第18話「魔石とインクの知識」
#第18話「魔石とインクの知識」
魔道具の修理は、すっかり俺の日課になっていた。でも魔道具を次から次へと修理していった結果、自然と故障した魔道具はかなり少なくなってしまった。そりゃそうだよね。そんなにたくさん故障した魔道具があるわけでもない。
とは言え、完全にお役御免になったわけでもない。
照明、コンロ、水生成器、暖房機など――壊れたと聞けば俺の出番だ。
壊れる原因はほぼ1つ。回路基板の問題だ。更に詳細に言えば回路の断線。それで魔力が通らなくなる。そうすると当然のことながら魔道具としての役目を果たせなくなるのだ。
ということで、魔道具修理をしていくうちに、いくつか分かったことがある。
・魔道具は普通に壊れる
・修理しても、頻繁に繰り返し壊れる個体も多い
・壊れる原因のほとんどは回路基板の断線
魔道インクで書かれた回路が剥がれたり、切れたり、何らかの形で劣化して断線し魔力が通らなくなる。
俺はその度に魔道インクを補充することで修理していたが――早いものだと、たった1か月で再び同じ箇所が壊れたりする。最初は修理すれば大丈夫、そのまま使えると思っていたけど甘かったみたいだ。
何でこんな簡単に壊れるのだろう?と疑問に思った。でも理由は不明。ということで、とりあえずオルドに聞いてみよう!
「ねぇ、オルド! 魔道具って何で簡単に壊れるの?」
「そうですねぇ。やっぱりインクではないでしょうか? 高級魔道インクを使えばあまり壊れないという話を聞いたことがあります」
「確か高級魔道インクって、大きな魔石を溶かして作るんだよね」
「さすがレオン坊ちゃん。よく覚えておられますね。その通りですわ。大きな魔石を溶かして作るのが高級魔道インク、そして適当に小さな魔石を集めて溶かして作るのが低級魔道インクって分けられているんですわ。高級インク、低級インクって略して言うことも多いですね」
「そして、高級インクは値段の高い大きな魔石を溶かして作るのでどうしても値段が高くなるんです。だから値段の安い照明魔道具には使えない。冷蔵庫のような高級魔道具にしか使えないということなんですわ」
なるほどね。
俺が使っている魔道インクは、母さんからもらった小さな魔石の集まりをオルドにお願いして溶かしたものだ。いわゆる低級インク。
小さくて品質もバラバラなんだよね。更に、くすんだ色のものもあれば属性の違うものも混ざっている。
種類が違うし魔石以外の不純物も多いかもしれない。そんな素材じゃ線が切れやすいのも当然なのかもしれない。
――性能や耐久力が高い高価な部品(高級インク)
――性能や耐久力が低い安価な部品(低級インク)
それにしても前世と同じ問題がまさか再び出てくるとはね。因果なものだ。
俺は前世でも似たようなことを回路設計仕事でやってたんだよな。同じようなことをこちらでも考えることになるとはトホホだよ。
前世の設計では「性能」だけじゃなく「コスト」の概念も必要だった。高価な部品ばかり使えば、性能は良くて耐久性が高くても製品の価格が跳ね上がる。
本当に必要な部分にだけ高品質な素材を使い、他は安価なもので補う――それが設計の基本だ。
それと同じような設計思想をこちらの世界の人間は持っている。
魔道具の開発者はすでにいろいろとやっているということなのだろう。その辺りはオルドの話からよく分かる。
「高級インクだけが正解じゃない。安い商品には安い部品を使う、適材適所ってやつなんだろう」
とはいえ低級インクの改善はなんとかできないものか。それさえできれば修理の頻度が下がるんだけどなぁ。
その点について今の俺にできることは少ない。そもそもの原因が良く分からないからだ。
インクの元になる小さな魔石に不純物が多いのが悪いのか?それとも小さな魔石それぞれの属性がバラバラなのが悪いのか?
それらを考慮し不純物を取り除いて更には属性を合わせたとしても、小さな魔石の寄せ集めでは結局は何も変わらないという可能性もある。
「ねぇ、オルド、低級インクの性能が低いのは何でだろう? やはり小さな魔石の属性が違うから? それとも不純物が混ざるから?」
「さすがレオン坊ちゃん。すぐにその考えにたどり着きましたか。それがよく分からないんですわ。小さな魔石の種類を分けることがとにかく困難でして」
「でも魔石の色で種類はだいたい分かるよね」
「それはすでに削って精製された魔石だからなんです」
「どういうこと?」
「魔石ってのは魔物から取り出したすぐはその色の判別が困難な場合が多いのですわ。その表面を軽く削ることによって判別ができるんです。小さい魔石はそれが困難でして」
オルドによると魔物から取り出したすぐの魔石は表面には不純物が付いており属性判別は難しいとのことだった。
判別し利用するために軽く表面を削る必要があるらしい。そしてそれを利用していると。
で、俺が提案した同じ属性の小さな魔石を集めて溶かすのは難しい。その理由は小さな魔石も表面を削らないと属性判別が困難だからだ。削ってしまえは更に小さくなるし、そもそもたくさんの小さな魔石を削る手間も大変だ。
だから小さな魔石は一緒に溶かして低級インクとして使うと。手間とコストを考えたら確かにその方が合理的かもしれないな。
俺もあの小さな魔石を1個ずつ削るなんて、とてもではないが考えたくもない作業だ。
「そりゃそうか。小さな魔石1個1個削って確認するのはものすごく大変だね。そんなことをするぐらいならば全部混ぜて溶かして低級インクとして利用した方が合理的かもしれないな」
「はい。そういう考えですわ」
「さすがだね。俺が考えるようなことは先人が既に考えているんだ。俺の考えは甘いし知識も浅い。さすがオルドは凄いや」
「いや、凄いのはレオン坊ちゃんですわ。こんな会話できるだけでも凄いことですよ。まるでベテランの魔道具技師とか魔道具博士と話しているような気分ですよ。本当に凄いです」
オルドは大げさだな。こんなことは誰にでもすぐに思いつくだろう。でもインクの研究もいずれやってみたいものだ。
ちょっとしたことで大きなブレイクスルーがあるかもしれないからね。




