第60話「レオンと王女の指輪」
#第60話「レオンと王女の指輪」
国王エドワードと王妃カタリーナはレオンの魔道具、そして彼の突拍子もない行動によって娘のソフィアが救われたことをギルベルト、セレナ、オルドに感謝した。
そして更に、レオンについていくつか確認すべき点があると言及した。
その後は、その声色がわずかに硬くなった。
「まず……ソフィアのことだが、レオンに命を救われたということもあってな……」
言いにくそうに言葉を濁したところで、カタリーナが柔らかく言葉を継いだ。まあ男親にとっては言いにくい話ではあった。
「ソフィアは――レオンのことを、たいへん慕っております。もう“婚約者になった”と浮かれておりまして……」
「婚約者?」
カタリーナの話を聞いてセレナの声が裏返った。ギルベルトも思わず目を見開いた。
レオンがソフィアの命を救ったというところまでは理解した。ただし、何でそこから婚約者に辿り着くのかさっぱり意味が分からない。
「すいません。何で婚約者という話に? そもそも先ほどの話ではレオンは変装をしてレイゼンという偽名を使ってソフィア様に魔道具を渡したのですよね。もしかしてソフィア様はそれを分かってらしたのですか?」とセレナは尋ねた。
カタリーナはその設定の話もあったことを思い出して話を始めた。
「ええ、その変装と偽名はすぐにソフィアにばれたみたいです。ですがソフィアは騙されたふりをしてレオンと接したようです。一方のレオンはバレていないと思っていたようです」
その話にギルベルトとセレナ、オルドは頭を抱えた。まただ。レオンは頭がいいのに、何故かその辺りの秘密にする設定については、がばがばのゆるゆる。どうにも理解がしがたい。
「そして、レオンは二つの魔道具をソフィアに渡したのです。そのうちの一つが腕輪型――そしてもう一つが指輪型でした」
「指輪……?」
それを聞いてセレナは嫌な予感がした。
「はい。そして、それをソフィアの左手の人差し指にはめてあげたのです」
「えぇ……」
セレナは絶句した。まさか三歳の息子が、王女に指輪を……早くもプロポーズしたのだろうか?いや、まさか?
その場にいるギルベルト、オルドも同様に困惑していた。
そこでカタリーナは続けた。
「ただし、問題はその意味です。レオンは“左手の人差し指”の指輪の意味を知っていますか?」
セレナは小さく首を振った。
「……おそらく知りません。あの子はまだ恋愛ごとには興味もないでしょう。本はたくさん読んでいますが、それは魔道具関連のものばかり」
「やはりそうですか。ソフィアに頼まれ、意味も知らずに指輪の魔道具を付けてあげた可能性が高いですね」
「まさかそんな……」
セレナは頭を抱えた。親しい女の子にならばまだぎりぎり分かるかもしれない。
しかしソフィアには昨日に初めて会ったばかり。知り合った夜にいきなり部屋にしのびこんで、すぐに婚約指輪を渡す?
とんでもないスピード記録だ。プレイボーイも真っ青、年齢も考慮に入れたらギネス記録ものだ。
しかしそこまでの行動をしたにも関わらず、その意味を本人が分かっていない可能性が高いということで、本当にありえない状況だった。
だが、エドワードは穏やかに微笑んだ。
「まあ、いいだろう。若いとはそういうものだ」
その場にいる誰もが「いや、それはおかしい。若いということで済ませるべき話ではない」とは思っていたが、王の言及だ。とりあえずは反論せずに聞き流した。
「とはいえ……この件は放っておくわけにもいかない。そこでお願いしたいのだ。まずはレオンの“気持ち”をそれとなく確認してもらえないか」
ギルベルトはその言葉を反芻した。
「気持ち、ですか?」
エドワードは続けた。
「うむ。ソフィアの話ぶりと今のレオンが恋愛に疎いという話から考えると、一方通行の可能性が高そうだ。ただ、それも推測にすぎない。レオンがソフィアについてどう思っているのか?それをまずは確認しておきたい」
「なるほど。そういうことでしたか」とギルベルトは答えた。そしてしばらく沈黙が流れた。
その後はカタリーナが補足するように口を開いた。
「率直に言いまして、世間一般ではソフィアの婚約者候補はすでに公爵家の子息二人のいずれかに絞られていると見られております」
「承知しております。我が家は世間的にはすでに脱落した扱いです。それはレオンにも伝えております」ごギルベルト。
そこでカタリーナは話を続けた。
「ですが、ソフィアは完全に“レオンと婚約し、いずれ結婚する”つもりでいます。そして私、個人としてはその気持ちも尊重してあげたい」
「なっ……」セレナは息を呑んだ。
ようやく話の全体像は理解できた。しかし、まさかそんな展開になるとは思ってもいなかった。
もう脱落していると気軽に考えていたところに王家からいきなりの打診を受けたようなものだ。困惑するしかない。
カタリーナは再び話を始めた。
「もちろん、ソフィアにも伝えています。世間的にはレオンは婚約者レースから外れている、と。だからいまのままでは婚約は無理だと」
「ですが、“あなたが努力し、世間に認められるほどの存在になれば、それを覆せる”とも伝えました」
「つまり、ソフィアの成長を促す意味で、レオンの存在を利用している形になります。その点は――申し訳ないのですが」
「いえ、王女様のためであれば、謝られることではありません」ギルベルトが静かに答えた。
エドワードは深く頷いた。
「ただし、そこで問題だ。もしレオンに全くその気がない場合は話がややこしい。だからこそ、早いうちにレオンの気持ちを確かめてほしい」
「分かりました。その程度ならば、すぐにでも」ギルベルトが答えた。
オルドも続いた。
「私からも、それとなく聞いてみます。王女様が魔道具を持っているがどういうことかと話題にすれば、自然に聞き出せるかと」
エドワードは満足そうに頷いた。
「頼んだ。……さて、これで一つ目の話は終わりだ。レオンの気持ちが分かったら随時、対応を考えよう」
そして、王の声はすぐに続いた。
「次に――もう一つ、確認せねばならぬことがある。」
「もう一つ?」ギルベルトが首をかしげる。
「うむ。レオンの天才的な才能をどこまで秘密にすべきか――その扱いについてだ。レオンはお前たちにも秘密にしているのだよな」
そのエドワードの言葉に再び沈黙が続いた。そう、レオンのその辺りの設定は面倒くさいのである。




