第34話「王家への相談」
#第34話「王家への相談」
オルドは思った。――レオン坊ちゃんに驚かされるのは、いったい何度目だろうか。
魔道具を修理しただけでも常識外れだったのに、古い文書にわずかに記されているのみで、伝説とされていた魔力封入魔道具を再現。さらに今度は魔力視認魔道具を改良してしまった。
そして、今回は「倍率調整機能」まで付けたという。
小型化も凄いが、倍率調整となるとそれはもう単なる改良ではない。他の魔道具への応用が可能な革新技術になり得る。
たとえば、調理用のコンロ魔道具。
火加減を自由に調整できるようになれば、料理の幅は格段に広がる。料理長として、それは夢のような話だ。
「火を弱める」もしくは「火を強める」といった魔道具はこれまで存在しなかった。料理する側としてはわくわくする話である。
照明であれば明るさの調整が可能になるだろう。時間帯によって調整することができれば便利だ。
水生成器なら出力量が制御できる。これも何気に便利だ。料理を作る時にも便利かもしれない。
他にもまだまだあるだろう。魔道具の数だけ便利になる可能性がある。考えだしたらキリがない。
――まさに、魔道具の革命。
オルドは嬉しさと同時に、今回の件も領主に報告しなければならないと感じた。
「……今回の件も、ただ事じゃない」
執務室の扉をノックすると、中には領主ギルベルトと夫人セレナの姿があった。
机の上には書類が山のように積まれ、二人は並んで事務作業の真っ最中だった。
「旦那様、奥様。レオン坊ちゃんがまた魔道具で新しいことを始めました」
ギルベルトが顔を上げる。
「またか……今度は何を作った? 報告に来るということはまたとんでもないものを作ったのか?」
「まずは魔力視認魔道具の小型化です。それによって持ち運びができます。もしくはゴーグルをかけたまま移動できます」
「なるほど、それは便利だな。かつて魔力測定で使っていた魔力視認魔道具、測定者本人しか見えないということで廃れたが……持ち運びができるとなると、再び復活する可能性があるな」
魔力視認魔道具はかつては魔力測定装置として使われていた。しかし最近では手を触れることで測定できる魔力測定魔道具の方が重宝されており廃れた。
多くの人に見てもらえる魔力測定魔道具の方が便利と判断されたからだ。しかし簡単に持ち運べるとなれば話は変わってくるかもしれない。
「はい、さらに倍率調整も可能になったようでして――」
「バイリツチョウセイ? なんだそれは、初めて聞く言葉のようだが?」ギルベルトが眉を上げた。
「出力を調整できる仕組みのようです。照明なら明るさを変えたり、コンロなら火加減を調整できたりするらしいですわ」
「……何だと?」
ギルベルトは思わず椅子から立ち上がった。凄い話だ。
「そんなことができたら、魔道具の世界そのものが変わるぞ! 魔道具の革命となり得る」
「ええ、本当にそう思います。さすがにちょっと……やばいですわ」
オルドは苦笑しながら答えた。これまでの魔道具の修理や開発も凄かったがそれとはけた違いの話になり得る。
「でもいいことじゃない。レオンは本当にすごいわ。天才ね」とセレナはいつものように、おっとりとほほ笑んだ。
「そうじゃない、いや、そうなんだが……」
ギルベルトは頭を抱え、深いため息をついた。
「それで、いつものようにギルベルト様とセレナ様には“ライゼンが開発した”ということで伝えて欲しいと頼まれております」とオルドは付け加えた。
「ああ、例の秘密設定だな。分かった」
ギルベルトは腕を組み、少し考え込んだ。
「しかし……そこまでの発明となると、うちの領だけで抱えるのは危険だな。公爵家に狙われる可能性がある。王国全体に影響が出かねん」
現時点で王国内では魔道具の生産をめぐって二つの公爵家が競い合っている。共に多大な利益が出ており強大な力がある。
そして魔道具の出力調整ができるとなるとどちらか、もしくは両方の公爵家から目を付けられる。
最悪はヴァルドリック領が両家からの攻撃対象になる可能性がある。とてもではないが目を付けられたら……現時点で跳ね返すことは困難だろう。
ヴァルドリック領は単純な武力は強いが搦め手は苦手だ。例えば商人の移動などを制限されたら大変なことになる。即、死活問題に繋がるのだ。
「……ならば、王家に相談するか」
丁度良いことに王家付近には魔道具の開発に携わっている人間が多い。言わば魔道具の知が集まっている。古い書籍を解読し利便性がある魔道具であればその構造を特許登録する。
そしてその特許を公爵家が使い特許料を支払うことで公爵家と共に王家も潤っている。
残念ながらヴァルドリック領だけはその魔道具開発の波に乗り遅れている形だが……レオンがいれば逆転する可能性がある。それだけに狙われる可能性もあるのだが。
ゆえに、王家への相談は必須事項だとギルベルトは考えたのだ。
ギルベルトの低い声が、部屋の空気を引き締めた。
「ちょうどレオンはもうすぐ三歳。王都での魔力測定があるだろう。その時がいい」
セレナも頷いた。
「そうね、王家ならば悪いようにはしないでしょう。きっと守ってくれるわ」
そしてギルベルトは少し考えて、オルドに一緒に行くように依頼した。
「オルド、すまんがその時は一緒に来てくれ。我々では説明できん部分がありそうだ。お前が説明の補足してくれ」
「かしこまりました、旦那様。王家の方に会うなんて緊張しそうですが頑張らせていただきます」
こうして、ギルベルトは決断した。
――息子レオンの“特異な才能”を、王家へ正式に報告する。
それが、この国の魔道具史を揺るがす大事件の始まりになるとは、まだ誰も知る由もなかった。
(1章終わり)




