第52話「魔道具の真価とは?」
#第52話「魔道具の真価とは?」
専属医から「ソフィア様の容態が回復しました」と聞かされたとき、エドワード王はまったく信じられなかった。
今までどんな治療を施しても回復の兆しさえなかった。魔力過多によって脈拍が高く、心臓や神経系に負担がかかりすぎている――
それがソフィアの病だった。
だが実際に確認すると、ソフィアは――自分でドアを開け、そして立っていた。それは奇跡のような光景だった。
いつも午前中はベッドで寝ているはずのソフィアが立っている。
エドワードもカタリーナも、ただ呆然と見つめるしかなかった。
だが喜びと同時に問うべきことがある。
――なぜ回復したのか。
はじめ、ソフィアは言いたくなさそうに俯いていた。けれどカタリーナの説得もありその理由を少しずつ語り始めた。
「昨日の夜、眠ろうとしたときに……この腕輪と指輪をレオンが持ってきてくれたんです。彼は“魔道具”だと言っていました」
「――何だと? レオン? ギルバートの息子のことか?」
「はい。そうです。昨日お会いしたレオンです」
その時、エドワードの眉が動いた。そして衛兵に視線を向けると、衛兵はすぐに跪いて答えた。
「はっ。不審者が現れたため一度は排除を考えました。ですが、ソフィア様が『あの時の』と口にされたので、知り合いと判断し、気配を消して見守っておりました」
レオンは知らなかった。ソフィアの部屋には常に護衛らが隠れていた。下手をすれば一歩踏み違えた瞬間に斬られていたことだろう。
――まさに紙一重。
三歳児のあまりにも無鉄砲な行動だった。ソフィアが『あの時の』と言わなければもうレオンはこの世にいなかったかもしれない。
このことを知れば、きっとギルバートとセレナは腰を抜かすだろう。
そしてソフィアは思い出すように、そして幸せそうに両手を胸にあて語り始めた。
「レオンにはお姉様がいますよね。そのお姉さまも魔力量が多く体調を崩すことがあったようです。でもこの魔道具を使うことで体調が良くなったそうで。それをわざわざ私のためだけに持ってきてくれたんです」
そこまでは幸せそうに語っていたがソフィアの瞳は少し切なげに変わった。
「でも、彼は……理由は分かりませんが、この魔道具のことを秘密にしたいようでした。下手な変装をして、“ライゼンという人の弟子・レイゼン”という偽名まで使っていました」
「でも私のために危険を冒してまで助けに来てくれた――その気持ちを裏切りたくありません。だからこの魔道具、そして何よりもレオンのことは秘密にしてほしいのです」
そう言って、ソフィアは小さく頭を下げた。
エドワードとカタリーナは顔を見合わせた。あまりに唐突で、そして信じがたい話だった。いろいろと意味が分からない。
レオンが魔道具の開発・修理ができる――
その話は以前、レオンの父であるギルバートから聞いていた。だがエドワードは冗談か誇張だと思っていたのだ。
しかしソフィアの話を聞く限りは本当の可能性がありそうだ。もしかしたらレオンは本当に新しい魔道具の開発ができるのかもしれない。
しかし、それが真実だとしてもおかしい。
「三歳の子供が作った魔道具が、誰も治せなかった王女の病を癒やした?」どう考えても理解が追い付かない。
そもそもだ。世の中には多数の魔道具があるが、医療用の魔道具など聞いたことがない。
その一方で子供じみた変装と偽名?
あまりにもアンバランスだ。とんでもない魔道具を作る天才的な才能を持つ一方で、その設定はソフィアが一目見てすぐに分かるほどにがばがば。
とんでもなく凄いところと子供じみたところがある少年レオン。考えれば考えるほどに、もう混乱するしかない状況だった。
しかし――その魔道具が本当に効果を発揮している以上、笑い飛ばすこともできない。
そこで思わずエドワードはソフィアに尋ねた。
「ソフィア、その魔道具とはどんな仕組みなんだ? なんで体調が良くなるんだ」
ソフィアは手元の指輪と腕輪を見つめながら答えた。
「詳しくは分かりません。でも、レオンによると、体の中から魔力を吸い出して、魔石に移す仕組みだそうです」
「……魔力を吸い出す?」
エドワードは眉を寄せた。
「それで体調が良くなる理由が、まったく分からないな」
そこでエドワードは専属医に尋ねた。
「今のソフィアの話で何か分かるか? 魔道具で体調が良くなる意味がさっぱり分からない」
そこで専属医はしばらく考えた。そして1つの結論を出したようだ。
「陛下、はっきりと断言はできません。しかし推測することは可能です」
その場の空気が一気に静まり返る。専属医は続けた。
「まず体の魔力を吸い上げる魔道具について。それは過去の文献に出ています。ただし医療用に使われたという話は聞いたことがありません」
「また、体の魔力を吸い上げる魔道具の存在は文献にあるだけでその仕組みは全く分かっていません。過去の人が作りたいと思っていたであろう想像上の、幻の魔道具とされています」
「よって現存はしていないはず……です。いや、今回それが出てきたからには今までは存在していなかったと申し上げた方がいいのでしょうか?」
「その存在しない魔道具をレオンが作り上げたというのか?」とエドワード。
「その本人か、それとも周りの大人が作ったのか、それともどこからか発見されたのか?私には何も分かりません」
まあ、それはそうだ。専属医は何も知らない。分かっているのは、ソフィアが持っているのがその幻の魔道具かもしれないという事実のみ。そこで専属医はソフィアにお願いをした。自分が使えば何か分かるかもしれない。
「すいません。ソフィア様、その魔道具を貸していただけないでしょうか。少しだけ私にも使わせてください。そうすれば何か分かるかもしれません」
もちろんソフィアとしてはせっかくレオンから借りた魔道具を貸したくなどなかった。
しかし今の雰囲気的に貸さないわけにはいかないと判断。そうして、少し悲しげに腕輪型の魔道具だけを専属医に渡した。しかし指輪型については隠すようにしていた。これだけは譲れないとばかりに。
そうして、その腕輪型の魔道具を付けて専属医は目を見開いた。そしてソフィアに返した後に体調が回復した原因についての考察、推測を語り始めたのだった。




