第45話「王と辺境伯の密談」
#第45話「王と辺境伯の密談」
レオンが王女のソフィアに会ってやらかしたその夜のこと。
王都の一室――王城の奥まった応接間に、国王エドワード、王妃カタリーナ、そしてヴァルドリック辺境伯ギルベルトとその妻セレナ、そして宮廷魔道具師の五人が静かに集まっていた。
温かな灯の下、重苦しいようでどこか穏やかな空気が流れていた。
開口一番、国王エドワードが笑いながら言った。
「お前の息子、レオンだったか? あの子は実に面白いな」
「すいません。普段はおとなしい子なんですが、たまに暴走しまして……」とギルベルトが苦笑する。
「いいじゃないか。あれぐらい素直で行動的な方が男の子らしい」とエドワード。
王妃カタリーナも微笑んだ。
「私もびっくりしたわ。婚約者候補は公爵家の子息二人でほぼ決まりだと思っていたけど、思いの強さだけならレオン君が一番かもしれないわね。見直したわ」
「じょ、冗談はやめてくださいよ……」
ギルベルトは思わずたじたじになる。セレナも苦笑いを浮かべた。
実は国王のエドワードとギルバートは同じ学園で先輩後輩の仲だ。なので普段はこうやって軽い雑談をして気を紛らわすことも多い。
しかしその後は真面目な話に移った。
「さて」
とエドワードは笑顔を引っ込め、真剣な顔つきに変わった。
「少し真面目な話をしようか。――ヴァルドリック領の財政についてだ」
「……財政、ですか?」
「うむ。最近、ヴァルドリック領は支出が急に減って財政が改善している。財務官から報告が上がってきたが、不自然すぎる。裏金でも動いているんじゃないかと疑われているんだ。あとは領の財政を良く見せかけようと偽装しているのでは、という意見も出ている」
「そんな……」とセレナが思わず息をのむ。
ギルベルトは深く息を吐き、「そういう意見が出てくるのは理解できます。今回、それがむしろ私からお話ししたかった件でして」と切り出した。本当に理由があったからだ。
「その理由は、我が息子レオンの存在にあります」
「ほう、あのレオンが?」
「そうです。レオンはわずか二歳の時に――魔道具の修理をしてしまいまして」
「ああ、この前の手紙に書いてあった件か、あれは冗談じゃないのか? 実は壊れていなくて、たまたま使えるようになったとかの話だろうに」
エドワードとしては一応は財政が改善した理由を極秘の手紙でもらっていた。しかしながら、その手紙の内容がかなりおかしい。わずか二歳の子供が魔道具を修理したなんて話を誰が信じられるというのか?
なのでその気持ちそのままにギルベルトに伝えた形だ。
疑いをむけられてギルベルトが思わず姿勢を正す。
「いえ、本当のことなのです。レオンが修理すると……その後、魔道具の再利用が可能になり、経費が大幅に減ったのです。私も今でも信じられないぐらいの話なのですが……」
「エレン、今の話はどう思う? 魔道具の修理なんて可能なのか?」とエドワードが声をかけた。
呼ばれたのは、宮廷魔道具師エレン・ルミエール。若干22歳にして王国随一の魔道具師と称えられる女性だ。
国で唯一の特級魔道具師としての称号も与えられ、王国の魔道具師のトップに君臨している。すなわち王国では魔道具関連で彼女の上にいる人間はいない。それどころか同等の人間もいないという状況。
彼女は普段はおとなしい人間で王城にいてもほとんどしゃべらず、聞かれたら質問に答える程度だ。だが、魔道具の話になると途端に饒舌になる、いわゆる魔道具オタク。
今回も魔道具関連の質問だったので話はスムーズに進んだ。
「一応は魔道具の修理は可能です」エレンは静かに口を開いた。
「一応とはどういうことだ?」とエドワードは訝しんだ。ギルベルトからの手紙をもらうまでは魔道具の修理など、聞いたこともない話だった。
「魔道具の修理は私も何度か試みたことがあります。そして何とか修理して再稼働できたこともありました。ですが……正しい魔道回路を参照し、それと見比べて不具合を特定するには膨大な時間がかかります。そしてうまくいかないことも多い。一応は修理は可能ではありますがさすがに割に合いません。また、それを二歳の子供がそれを行うとなると……さすがに不可能としか言えません」
「だろうな、普通に考えれば有り得んよな」とエドワード。
エレンはふっと笑みを浮かべた。
「もし、その子が本当にそんなことができるなら、私が弟子入りしたいくらいですよ。確実に私よりも上ですからね」
「はは、そうか、それほどのことか。まあ、あり得んよな」
エドワードは顎をさすり続けた。
「おかしな話だ。だが話を聞かずに否定するのも性急だな。――エレン、一度その少年に会ってやってくれ」
「承知しました。魔道具好きなら話も合うでしょう。良き話し相手になってあげますよ」
エレンとしてはさすがにわずか二歳の少年が魔道具の修理などあり得ないと思っていた。
国で唯一の特級魔道具師の称号を持つ自分でも書籍や設計書などに記載された正しい魔道回路と見比べてようやくできるかどうかというレベルの話だ。
仮にできる人間がいるとなれば大事件、とんでもないこと。
最初話を聞いて少しびっくりはしたが……それが二歳の少年という話を聞いて急に冷めた。それはさすがにあり得ない。
どこかに嘘、もしくは誇張が混じっているのだろうと判断していた。
とは言えわずか二歳の少年が魔道具にそれなりに詳しいのは間違いないだろう。それについてはとても興味深い。
わずか二歳で魔道具に傾倒しているならば……何なら自分の元で育ててもいいのではないか?と思っていた。
しかし、そんな思考を遮るように王が次の話題を始めた。




