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辺境生まれの小さな天才魔道具師( 旧:辺境伯貴族家の息子、魔道具修理で無双し王女をも救う)【書籍化予定】  作者: まめたろう
2-2章「王女との出会いとやらかし」

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第50話「王女の容態の急変」

#第50話「王女の容態の急変」


 翌朝、王都の空気はまだ静まり返っていた。しかし、その静寂を切り裂くように、王城の一角で慌ただしい足音が響き渡った。

 本来、王城で走り回るのはあり得ない。それほどに大きなことが起きていると誰もが察した。

 そして、中にはその走り回る人物を見て覚悟をするものもいた。

 とうとう、その時が来てしまったのだろうと。王城内には事情を知っている人間もいるのだ。


「陛下っ!王妃様っ! 大変です! ソフィア様に大変なことが起きています!」


 王女ソフィアの専属医が息を切らせて駆け込んできたのだ。

 その様子に書類を整理していたエドワード王とカタリーナ王妃は、顔を見合わせた。


 ――また発作か。

 何度も経験してきた専属医からの“最悪の呼び出し”。

 その瞬間、ふたりは互いに覚悟を決め深呼吸した。いつ何時でも王と王妃には落ち着き求められるのだ。

 

 エドワードは動揺を悟られないようにと、意識して低く声を出した。しかしその声は明らかに震えていた。

「どうした、何があった? またソフィアの発作か? もう、さすがに厳しいのか」

 

 王妃カタリーナはすぐに夫の腕を取り、落ち着いた声で言う。

「あなた、まずは話をしっかりと聞きましょう。慌ててはなりません」


「ああ、分かった」


 王妃の声でやや落ち着きを取り戻した――それでも、胸の奥がざわつく。王として冷静であろうとすればするほど、父としての不安が押し寄せてくる。


 もし今日がその日だったら。もし、もう二度と娘が笑わなかったら。どうしても最悪のケースが思い描かれた。


 そしてエドワードの頭の中では、次々と想定が浮かんでは消えていった。

 合同魔力測定の中止、情報の伝達、王国への影響……

 親としては娘の容態だけを気にするべきだろう。しかしその後のことも考えなければいけない。冷たいように思えるがそれが王という立場の現実だった。


 この場で最も落ち着いていないのはエドワードであったが、何とか専属医に問いかけた。

「落ち着け。……ソフィアに、何があった?」


 問いかけると、専属医は肩で息をしながら答えた。

「ソ、ソフィア様の容態が……!」


 その一言に、二人の心臓が一瞬止まりそうになった。しかし、次に続いた言葉は――予想とはまるで正反対のものだった。


「回復しています!」


「「……は?」」


 二人共に思わず間抜けな声が漏れた。

 エドワードもカタリーナも、一瞬何を言われたのか理解できなかった。いったいソフィアに何があった?何が起きた?自分は夢でも見ているのか?


 「ど、どういうことだ?」

 エドワードが身を乗り出して専属医に問いかけた。先ほどまでは落ち着いた対応を心がけていたが、もうそんな自分に課した設定を忘れてしまった。


 エドワードからはいつもの落ち着きは完全に消えた。そして次から次へと質問を重ねていった。

「どういうことだ! 昨日まではいつ発作が起きてもおかしくない状態だったと聞いている。脈拍も高く、体力も限界だったはずだ。治療法もないと聞いている。それが回復? 何か新しい治療でも始めたのか? 何が起きたのだ!」


 そのエドワードの迫力に押されながらも専属医は必死に首を振った。

「い、いえ……特別な処置は何もしておりません。ただ……」


 エドワードからは完全に落ち着きは消えた。そして専属医に続きを促した。

「ただ? 何があった? 早く言え!」


「本日、朝の診察に伺った際、明らかに顔色が良く、本人も“体が軽い”と申されまして。気になって脈拍を測定しましたところ……一般の人よりはやや高いもののほぼ正常値。昨日までの数値が嘘のようでして。そして何度測っても同じでした。測定した私自身が信じられません」


 「脈拍が……正常?」

 エドワードは思わず息を呑んだ。

 それは、これまでどんな薬も治療もそして宗教などの儀式も成し得なかった奇跡だった。高額な万能薬と言われるものも試したが一切変化はなかったのだ。

 確かに脈拍が安定さえすれば心臓などへの負担も減り本人も楽になるだろうという話は聞いていた。しかし何をしても無駄だったのだ。様々な治療法を聞き期待しては裏切られ続けていたのだ。

 全く理解ができない。何が起きたというのか?


「で、であれば何かしらの変化があったはずだ。ソフィアは何かをしたのか? 他に変化は?」


「それを尋ねたのですが……“言えません”と」


「言えない? それはどういうことだ?」

 

 カタリーナの眉がぴくりと動いた。ソフィアは何かを隠しているようだ。

「医師にまで秘密とは、どういうことかしら? 何かとんでもない秘密があるというのでしょうか」


「はい。ただ一つだけ、気になることがございます」

 専属医は少し逡巡してから口を開いた。


「ソフィア様が、腕輪と指輪のようなものを身に着けておられました。見慣れぬものだったのでそれは何かと聞いたのですが……ソフィア様が隠すようにされまして。それ以上、詳しくは聞くことができませんでした」


「腕輪と指輪? 何だそれは? 更に意味が分からない」

 エドワードとカタリーナは同時に顔を見合わせた。


「そんなもの、いつ誰が渡したのだ? 昨日までは持っていなかっただろう?」


「それが……わかりません。ただ、ソフィア様は“とても大切な方からの贈り物”だとだけ……そして誰にも言わずに秘密にして欲しいと」


「……大切な方、そして秘密か。ますます分からん」


 エドワードは深く息をつき、立ち上がった。

「直接、話を聞こう」


「あなた……」


「カタリーナ、行こう。ソフィアに確かめねばならん」


 二人は立ち上がり、ソフィアの部屋へと向かった。その瞳には、驚きと困惑そしてわずかな希望が宿っていた。


 そして――

 彼らはこのあと、思いもよらぬ“奇跡の理由”を耳にすることになるのだった。

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