第58話「再度の会談」
#第58話「再度の会談」
王女ソフィアの体調は、レオンの作った魔道具によって劇的に回復した。
――信じられない。だが、それが現実だった。副作用もなく、顔色も血色も明らかに良くなっている。奇跡と呼んでもいい。
とはいえ、国王エドワードと王妃カタリーナは手放しで喜んでいるわけにはいけない。
この奇跡の裏には、あまりにも多くの“確認すべきこと”がある。ただの魔道具ではない。王国の均衡を揺るがしかねない大発明なのだ。その魔道具の取扱い、そしてレオンについて今後の方向性を考えていく必要がある。
そこで二人は、王城の一室にいるヴァルドリック辺境伯ギルベルトに使者を送り呼び出した。
使者が伝えたのは短い言葉だった。
「レオンの魔道具について、至急詳しく聞きたい。ただしレオン本人は連れてこないように」
呼び出しを受けたギルベルトはやや不思議に思いながらもすぐに妻セレナと共に指定された応接間へ向かった。
ただ魔道具のこととなると自分たちには分からない部分が多い。
そこで、レオンの魔道具開発などの協力者であるオルドを同行させることにした。オルドはレオンが“天才的な魔道具の修理・開発を行っている”という秘密を唯一共有する存在だ。
もちろんギルベルトもセレナもオルドから聞いて確認はしているが、レオン本人は親には秘密にしているつもりなのだ。ややこしい話ではあるが子供が思い付くことだとして今は全てをオルドに任せている状況。
ちなみに現在のオルドは屋敷の料理人として働いているが、かつて魔道具の製造現場に勤めていた経験を持つ男、レオンの良い相談役になっている。
ギルベルト、セレナ、オルドが案内されたのは王城の奥まった応接間だ。昨日のヴァルドリックの財政問題などを議論した時と同じ場所。
その空間には、すでに国王エドワード、王妃カタリーナ、宮廷魔道具師エレン、そして専属医が待っていた。
そこにギルベルト、セレナ、オルドが加わり、全員で七人となった。
ギルベルトとセレナは顔を見合わせた。
(昨日、王家と財政問題などについて長時間話し合ったばかりなのに……何かあったのか?)
不安を押し殺しながら、静かに王の言葉を待った。
エドワードがゆっくりと口を開く。
「急に呼び立ててすまない。だが、レオンの作った魔道具についてなど、いくつか確認したいことがある。そして今後の方針を決めたい」
そして、エドワードはギルベルトの隣に座る男へと視線を向けた。
「まずはそこにいる人物を紹介してもらおうか?」
エドワードに促され、ギルベルトは説明した。
「はい。うちの料理人オルドです。魔道具に関する話と聞きましたので、唯一レオンの魔道具関連の相談に乗っている彼を連れてきました」
「昨日、説明したように私とセレナはレオンが魔道具の修理や開発ができることを知らないことになっています。レオンにとっては唯一、オルドだけが全てを知っていることになっています。そしてレオンは私達にはライゼンが作ったと説明しています」
「また、オルドは以前、魔道具製造の現場で働いており、レオンには魔道具の基本的な知識について助言しています」
「なるほど。それは丁度よい。良い人間を連れてきてくれた。ありがとう」
エドワードは満足げに頷いた。
そしてエドワードはオルドに問いかけた。
「オルドとやら、レオンに助言しているそうだな。そなたは彼より魔道具に詳しいのか?」
オルドは一瞬で顔をこわばらせた。
「い、いえっ! 滅相もありません!」
そして慌てて手を振って答えた。
「レオン坊ちゃんは魔道具の修理や開発をこなすとんでもない大天才です。私など坊ちゃんの足元にも及びません。ただ……魔道具について基礎的なことを知らないことは多いので、昔の魔道具製造現場にいた経験をもとに少し助言をしているだけです」
その言葉を聞くやいなや、宮廷魔道具師エレンが勢いよく前のめりになった。
「開発や修理ができる? それはやはり本当だったのか? そんな少年がいるならぜひ紹介してほしい! そもそも、どんな理論で――!」
「エレン、落ち着け」
エドワードの一言で、室内の空気がぴたりと止まった。
「まずは話を聞け。お前の質問は後からだ。今は私が質問した時だけ回答するように」
「……は、はい」
エレンは肩を落とした。だがその瞳は、好奇心の炎を抑えきれていなかった。まあ宮廷魔道具師とは言っても本質は魔道具オタクだから仕方がないのだ。
そしてエドワードは続けた。
「なるほど。つまりオルドは、レオンの良き相談役、助言者というわけだな」
「おこがましいですが、はい、まあ言うなればそんなところです」
「そうか。ならば、まずは礼を言わせてもらおう」
エドワードの静かな声に、王妃カタリーナも軽く頭を下げた。
「……えっ? 陛下、王妃様が、私に?」
オルドは大混乱だった。
ただの料理人が王と王妃がいる場にいること自体がおかしい。何で自分がこんなところにいるのだと、すでに混乱しているところだった。
そこで更に王と王妃が自分に頭を下げてきた――あり得ない光景だ。一応は冷静を装っているが頭の中は大混乱。自分は夢でも見ているのか?という気持ちだった。
「い、いえ! 私は何も……!」
必死に手を振るが、エドワードは微笑を浮かべたまま言った。
「そうだな。私たちが礼をする理由が何も分からないと混乱するよな。詳しく説明しよう。順を追ってな」
そうしてエドワードは、昨日にレオンがしでかしたことについて説明を始めたのだった。




