第62話「暴走する宮廷魔道具師」
#第62話「暴走する宮廷魔道具師」
王城の奥まった応接間ではようやく話し合いが一段落しようとしていた。
今後のレオンに対する方針は――基本的に現状維持とする。
その前に、まずはレオンがソフィアをどう思っているのかをそれとなく確認すること。そして、魔道具の修理や開発ができるという異常性については、基本的に秘密とする。
表向きは、オルド以外は何も知らない。
王家もギルベルト夫妻も“知らないふり”を続ける。
そう結論づけられた。
そこでエドワードは、視線をゆっくりと横へ向けた。
「……最後に一つ。エレン、お前はどうしたい?」
急に名を呼ばれ、エレンはびくりと肩を震わせた。だが、考えるより早く口が動いた。
「レオンにすぐに会いたいです! 今すぐに! 話がしたい! 魔道具について語り合いたいです! 彼がヴァルドリック領に帰るならばそのまま付いていきます。そして弟子になります!」
思いつく単語をそのまま並べたような回答だった。
ギルベルトとセレナが目を瞬かせ、オルドは苦笑した。
やはり国でトップクラスの宮廷魔道具師とは言っても、その本質は魔道具オタク。
政治も立場も配慮もない。純粋な自分の欲望のみの回答だった。
エドワードは軽く頭を抱えた。
「……お前は今までの話を聞いていなかったのか? 何のために同席させたと思っているんだ」
「は?」
「他のものがレオンの特異性を知っているのは“まずい”から秘匿しようと、今決めたばかりだろう。お前がいきなり魔道具の修理や開発の話を振ったら設定が崩壊する。だから、自分の願望だけで話をするな、少しは考えて話をしろ!」
「……あ、確かにそうですね」
エレンはエドワード王の話を聞いてようやく少し冷静になった。
確かにそうだ。
自分が知っているのはおかしい。だが――。
「でも、それでは魔道具関連の話ができません……」
エレンは心底困った顔で呟いた。でもそれは仕方がないことだ。何とか知らないふりをして話を聞き出すしかない。そしてそれはかなり難しい話ではある。
部屋に沈黙が落ちた。
そして、しばらくしてオルドがゆっくりと手を挙げた。
「再び、発言よろしいでしょうか」
「ああ、構わぬ」
「エレン様がレオン坊ちゃんの特異性を知っているのは確かにまずいですよね。ならば――最初は私が魔道具生産に携わっていた時の後輩という設定で会っていただいてはどうでしょう」
「ほう? 続けてくれ」
「私は以前、魔道具の製造現場で働いていたことがあります。エレン様はその時の“後輩”とします。そうすれば魔道具についての話をすること自体は問題ないでしょう。もちろんその時点では特異性は知らない設定のままで」
「後は適当な名目を付けてヴァルドリック領に同行していただき、レオン坊ちゃんと自然に接触してもらいます」
ギルベルトが顎に手を当てた。
「なるほど……それならば不自然ではない。何らかの名目は考える必要はあるが、それはなんとでもなりそうだ」
オルドは続けた。
「そして、いきなり魔道具の修理や開発の話はせず、まずは私と同じように基礎知識の話から距離を縮めればいいでしょう。坊ちゃんは魔道具関連の知識に飢えています。エレン様がある程度の知識を与えれば、自然と打ち解けるかと」
エドワードが続きを促した。
「……それで? その後はどうする?」
「頃合いを見て、私から坊ちゃんに“エレン様にも秘密を共有した方がいいでしょう”と伝えます。距離が縮まりエレン様がレオン坊ちゃんにとって必要な状態ならばおそらくはOKをもらえるかと」
理にかなった提案だった。
エドワードは腕を組み、エレンを見た。
「今の提案について、どう思う?」
エレンは即答した。
「それでいいです! レオンと話せるなら何でもします! ヴァルドリック家について行って弟子になります!」
エドワードは額を押さえた。
「待て、エレン」
「また設定を忘れている。お前はレオンの弟子ではなく“オルドの後輩”だ。いきなり弟子になるなどと言い出すな。自ら設定をいきなり壊してどうする。何の話もできずに終わるぞ!」
「あ、そうでした……。すいません」
こうなると、もう不安しかない。誰かが冷静にさせないといけなかった。
そこで王妃のカタリーナが静かに口を開いた。
「エレン。とにかく冷静になりなさい。そうしないとレオンと話をさせることさえも、できません」
「……はい。冷静になります」
エレンは肩を落とした。しかし確かにそれは間違いのない事実。とにかくまずは冷静になろうと心に決めた。
しかし、その目だけは輝いている。完全に獲物を前にした研究者の目だ。
そんな様子のエレンを見ながらエドワードは小さくため息をついた。
「……細かい設定を詰めるぞ」
・エレンはオルドの魔道具生産現場で働いていた頃の後輩という設定とする。
・オルドの許可が出るまではその設定のままでレオンの特異性を知らないふりを続ける。
・その後、エレンはヴァルドリック領に同行。
・オルドがレオンに確認し許可が出たらエレンもオルドと共に秘密を共有する仲間になる。
・それ以降は随時考えることとする。
その設定を聞いてエレンは頷いた。
「はい、これで問題ありません」
「しかしエレン、他の研究はいいのか? ヴァルドリック領に行くとなると、いくつかはストップすることになるだろう?」
「そんなものは別にどうでもいいです。今、私に必要なのはレオンとの会話ですので」
そのエレンの答えにエドワードは軽くめまいを覚えつつも仕方がないかと諦めた。
あとはエレンのいないしばらくの間をどう埋めるか?という問題はあるが、それは王家の方で考えればいいだろう。
エレンの宮廷魔道具師としての知識が高まるのであれば王家としてもそれはありがたいこと。基本的にはエレンがヴァルドリック領に行くことを推奨する立場をとることにした。




