第53話「医師の推測」
#第53話「医師の推測」
ソフィアは自分の体調が良くなった理由をその場にいる全員に語った。
――レオンが持ってきてくれた“魔道具”によって回復したのだと。
その言葉に、エドワード王もカタリーナ王妃も言葉を失った。医療用の魔道具など、これまで聞いたことがなかったからだ。
魔道具は基本的に照明や水生成器など便利な生活道具だ。その他の用途で言えば魔力を測定したり、戦闘に用いる程度。
少なくとも病を癒すものではない――それがこの世界の常識だった。
エドワードがソフィアの体調が良くなった理由について専属医に聞くと、専属医は少し考えソフィアに魔道具を貸してほしいと願い出た。
そして腕輪型の魔道具を装着した瞬間――専属医は目を見開いた。
「……これは……!」
専属医はソフィアに腕輪型の魔道具を返して語り始めた。
「大前提がはっきりしました。私自身が装着して確信しました。体から何かが吸い上げられる感覚を確かに感じます。間違いありません。これは“体から魔力を吸い出す魔道具”で間違いないでしょう」
専属医は深呼吸して言葉を続けた。しかし、興奮してどうしても早口となってしまう。
「先ほども申しましたように、人の魔力を吸い出すという魔道具は過去の文献でその存在が示唆されていたのみです。その設計図などは見つかっておらず、おそらくは過去の人が作ることができればおもしろいと想像しただけだろうと推測されてきました。当然のことながら実物は確認されず“幻の魔道具”として伝説とされていました。まさか本当に存在していたとは……」
「しかし、この魔道具の本来の用途は、人の体内の魔力を吸い上げ魔石に魔力を充填させるという話だったはず」
「医療用に用いるなんて話はおそらく過去の文献をあたっても出てこないかと。私も聞いたことがありません。そもそも存在さえも怪しまれていたものですから」
専属医はソフィアに返した腕輪型の魔道具を見つめながら震える声で言った。
「これは……とにかく、とんでもない代物です。伝説の魔道具、私ではその価値を測ることすらできません」
「まあ、レオンはそんな凄いものを私に渡してくれたんですか?」
ソフィアの、のんびりした一言に場の空気が一瞬だけ和らいだ。皆、呆れつつも思わず微笑んでしまう。
だが、次の瞬間には現実に引き戻された。専属医の話から考えると、その魔道具は途方もない意味、そして価値を持つ。
過去のどの文献にも製造方法などの詳細が載っていない魔道具――
もしそれが本当にレオンによってもたらされたのであれば、王国全体の魔道具の技術体系を覆す大発明だ。
更には魔力の多い人間を救う奇跡、医療の大革命にもなり得る。
沈黙の中、専属医が再び口を開いた。
「この魔道具でソフィア様の体調が改善した理由、あくまで推測ではありますが……二つ考えられます」
「一つ目は、単純な話です。体内の魔力を吸い上げ、魔力の暴走を抑えたという仮説です。魔力が多すぎる場合、体内の魔力の流れが乱れ暴れまくり、脈拍が上がり臓器や神経に負担を与えるとされています。その魔力量を減らせば、身体の均衡が保たれる。これは理屈としては分かりやすい」
「とは言え、それだけでは説明がつかないと思います。体内の魔力を減らした程度で、これほど劇的な回復が起きるとは考えにくい。過去にも魔法を使わせることで体内の魔力を減らす治療法は考えられ、様々な形で実行され試されてきましたが、ほぼ効果はありませんでした。逆に体調を更に崩す事例の方が多かった」
専属医は少し考え続けた。
「二つ目の理由として考えられるのは――この魔道具を通して体に“魔力の存在を自覚させた”ということです。私もこの腕輪型の魔道具を使うことによって体内の魔力を自覚することができました。使用者の体が自らの魔力を確認したことで、無意識下でその流れを整えるように制御した可能性があります。つまりこの魔道具は“魔力を抜く”と同時に、“魔力を整える”ものなのかもしれません」
「この二つの効果がうまく組み合わさって効果が出たのだと推測します」
エドワードは深くうなずいた。
「なるほどな……つまり、病を治すというより、体に魔力の存在を自覚させ、体内の乱れを正したという感じか?」
「表現は難しいのですが、その通りだと思います。とはいえ現時点で考えられる仮説、推測であり断言はできませんが」
「そして病状についてですが……急激に回復したとは言え今後も経過観察が必要でしょう。副作用の心配もあります」
「副作用か、それは怖いな」とエドワードは厳しい表情をした。
「とは言え現時点では副作用は何も確認されていません。まだ、はっきりとは言えませんが極めて良好と言えるでしょう。もし仮にこのまま体調が良いままであれば魔道具革命だけではなく医療革命とも言えます」
その言葉にエドワードとカタリーナは大きく息を吐いた。この世界では“薬には必ず代償がある”のが常識だ。
様々な種類の薬があるが、強い薬ほど命を削る可能性がある。だがこの魔道具は効果があるのに関わらず現時点では副作用が確認されていない。良いこと尽くしである。
まさしく奇跡に等しかった。あくまでも現時点でという条件付きではあるが希望しかない状況だ。
少し場が落ち着いたところで、
カタリーナはふと気づいた。ソフィアが左手の人差し指を、まるで宝物のように見つめていることを。
「まあ、ソフィア……その指輪型の魔道具、とても大事そうにしているのね?」
その言葉にソフィアは、ぱっと顔を赤くした。その仕草を見て、エドワードとカタリーナは思わず顔を見合わせた。
そして、その瞬間にその場にいる誰もが気が付いた。ソフィアがその指輪にただならぬ思いを感じているということを。左手の人差し指にしているのがその証拠とも言える。
そしてソフィアは先ほどまではレオンから魔道具をもらったことは秘密にしたいと頑なに話をすることを拒んでいたにも関わらず……
今度は何故か……特に聞かれてもいないのにその指輪をもらった時のことを饒舌に語り始めた。
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注)次回、ラブコメ。いわゆるコメディ要素が出てきます。苦手な方は予めご了承いただきたく。




