第25話「執務室での報告」
#第25話「執務室での報告」
オルドは、もう何度レオンに驚かされたか分からなかった。
最初は壊れた照明を修理したこと。次は冷蔵庫の修理。そして今回は——
「まさか、ぼっちゃんが新しい魔道具を一から作り上げてしまうとは……」
魔道具を修理できるだけでも理解を超えている。
だが今回は魔道具を一から作ってしまったのだ。とにかく驚愕に尽きる。この世の中にある魔道具は全て過去の魔道具の模倣品だからだ。作る工程など多少の工夫はしているがその程度。一から作るなどあり得ない。
しかもそのレオンが一から作った最初の魔道具には類似商品さえないのだ。
この世に存在しないと思われる“魔石に魔力を封入する魔道具”だから完全に新しいもの。
それはつまり“新しい発明”と言ってもいい。
オルドは、魔道具製造の工房に勤めていた過去がある。
古い文献の断片に「かつて魔力を再び石に宿す技術があった」と書かれていたという話を聞いたこともある。
だがその構造など、詳細は誰も知らない。当然のことながら、再現した者など一人としていないのだ。
「……それを、あの坊ちゃんがやってのけた」
オルドは思わずため息をついた。
驚きと誇らしさ、そして少しの恐ろしさが入り混じった複雑な感情だった。とにかく理解が追い付かない。
「これは……また報告しなきゃな」
そう呟いて、オルドは今日も執務室の扉をノックした。
「入れ」
ギルベルトの低く落ち着いた声が返ってくる。
扉を開けると、当主ギルベルトと奥方セレナがそろっていた。
タイミングとしてはベストだ。セレナにも聞いてもらう必要がある。
「ギルベルト様、セレナ様。レオン坊ちゃんの件で、またご報告がございます。」
「最近はレオンの話ばかりね」とセレナが微笑む。
「……ああ、しかも毎回びっくりする内容ばかりだ」とギルベルトも苦笑を浮かべた。
「で、今回は何をやらかしたんだ?」
オルドは深呼吸してから答えた。
「今度は、坊ちゃんが……新たな魔道具を開発されました」
「はあ?」
ギルベルトとセレナの声が重なる。
「修理だけでも驚いたのに、今度は新しい魔道具の開発だと?」
「……ええ。しかも、魔石に魔力を再び封入するという、私も見たことがない魔道具です。おそらくこの世に存在しないものを開発してしまわれました」
ギルベルトの目が大きく見開かれた。
「この世に存在しないものを……作った? 他の真似して作ったのではないのか?」
「はい。私も最初は冗談かと思いましたが、実際に魔力が戻った魔石を見せられて、言葉を失いました。間違いなく魔力が封入されている色の魔石。恐らく間違いないかと。イリスお嬢様に魔力封入を手伝ってもらったとも言っておられました」
「そう言えば、イリスが『石の色が変わっておもしろい!』って遊んでいたわ。適当に聞き流してしまったのだけど、もしかしてそれかしら」
「それならば間違いないですね。私もまだ半信半疑の部分はありましたが……イリスお嬢様が魔石の色が変わると話されているのでしたら、もう間違いないでしょう」
オルドはレオンから話を聞いてもまだ半信半疑でいた。いくらなんでも魔石に魔力を封入するなど伝説のような話が実現するはずないという想いがあったのだ。
しかしながらここでイリスの話が出てきてしまった。魔石の色が変わっているならば間違いなく魔力が封入されたということなのだろう。
さすがにオルドもレオンがとんでもないものを作ったのだと完全に確信するに至った。
「でも、なんでそんなものを作ったんだ? その発想からしておかしいだろう。しかも仕組みはどこで知ったんだ。いろいろありえん」
「一応、『魔力を封入することはできるのか?』と聞かれたことがあります。再利用できたら便利だとレオンぼっちゃんは言っていました。そこで私は過去の古い文献には書いてあるようですが、本当かどうかも分からないし現存していないという話をしたんです」
「で、それを作ってしまったということか?でもそんな知識をどこから仕入れてくるんだ。模倣するにも、現存していないということは書籍にも書いてないだろうに」
「私もそれを疑問に思ってレオン坊ちゃんに聞きました。そうしたら、冷蔵庫の修理で回路の構造を学んだのだとか……」
「は?」
ギルベルトは眉をひそめた。
「どうやったら、あの複雑な魔道回路を見て勉強になるんだ? 理解が追いつかん……」
「ですよね。私にもさっぱり分かりません」
セレナも思わず口元に手を当てた。
「あなた……レオンは本当に普通の子供じゃないわね。イリスは魔法と剣の天才だけど、そのイリスの魔力を魔石に封入するなんてレオンも凄いわ」
「いや、そういう問題じゃない……いや、それはそうなのか?」
ギルベルトは少し混乱しながら黙り込み、しばらく顎に手を添えて考え込んだ。レオンの異才を知れば知るほど、喜びと同時に不安も膨らむ。もし外の世界に知られれば、王家や貴族たちが放っておかない。
そこでオルドが続けた
「それで、その魔道具も魔道具修理士が開発したことにして欲しいとおっしゃっています。なのでお二人は魔道具修理士のライゼンが開発したという設定でお願いしたいのですが……」
「ああ、そういう設定だったな。分かった」
「あとイリスお嬢様とそれを見ているお手伝いの人間にも口外しないように伝えておく必要があると思います」
「そうだな。それもそうだ。早急に伝えておこう」
ギルベルトは混乱しながらも早急に今後の対策を組み立てた。この辺りはさすがと言えよう。そして次なる手も考えた。
それはレオンにとっても嬉しい話だった。




