第154話「ミアの処遇」
#第154話「ミアの処遇」
屋敷の執務室において、領主のギルベルトとセレナを前に、エレンとエリシアが報告を行っていた。最初はイリスの学園入学式でのやらかしについて議論がなされていたが話はレオンに移った。
レオンのやらかしを放置してしまったと謝罪するエリシアとエレンだったがギルベルトはそれは仕方がないと返答。
そして書状を机に置いた。
「それに、レオンの件については、すでに国王からも連絡が来ている。そこには相当なる感謝の意が示されていた。これでは本気で怒るに怒れん」
「裏組織の件ですね」とエレン。
「ああ、その通りだ。レオンは王都で、とんでもないことを成し遂げたんだな」
実際、レオンとライゼンが動かなければ王都の三大組織の均衡は崩れていただろう。もう少しでシャドウズがパラダイスに吸収されるところだったのだ。
そうなると裏の力のバランスは大きく傾く。裏組織の中でもパラダイスは暴力的だ。パラダイスが裏を牛耳れば要求は過激化する可能性が高い。
王家でも裏に逆らえぬ場面も増えたかもしれない。国が揺るぎかねない問題となる可能性もあった。
しかし、レオンとライゼンがパラダイスが雇った三人組を撃退した。その結果として、シャドウズは息を吹き返し、今は均衡が保たれている。レオンたちの勝手な行動ではあったが、その功績はあまりにも大きい。
ギルベルトとしては複雑な心境であった。
そこでエリシアは一枚のプレートを差し出した。
「こちらを。レオン様がシャドウズからもらったゴールドプレートです」
「それが国王からの手紙にもあったゴールドプレートか……」
シャドウズのトップ、ナイラからレオンに託されたゴールドプレート。ギルベルトはそれを受け取り、再びため息をついた。
これさえあればシャドウズはヴァルドリック家の要請を受けて動いてくれる。それにより王都の裏情報は筒抜けになるだろう。場合によっては後ろ盾にもなる。
現実にシャドウズのゴールドプレートを使うつもりはないが、とんでもない価値のある代物だ。
しかも優秀な斥候であるミアが同行してきた。レオンのために働いてくれるという。斥候タイプの人間は少ないのでありがたいことだった。
「本当に意味が分からんな。レオンには、なぜこれほどまでに人が集まるのか」
「それはレオン様の人徳でしょう」
エリシアが静かに即答した。エリシアもそのうちの一人なので説得力がある。
「もちろん、貴族としては危うい部分もあります。しかしそれは少しずつ修正していけばよいと思います」
「今は抑えつけすぎるのもよくない、か」
「はい。私はそう思います」
「我々も暴走しないよう見ておきます」
エレンも口を挟んだ。レオンの功績は大きいがやはり危うい。何かあってからでは遅い。自分たちができる限り見ておかないと駄目だろうと考えていた。
「レオンのこと、宜しくお願いしますね」
セレナが穏やかに言った。
レオンがまた何かをやらかす可能性は高い。さすがに完全に抑え込むことはできないだろうし、そもそも抑え込むことが良いこととも思えないのだ。
それでも、やはり大切な息子。できる限り危険な行動だけは避けて欲しいという親心もあり複雑だった。
いつの間にか王家にも認められている。何度もレオンのことで感謝された。ギルベルトとセレナの人生経験でもほとんどないことだ。その時点で既にヴァルドリック家への功績は計り知れない。
更にはレオンの周りには優秀な人材が集まっている。それについても多大な貢献であり否定するのもおかしな話だった。
そして、やがて話はミアへと移った。
「ミアは信用できると判断します」
エリシアは断言した。エレンは直接話してはいないが、エリシアがそこまで言うならばと頷いた。
ギルベルトとセレナも基本的に受け入れる姿勢を示した。
「ならば、ミアも受け入れるとしよう。何か懸念点はあるか?」
「そうですね、やはり彼女が裏の人間であることに変わりはありません。レオン様への忠誠は示しており、その気持ちに間違いはないでしょうが、裏組織のトップ、ナイラへの忠誠も本物でしょう。無条件で信用するのは危険です」
「では、どうするべきだ?」
ギルベルトは訝しんだ。信用しろと言ったり、信用できないと言ったり正反対で矛盾している。
「基本は信用します。ただし見極めます」
エリシアの声は冷静だった。
「レオン様への忠誠が本物であり、必要とあらば裏組織との縁を断てる覚悟があると確認できれば――その時は、レオン様の特殊性、魔道具関連の能力についても共有してよいかと」
「つまり、まだレオンの完全なる情報公開は早いということだな」
「はい。個人的にはそう考えます」
「私もその方向で良いと思います。私たちの忠誠はレオンにしか向いていませんが彼女は違う。いざという時にどういう判断をするか不明です。やはりレオンの特殊性を裏組織に知られるのはまずい」
エリシアの提案にエレンも同意した。ミアは裏組織の縁は簡単には切れないであろう。
仮にシャドウズが危機に陥れば王都に帰ってしまう。最悪の場合は敵対する可能性もある。現時点では完全なる信用は困難と言えた。
ギルベルトは天井を仰いだ。
「ややこしいが……仕方あるまい。その方針で行こう。受け入れはするが完全には信用しない。見極めていこう。またその話はレオンにも知らせておいて欲しい。私はレオンが魔道具を開発できることを知らない設定になっているからな」
「「分かりました」」
エリシアとエレンは頷いた。ほぼ自分たちの考えを受け入れてもらった形だから反発する理由もない。
こうして、ミアはヴァルドリック家に受け入れられ仲間として認められた。だが完全ではない。
一歩、距離を置く。すなわちレオンの特殊性については秘密にしたままにするということだ。
その判断がどのような結果をもたらすのか。
それは、まだ誰にも分からなかった。
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