり無理か、そう考えると俺にできることは……)
考える。
考える。
そして、ふと思いついた。
(それならばいっそ、辺境伯で引き取るのはどうだ?)
うちの領地なら土地は広い。家賃も安い。住む場所ぐらいは何とかなるとは思う。
可能であれば屋敷に住まわせてあげることはできないかな?部屋はたくさん余っている。
……ただし。
住むところが何とかなったとしても食い扶持が問題だ。
二十人分。
それだけの人数になると軽い話ではないよね。
(これは父さんに相談するしかないか)
俺の魔道具の修理で多少はお金が浮いていると言っていた。それで何とかならないか?
いや、無理だ。魔道具を修理しているのは表向きは俺ではない。ライゼンの名義で魔道具の修理をしているのだった。
となると、いきなり子供を二十人引き取ってくださいという話になるのか?かなりきついな。
――これはもう一生のお願い、案件では?
でも、それしか思いつかない。とにかく父さんにお願いするしかない。
俺はお姉さんに言った。
「ヴァルドリック辺境伯って知ってる?」
「ええ……名前だけは」
「そこに行ってみんなが一緒に住むっていうのはどうかな?」
お姉さんが目を見開く。
「うちなら家賃は王都より安いと思うし、食べるものも多少の援助ができるかもしれない」
「……いいのですか?」
期待されても困るので、俺は慌てて首を振った。
「いや、父さんに相談しないと分からないから」
「でも、できるだけ頑張って話をしてみるよ。だから、あまり期待しないで待ってて欲しいんだけど」
お姉さんは深く頭を下げてきた。
「ぜひ……お願いします。子供たちを、どうか……」
子供たちが不安そうにこちらを見る。
「明日、また来るよ」
そう言って俺は孤児院を出た。
俺は王城へ戻りながら考えた。
(どうやって父さんにお願いしよう……)
情に訴える?それとも理詰め?
まあ、どちらも俺には無理な気がする。
となると俺にもできそうな定番は――
(土下座、かな)
前世では慣れたものだった。理不尽に詰めてくる相手には有効な手段だった。土下座をすれば、それ以上は相手は何も言えなくなるからな。そのうちに怒りは静まる。
でも今回は違う。俺からお願いする話だ。
とは言え、土下座でもして、俺の気持ちを率直にぶつけるしかないだろう。あれこれ考えてもおそらくは意味が無い。
そんなことを真剣に考えながら、俺は城へと戻っていった。




