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辺境生まれの小さな天才魔道具師( 旧:辺境伯貴族家の息子、魔道具修理で無双し王女をも救う)【書籍化予定】  作者: まめたろう
2-3章「孤児院騒動」

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第66話「厳しい現実」

#第66話「厳しい現実」


 孤児院に大量の串焼きを持ってきたところまでは良かった。子供たちは笑い、俺も満足。

 いろいろと買い食いできなかったのは少し残念だけど、それは仕方が無い。

 おそらくは俺の善行ポイント爆上がりである。きっとこれからいいことが起きるに違いない。今後の神様の差配を楽しみにしよう。


 そう思っていたのだが……。

 まるで物語のテンプレのように、胡散臭い二人組の男が現れた。


(孤児院に怪しい二人組の男、こういう展開ってよくあるよな……)


 こういう時はたいてい主人公がその理不尽さに対して怒りに燃え、悪党を叩きのめすという展開なんだよね。

 戦って多少不利になったとしても圧倒的チートで一発逆転、もしくは知られざる力の解放なんてのもよくあったような気がする。そして負けた男たちが「おぼえてやがれっ!」とか言って去っていくはずなんだ。


 でも、どう考えても無理だ。俺には……何にもない。

 こんな状況で戦うなんてあり得ない。そしてチートも力の解放もあるはずがない。そもそも戦う勇気さえも無い。ここは逃げ一択だろう。

 どうにか穏便に抜けられないだろうか。もしくは、この男二人組が早く帰ってくれないかな?俺は関係ないよね?

 そう思っていると、お姉さんが震える声で話し始めた。


「前の持ち主の方が……善意でこの建物を貸してくださっていたのです」


「それを、いきなり毎月一金貨だと言われても困ります」


「それでも三か月は何とか支払いました。でも今月から二金貨だなんて……さすがに無理です」


 なるほど、家賃問題か。

 一金貨というと確か前世の10万円相当だったはず。いきなりの家賃としてはきついだろう。しかもそれをさらに二倍にするとは。まあなんとも理不尽だことだ。


 そして俺はその状況をお金を貸す立場で想像した。

 長くいてもらおうと思ったらほんの数か月で家賃をいきなり二倍にすることはないだろう。これならもう追い出しにかかっていると思う方が自然かもしれない。


「せめて当面は……月一金貨で何とかならないでしょうか?」


 お姉さんが必死に頭を下げる。

 だが男は肩をすくめた。

「無理だな。あと数か月後にはここを魔道具の店にする計画が進んでる」


「もう決まってる話なんだよ」


「そんな……では仮に月に二金貨払っても、さらに上げるおつもりですか?」


「さあな。俺たちは上の命令で動いてるだけだ」


 ああ、やっぱり予想通りだ。もう退去させるのが前提の話なんだ。

 そして、上、ね。ということはこの男たちは使いっぱしりかな?それほど大した立場ではない人たちの可能性もあるかも?

 ならばと、俺は少しだけ口を挟んだ。


「でもさ」


 男たちの視線が一斉にこちらへ向いた。


「いきなり倍っておかしくない? 普通、家賃とかって話し合って決めるものじゃないの?」


 これは前世の法律の話だ。

 もちろん、この世界の慣習は知らないから適当だ。でも、もしかしたら、とりあえずこの場だけでも何とかならないかなと思ったんだ。


「……ふん、こざかしいガキだな」


 男の目が細くなる。


「しかも、いい服着てるじゃねえか。どこかの貴族の坊ちゃんか?」


 しまった。やっぱり口出すべきじゃなかったよ。目を付けられてしまった。馬鹿だな俺は……さっきまで逃げようと思っていたのに。どうしてこうなる?俺は鳥頭か!

 そんなことを思っていたら男が話を続けた。


「でも無理だ。俺たちのバックには公爵様がついてる。そんじょそこらの貴族じゃ対抗できねえよ」


「だから法律とかの理屈を言っても無駄だ。諦めな」


 あれま公爵ですか……確かうちよりも上だったはず。なら、すでにもう負け確定では?更に手を出してはいけない理由が増えてしまったよ。


 そこで、お姉さんが震えながら涙声で言った。


「でも子供たちはどうなるのですか? いきなり住むところがなくなってしまいます」


「知らねえよ。スラムにでも行けばいいだろ」


 子供たちがびくりと震える。俺はまだ見たことはないが、おそらくはスラムとかはひどいところなのだろう。子供たちだけだと食べるどころか、生きていくことさえも厳しいかもしれない。


 さらに男はにやりと笑った。


「でもよ、あんたべっぴんだからな」


「体で稼げば、しばらくは何とかなるかもしれねえぜ? いい店を紹介してやろうか?」


「……っ」


 お姉さんの顔が青くなる。

 ああもう最悪、この二人は最低だ。下品にも程がある。

 どうせそのお店で働いたとしてもおそらくは孤児院の維持は無理。なんだかんだ理由を付けて取り上げるだろう。

 俺は拳を握った。


(俺はこういう理不尽が一番嫌いだ。頑張って、その日その日を精いっぱい生きている人たちを……金や権力、そして力でねじ伏せてきやがる)


 だが、今はどうにもできない。俺には何の力もない。そして相手は公爵家だ。俺の家は一応は辺境伯という貴族であるが、それでも勝てない。もう完全に詰んでいる状態だ。歯がゆいが、どうにもできそうにない。


「ともかく今月中だ」


「払うか、出ていくか今月中に決めろ」


「それとも……さっきの店で客を取る話、考えてみるか? くくっ!」


 意味深な笑いを残し、二人は去っていった。扉が閉まる。

 しん、と静まり返る孤児院。

 さっきまでの笑顔は消え、泣き出しそうな子供たちが不安そうにお姉さんを見ている。そりゃそうだろう。

 お姉さんが今月の家賃が払えなかったらスラムに行くことになるかもしれない。


 さっきまで凄く楽しかったのに……

 串焼きの匂いだけが、やけに虚しかった。

 俺は……なんとも無力だ。

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