第47話「王家の秘密」
#第47話「王家の秘密」
王都の一室。応接間にて五人が話をしていた。最初の議題はヴァルドリック領の財政問題、そして次に「レオンの異常性」について話が移った。
しかしこの場で話をしていても結論は出ない。宮廷魔道具師のエレンがレオンに会うということで話は一旦落ち着いた。
そしてエレンはいろいろと考えていた。本当の話とは思えないが、少なくともわずか二歳の子供が魔道具に興味を持っている。それはこの上なく好ましいことだと思えた。そこで王に提案した。
「陛下。もし彼が本当に魔道具に強い関心を持っているのなら……私の弟子として学ばせるのも一つの手かと」
エレンがそう提案すると、場が一瞬静まり返った。
ギルベルトはその案を聞いて少し考え静かに答えた。
「それも良いかもしれません。ただ、まだ幼い子供です。本人の意思を確かめた上でお願いできればと思います」
「承知しました。もちろん本人の意思を尊重させていただきます」
エレンは短く満足そうに頷き、そのまま話題は別の方向へと移っていった。
エドワードがグラスを置き、深刻な表情で言った。
「……ギルベルト、セレナ。お前たちに、私達の娘ソフィアについて大事なことを伝えておきたい」
その声音に、空気が重くなった。エドワード王の表情からしてあまりよくない話だとすぐに分かったからだ。
「レオンがあの時に指摘した通り、ソフィアは魔力が異常に多い。実は……測定の結果はSランクだった」
「Sランク……!」ギルベルトとセレナは息をのんだ。
「まさか、あの伝承の……」とエレンも驚いた。エレンにとっても初耳だったのだ。
Sランクの魔力持ちは10年に1人も出てこない。
しかもそのほとんどは短命で、現在の世の中で魔力量Sランクの人間はいないとされていた。伝承レベルと言っていい。
「そうだ」エドワードは静かに頷く。
「Sランクの魔力持ちはとんでもない魔法の天才とされているが、その一方で幼少期に命を落とす確率が九割とされている。原因は魔力過多による体内の臓器負担などが考えられている――特に心臓と神経系への影響があるらしい」
次に王妃カタリーナも悲しそうに口を開いた。
「ソフィアは今日のように比較的元気な日もありますが、やはり寝込むことも多いのです。時には高熱と発作を起こします。そのたびに医師が呼ばれ、何度も命を落としかけました……」
「医師の見立ては?」とギルベルト。
エドワードは軽くため息をついて話を続けた。その声は低く沈んでいた。
「次に強い発作が起きたら、覚悟が必要かもしれないと言われている。それが今日なのか、明日なのか……それとも1年持つのか? 何とも言えん。だが発作が起きる周期が早くなっている。この調子だと半年は持たないかもしれない」
「そんな……」セレナは絶句した。まさかそんなことになっているとは思いもよらなかったのだ。
更にエドワードは続けた。
「常に脈が高く、体内で魔力が暴れている状態だ。合併症の危険性も高い。我々も、できる限りの治療をしているが根本的な解決策はまだ見つからん。魔法を使わせて体内の魔力を抜くようなことをしたが改善しなかった……医者によるとあまり効果が無いとのことだ。魔力が戻る過程で負担をかけるから、かえって悪い可能性もあるらしい。そして、どの医者に聞いても良い答えはない。正直なところ、王国一の医者でも匙を投げている状態だ」
部屋には静寂が落ちた。
セレナは思わず胸に手を当てる。
「……そんな幼い子が、そんな運命を背負っていたなんて」
そこで王妃のカタリーナは続けた。
「だからこそ、表向きには“Aランク”ということにしようと考えています」
「Sランクの存在が知られれば、すぐに亡くなる可能性が高いとして王家の威信が傷つくかもしれません。……そして何より、ソフィア自身が平穏に生きられなくなるかもしれません。なので秘密にします。とは言えBランクとは明らかに測定器から出る光の輝きが違う。そこで今度の測定時にはAランクとして発表し、ごまかす予定です」
その後、周りを見渡しながらエドワードは言った。
「その秘密を知るのは、我々と、公爵家二家、それにここにいるお前たちとエレン、そして医師だけだ。この件は口外せぬように」
「承知しました」ギルベルトは深く頭を下げる、その隣でセレナも静かにうなずいた。
エドワードは続けた。
「本来ならば、ソフィアは五歳になる頃に婚約者を定める予定だった」
「はい。そのように聞いておりました」とギルベルト。
「だが、この状態では無理だ。だから婚約の話は十歳まで延期することにした。……十歳まで生きれば、魔力が安定し、命の危険もなくなるとされているからな」
ギルベルトは神妙に頷く。
「なるほど……確かに、婚約者を決めてすぐに亡くなってしまっては先方に傷が付く」
エドワードは小さくため息を漏らす。
「そういうことだ。それは避ける必要がある。そのための延期だ」
そして王妃カタリーナはギルバートとセレナの方を向いて思い出すように語った。
「レオン君は、ソフィアを見て『綺麗』と言ってくれました。それによって今日はソフィアの照れた顔を見ることができました。あんな表情は初めて見ました。もしかしたらソフィアの初恋かもしれません」
「私としては本当に嬉しかった。恋もせずに亡くなるのは忍びないことですから。なのでレオン君には感謝しています。叱らないであげてくださいね」
「分かりました」とギルベルト。特に叱るつもりもなかったが感謝までされているならば特に言うこともない。こっそりお小遣いでも与えようと思ったぐらいだった。
そして重い沈黙が落ちた。蝋燭の炎が小さく揺れる音だけが部屋を満たした。
やがて、カタリーナがそっと王の手を握った。
「大丈夫よ、あなた。あの子はきっと……生き抜きます」
エドワードは小さく頷いた。
「そう願いたい。……だが、もし運命が定められたものなら――」
その先を言葉にできなかった。あと半年も持たない可能性が高いからだ。それが運命であればどうしようもない。
しかし王家ならびにこの場にいた誰もが予想だにしなかった。
この“定められたはずの運命”が……どこかの誰かさんの手でいとも簡単に、あっさりと覆されることになるとは……。
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もちろん次回から主人公が再び登場しますよ。
主人公はどのような行動に出るのかお楽しみに!




