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辺境生まれの小さな天才魔道具師( 旧:辺境伯貴族家の息子、魔道具修理で無双し王女をも救う)【書籍化予定】  作者: まめたろう
1-2章「謎の男性との出会い」

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第16話「拾われた男の正体」

#第16話「拾われた男の正体」


 料理長のオルドは、再び執務室の扉をノックした。

「入れ」と中から返ってきた声は当主ギルベルトのものだ。

 奥にはセレナの姿も見える。

 二人はどうやら何やら話をしていたところらしい。


 オルドは少し緊張しながらも口を開いた。

「ギルベルト様、セレナ様。例のライゼンという男、実際に見ていただけましたか?」


 ギルベルトは腕を組み、ゆっくりと頷いた。

「ああ、見たよ。あれは……ただ者ではないな。たたずまいが違う。剣を握る者なら、あの気配で分かるだろう。剣の達人という話、間違いないだろう。レオンはとんでもない人間を連れてきたんだな」


 ギルベルト自身、若いころから魔物討伐に参加してきた剣の使い手だ。辺境の土地で毎日のように討伐を続けてきた。

 そんな男が“ただ者ではない”と断言するほどの存在――それが、あの倒れていたというライゼンだった。


「やはり、そうでしたか……」

 オルドは深く息をついた。

 彼もまた何度かライゼンと会話を重ねるうちにその口振り、所作などを見て、素人ながら只者ではないと感じていたのだ。

 そしてレオンとの会話で剣聖という話を聞いた。それが本当ならばとんでもない話だ。


「ライゼンがレオン坊ちゃんの朝のランニングに興味を持っていたので、屋敷に来るよう伝えたんですわ。更に興味をもったようなので魔道具修理をしてもらっているところも見せました」


「ふむ、そうだったのか。それはよくやった」とギルベルト。

「して、あれは本当に“倒れていた”だけの男なのか? そこがどうにも理解できん」


「はい。近くの売店の者にも確認を取りました。数日前から付近をふらつき、空腹で倒れ込んでいたらしいです。間違いありません」


 ギルベルトは眉をひそめた。

「……それを見てレオンが、食事を与えようと言い出したんだったな」


「はい、まさかレオン坊ちゃんからそんな言葉が出るとは思いもよりませんでした。ですが……もしかすると、坊ちゃんはその時すでに何かを感じ取っていたのかもしれません」


「はは、まさか。そんなことはあるまい。倒れてるだけの男に“才能を見出す”なんてありえんだろう?」


「しかし、レオン坊ちゃんですから」


 オルドは笑いながらも真剣な目をして続けた。

「今までも信じられないことを、何度も現実にしてきたお方です」


 ギルベルトも苦笑を浮かべた。

「……確かにそうだな。二歳児にして魔道具を修理するだけでも信じられん。しかも冷蔵庫まで修理したことを思えばたいした話でもないか。天才同士、どこかで引かれ合うものがあるのかもしれんしな」


 セレナが微笑んだ。

「本人は“剣聖”だと名乗っているのよね?」


「はい。ライゼンとレオン坊ちゃんとの会話の中でのことなのですが、ライゼンは自分のことを帝国で剣聖と呼ばれていたと言っていました。まさかとは思いますが本当なのかもしれません」


「ああ、私もぱっと見ただけではあるが、剣聖と言われても全く不自然ではない。間違いなく凄い使い手だと思う」


 ギルベルトはしばらく沈黙したのち、静かに言った。

「そして……帝国の“雷光の剣聖”が行方不明になっているという噂は聞いたことがある。その本人かもしれん」


「その“まさか”かもしれません。帝国から来たと言っておりました」

 オルドの声には確信めいた響きがあった。


「人となりはどうだ?」

「人物的には間違いありません。穏やかで誠実な方です。坊ちゃんにも礼儀正しく接しておられます。そして私に対してもすごく丁寧です」


 ギルベルトはゆっくりと椅子の背にもたれた。

「……そうか。帝国の剣聖も温厚な人柄で知られていた。仲間に裏切られたが、それでも文句も言わず人を恨まず静かに去っていったらしい」


 セレナが感慨深げに呟く。

「なら、まさに運命の出会いだったのかもしれないわね。レオンがあの人を見つけたのは、偶然じゃないのかも」


 ギルベルトは小さく笑いながら、天井を見上げた。

「とんでもない拾い物をしたな……レオンには、いったい何が見えているというのか?」


 最後にギルベルトは表情を引き締めた。

「オルド、念のためだ。あの男におかしな動きがないか、見ておいてくれ」


「承知しました。ですが――おそらく心配は無用でしょう」


「というと?」


「ええ。あの男は、完全にレオン坊ちゃんに心服しております。むしろ坊ちゃんのために命を張りそうな勢いです」


 ギルベルトは大きく頷いた。

「……ならば頼もしい限りだ。剣聖が味方か。まったく、我が息子は何をやらかすのか分からんな。全く理解できん。しかもまだ二歳、我が息子ながら将来が恐ろしいよ」


 セレナは柔らかく笑いながら言った。

「何をいっているの、ギル。大丈夫よ。あの子はやさしいからこそ、いいことを、そしていい人を呼び込んでいるのよ。何も心配することないわ」


「そうだな。何よりもやさしい子だ。何も心配する必要などないな」


「そうよ」


 そして、オルドが部屋を出た後も、

 ギルベルトとセレナはしばらく黙って顔を見合わせていた。


 その沈黙の中で――

 二人とも、心のどこかで確信していた。

 レオンという子はやはり何かを持っていると。

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