第64話「思わぬ報奨」
#第64話「思わぬ報奨」
王城の応接間ではようやくレオンに関する大まかな方針がまとまった。まあ基本現状維持ではあるのでそれほど難しい話ではない。
ただし、そこに国でトップの宮廷魔道具師のエレンが加わることになる予定だ。更に三か月に一回、エレンはレオンと共に王都に向う必要もある。
そうして、長時間にわたる会議に全員が小さく息を吐いた。
その時だった。
「さて、オルドよ」
国王エドワードの低い声が、静まり返った室内に響いた。
「は、はいっ!」
突然名を呼ばれ、オルドはびくりと肩を跳ねさせた。
もう会議は終了。当然のことながら、自分の話はもう完全に終わったと思っていたのだ。
まさか再び矛先が向くとは思っていなかった。自分の対応に何か問題でもあったのだろうか?その顔は明らかに混乱していた。
エドワードは静かに続けた。
「お主には特別な報奨金を出そうと思う」
「……報奨金、でございますか?」
「うむ。白金貨一枚だ。受け取ってほしい」
その場の空気が一瞬止まった。
――白金貨一枚。
それは、オルドのような庶民にとっては夢のような金額だ。オルドの一年分の給金の実に五倍。人生が変わりそうな額である。
「は……白金貨……」
オルドは喉を鳴らした。だが、すぐに俯きしばし考え込んだ。
そして、ゆっくりと顔を上げて話を始めた。
「申し訳ありません。そのお金は……ギルベルト様にお渡しいただけませんでしょうか」
「ほう? どういうことだ」
エドワードの目が細くなる。まさかの回答にやや戸惑った。報奨金を前にして、それを当主に渡して欲しいなんて言う人間はこれまでにいなかったからだ。
オルドは一歩前に出て頭を下げた。
「レオン坊ちゃんの世話をしているのは、私だけではございません」
「乳母もおります。本を読み聞かせているミーナもおります。他にも坊ちゃんの成長を支えてきた者は我が領に大勢おります」
「私は魔道具の話で付き合ってはおりますが、まず間違いなく私一人の功績ではありません」
室内は静まり返っていた。
「こんなことを申しては怒られそうですが……我が領の財政は苦しく、給金も決して高くはございません。レオン坊ちゃんを育てたのは私だけではありません。その報奨金を私が独り占めするわけには参りません」
「ギルベルト様にお渡しいただければ、きっと皆に差配してくださるでしょう」
ギルベルトは驚き、そして少し誇らしげにオルドを見た。
そしてエドワードは小さく笑った。
「ギルベルトよ。良い使用人を持ったな」
「ありがとうございます。私にはもったいないほどでございます。少ない給金で本当によく働いてくれています」
その言葉にセレナもやや涙ぐみながら頷いた。
「私もそう思います。私達にはもったいないぐらいの使用人です」
エドワードは、オルドの方に向き静かに言った。
「オルドよ、心配には及ばん。ギルベルトには別途、特別に出す。だからこれはお前が受け取れ」
オルドは深く頭を下げた。
「……そういうお話でしたら、ありがたく頂戴いたします」
そしてエドワードは今度はギルベルトを見た。
「ギルベルトよ」
「はい」
「特別に百白金貨出す。それでレオンの研究に必要なものがあれば揃えてやれ」
ギルベルトは目を見開いた。
「百白金貨……ですか?」
「うむ。それと使用人たちへの報奨も含めて百十白金貨出そう。特別報酬として差配せよ」
「ありがたいお話ですが……そこまでよろしいのでしょうか」
「もちろんだ。研究に追加費用が必要であれば別途出すことも検討する。今回のレオンの功績はそれでは足りぬぐらいだ」
エドワードの声は、いつになく柔らかかった。
「経過観察は必要とはいえ……ソフィアの心からの笑顔を見てな。本当は飛び上がりたい気分なのだ。研究の名目ではあるが実質は感謝の気持ちだ」
王妃カタリーナも優しく微笑む。
「私も同じ気持ちです。どうか受け取ってください」
そこへ、勢いよくエレンが手を挙げた。
「足りなければ私からも出します! レオンの研究のためならばお金など惜しくありません!」
「調子に乗るな、エレン」
エドワードの即座の一言で、場が締まった。
「……はい」
しゅんと肩を落とすエレン。
ギルベルトは苦笑した。そしてエレンに語り掛けた。
「では、エレン殿は我が領に来られるのですね。レオンをよろしくお願いします」
ぺこりエレンは頭を下げた。
「いえ、こちらこそお世話になります」
ギルベルトは少し真顔になった。
「ただし……あまり甘やかさないでください。仮に研究目的であったとしてもお金も簡単に渡さぬよう。レオンは調子に乗りますから。必要な場合は必ず私を通してください」
「分かりました……買収しそうになりましたが、注意します」
小さく笑いが起きた。
「まあ、当面はレオンが金を必要とするようなことは無いと思いますけどね。これまでも、せいぜいが買い食いのお金を無心するぐらいでしたから」
ギルベルトのその言葉に、誰も深く考えなかった。
それはそうだろう。三歳の子供がお金を無心することなど普通に考えてあり得ない。
だが――
この時のエドワードは、思ってもいなかった。
公園から戻ってきたレオンが、土下座をして開口一番、
「父さん、お願いがあります。少々、お金が欲しいのですが」
と、真顔で言い出すのを見ることになるとは。
当然のことながら、その場にいる誰一人として想像していなかったことでもある。
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補足)次回、久しぶりにレオンが登場です。主人公を長らくほっといてごめんやで。




