第61話「秘匿とされた才能」
#第61話「秘匿とされた才能」
国王エドワードと王妃カタリーナは、レオンの行動によってソフィアの体調が回復したこと、さらにはソフィアが婚約、結婚をしたがっていることをレオンの父ギルベルトと母セレナ、そしてオルドに説明した。
そしてレオンの気持ちをそれとなく確認して欲しいと伝えた。その結果によってはソフィアの婚約話の方向性も変わる。レオンの考えを聞いた上で、随時考えていこうということになった。
しかしまだ、案件が残っている。
エドワードが姿勢を正したことでこの場の空気が、少しだけ重たくなった。
「……さて、もう一つ。こちらの方が、ややこしい」
「レオンは――親のギルベルト、セレナにも、自分が魔道具を修理・開発できることを隠しているそうだな」
ギルベルトとセレナはうなずいた。
「はい。レオンは“ライゼンが作った”と私たちに説明しています。私たちもオルドから報告を受け、知ってはいますが現状では知らぬふりをしています」
「なるほど。つまり、レオンから見れば秘密を知っているのは――この場では、オルドだけということか」
オルドは頭を下げた。
「はい。その通りです。レオン坊ちゃんから直接、話を聞きました。ですが、ギルベルト様、セレナ様には秘密にして欲しいと頼まれました」
「あと、私以外には、ここにはおりませんがライゼンが知っていると言えば知っていますね。ただし彼は魔道具については完全に素人なので、その重要性は理解していないと思います」
その言葉にエドワードは一度腕を組み、少し考え込んだ。
「本来なら、すべてレオンの秘密はバレていると伝えて真実を共有した方がいいのかもしれん。だが、それではレオンの心を折る危険もあるよな」
「そうですね。私達も年少の本人がショックを受けるリスクを考えました。それで知らないふりを続けてきました」とギルベルトが答えた。
エドワードは少し考え込み、ゆっくりと目を開けた。
「これはあくまでも私の考えだが、下手に秘密を暴けば、レオンは自分の殻に閉じこもり逆に才能を潰してしまう可能性もあると思う。今はまだ、知らぬふりをして自由に伸ばしてやった方がいいのではと考えているのだが」
「お前達はどう思う?」
沈黙が落ちた。
ギルベルトもセレナも、確定的なことは言えない。自分の息子ではあるものの、どちらが良いのか断言できないでいた。
しかし、その時にオルドが言及した。
「発言、よろしいでしょうか」
「うむ、構わぬ」
「私は……知らないふりを続けた方が良いと思います。レオン坊ちゃんは、ギルベルト様やセレナ様に知られることさえ恐れていました」
「確かに過去に例を見ない天才ですが、感情の部分はまだまだ子供だと思います。せっかく伸びている才能を潰してしまう可能性を考えたら知らぬふりを続けた方がいいと愚考します」
ギルベルトはうなずいた。
「……確かに、その通りかもしれません。我が家でも気付かぬふりを続けてきました。そのおかげで、あの子は安心して魔道具を扱えたのかもしれません」
再び、沈黙が流れた。
現実問題として誰も断言できない。
やがてエドワードが小さく息を吐いて言及した。誰もが断言できないなら王が決めるしかない。
「……分かった。では、今のままの体制でいこう。レオンの秘密を知るのは表向き、当面オルドとライゼンとやらのみとしよう」
「はい。ありがとうございます」
オルドが深く頭を下げた。
「そして、我々王家とギルベルト夫妻は、“魔道具はライゼンが作った”という表向きの設定を維持しよう」
「了解しました」ギルベルトが答えた。
セレナも静かに頷いた。
「それが一番だと思います」
とエドワードは話を続けた。
「それともう1つ。レオンの“才能”をどこまで秘密にするか。これは王家の中でも慎重に扱わねばならないと考えている」
そこで王妃のカタリーナが口を開いた。
「少なくとも公爵家に知られるのは避けなければならないでしょう。公爵家にとっては魔道具の修理も新しい開発も脅威です」
「彼の存在が知られれば、取り込みや国外への誘拐、そして最悪のケースでは暗殺のリスクすらもあり得ます。となれば秘密はこの場にいるもののみに限定すべきでしょう」
「そうですね」
ギルベルトとしても、それは既に考えていたことだ。
そしてカタリーナは続けた。
「ですから、基本的にはレオンの才能はこのまま“秘匿”とします。誰にも秘密を漏らさないと言う方向で。それはヴァルドリック家でも徹底してください」
「分かりました」とギルベルト。
カタリーナは更に続けた。
「そして、どうしてもバレそうな時はすべてライゼンの名前を使いましょう。魔道具の修理も開発も全てライゼンがやったということで通しましょう」
「承知しました。それも基本的には現状維持ですね。我が家でも徹底いたします」ギルベルトは深く頭を下げた。
一応の方針が決まった形だ。
「では――最後の件に移ろうか」
その瞬間、空気が少し緩んだ。
「エレン」とエドワードが声を掛けた。
「はいっ!」勢いよく答える宮廷魔道具師のエレン。
「お前は、どうしたい?」
――レオンという存在を知って以来、ずっと話をしたくてたまらなかった彼女に、ようやく発言の機会が訪れた。




