第65話「買い食いと孤児院」
#第65話「買い食いと孤児院」
王城の応接間で、大人たちがレオンの今後の対応を真剣に検討していたその頃。当の本人レオンと言えば――
王城を出てすぐ近くの公園にいた。目的は当然、売店巡りと買い食いである。
(レオン視点に変わります)
「ふふふ……今日はいろいろ食べられそうだな。楽しみ!」
父さんと母さん、そしてオルドが国王様に呼び出されたらしい。
はて、俺はどうしようと思って、公園に行って買い食いしたいと父さんに言ったらラッキーにもすぐにOKが出た。姉さんも行くかと思ったら城内にいる友達のところに行っているらしい。そう言えば見かけない。ちょっとがっくりだが仕方ない、友達付き合いも大切だろう。
ちなみに俺には友達はまだいない、でもぼっちというわけではないからね。まだ社交デビューしてないだけだから、そこは勘違いしないように。
前世のような失敗はしない……はずた。
ともかく、思ったより多めのお小遣いをもらってホクホクである。これだけあれば、買い食いでかなりの種類を制覇できるはずだ。
俺は父さんからもらったお小遣いを握りしめ公園に出かけた。
まず目に入ったのは、香ばしい匂いを漂わせる串焼き屋台。店主はやや怖そうなおじさんだけど、それも定番だ。
「やっぱり買い食いと言えば串焼き! これは絶対に外せないよね」
値段を見る。
……余裕で買える。大丈夫だ。王都だから値段が心配だったがそこまで高くはない。これならいける。
今日の軍資金なら、十本ぐらいは買える値段。ということで、とりあえず一本購入。
もしおいしかったら、もう1本買うのもありだろう。いや、他のお店を回ってまだ売っていたら購入することにすればいいかな?
やはりいろいろなものを食べたいよな。順番はどうするか?ちょっと悩みどころだ。
肉汁が滴る串焼きを、さあ一口――というところで。
視線を感じた。
ふと気づくと、同じ歳くらいの子供が二人。
じーっと俺が持つ串焼きを見ている……ような気がした。いかにも、ものほしそうな感じだ。
目が合った瞬間、さっと視線を逸らした。
うーん。ちょっと罪悪感。どうしてもこういう時は前世の記憶が強くなる。ライゼンに食べ物を与えた時もそうだった。どうしてもこういう時にほっておくことができないんだよな。
でも徐々に修正していかないと駄目だ。きりがない。無視して食べるぞ!
俺はそうして少しだけ迷った。そして迷いを振り切ったはずだったのだが……出た言葉と行動は、何故か逆だった。
「……食べる?」
串を差し出した。
二人は目を丸くした。びっくりしたのだろう。
「いいの?」
「うん。ほら。あげる二人で食べていいよ」
そう言うと嬉しそうにする。二人、だが受け取ったのにすぐには食べようとしない。何か迷っているようだ。
「食べないの?」
すると、その二人のうちの一人の男の子が小さな声で言ってきた。
「……持って帰って孤児院のみんなにあげてもいい? 自分たちだけで食べるのはずるいから」
「みんな? それって、どういうこと?」
「うん。仲間が二十人くらいいるんだ」
話を聞けば、孤児院には子供が二十人ほど。お腹を空かせている子も多いらしい。
「だから自分たちだけ食べるのは、ちょっと……」
なんとも健気な子たちだ。
俺は屋台のおじさんに向き直った。
「このお金で買えるだけください」
「おお? 坊ちゃん太っ腹だな」
理由を聞かれ、孤児院の子供にあげたいと説明すると――
「お前、いい奴だな、なら、これも持ってけ。今すぐに出せる全部だ」
おまけで二本追加された。
いいおじさんだ。
「ありがとう、おじさんもいい人だね。最初は怖いおじさんだと思ってゴメン」
そういうとおじさんはちょっと鼻をすすりながらやや涙声で言ってくれた。
「まあ、いいってことよ。早く行ってやりな」
こうして三人で串焼きを抱え、とぼとぼ孤児院へ向かった。まあ当たり前だがそこまで遠くない場所に孤児院があった。
しかしそこにあるのは……意外にもそれなりに立派な建物だった。
……あれ?
困窮してるって話じゃなかった?もしかして余計なことしてしまったかも。
ちょっとまずったかなと思ったが、ここまで来て引き返すのもさすがに無理がある。中に入れてもらうと、若い女性とたくさんの子供たちがいた。
どうやらお姉さんが孤児院の園長さんらしい。
お姉さんが困惑しているように見えたので俺は事情を説明した。
「えっと、俺が屋台の串焼きを買って食べようとしたら二人が欲しそうにしてたのであげたんです」
「でも二人とも自分たちだけ食べるのは悪いからって、持ち帰ろうとしたので、その人数を聞いたら二十人もいるとことだったので」
「俺の手持ちで買えるだけ買ってきました。みんなで食べてください。これ、どうぞ!」
一瞬、ぽかんとした後。
「……本当に?」
女性は目を潤ませ、何度も頭を下げた。
「ありがとうございます……本当に……」
申し訳ないぐらい感謝された。結局、一人一本は足りなかったので半分ずつ分け合う形になった。
「おいしー!」
「久しぶりのお肉!」
子供たちの歓声が上がる。
――うん、いいことした気分。俺も半分食べたけどおいしい。良かった、一人で食べるよりも何倍もおいしいよ。
だが。
ちょっと不思議だった。どうにもひっかかる。
建物はちゃんとしている。掃除もまずまず行き届いていると思う。少なくとも荒れている感じではない。
なのに、食べ物に困っている?ちょっと考えづらい状況だ。
その時だった。
がらり、と扉が乱暴に開いた。
二人組の男が入ってくる。
どこか胡散臭い。いや、かなり胡散臭いな。いかにも面倒そうな人たちに見える。
やっちまったかもしれない。トラブル苦手なのに、何でこうなるかな。とりあえず目を合わさないようにしよう。関わらずに帰るべきだ。
「……あー? まだ今月分の家賃、払ってもらってねぇよな?」
その男達が言うと空気が一瞬で凍った。
女性はすぐに子供たちの前に立った。
「お帰りください。今はお客様も来ているので困ります」
明らかに俺を含む子供たちを庇う姿勢。
うーん。
これは。
――トラブルの匂い、面倒なことに巻き込まれそうな予感がする。
俺、今すぐ帰ってもいいかな?別にいいよね?トラブルは大の苦手なんですけど。




