第143話「王女との忘れていた約束」
#第143話「王女との忘れていた約束」
エレンが国王エドワード、王妃カタリーナへ報告を上げていた頃。レオンは……王女ソフィアと対面していた。
明日、レオンたちは王都を発つ。それを聞いたソフィアたっての希望で、二人きりの時間が設けられたということだ。
もちろん。そんな事情をレオンが知るはずもない。
***
話は少し遡る。
今回、王都に来ているメンバーのうち、レオンだけが王妃カタリーナから呼び出しを受けた。
しかしレオンには思いつくことはない。はて、自分だけの用事って何だろう?と思いつつ急いで呼び出しをしてきた侍女と一緒に向かった。
少し悩んだのではあるが、ともかく王妃様の呼び出しだ。行かないという選択肢はない。
そして扉を開けると……。
王妃カタリーナの姿はなく、そこにいたのは王女ソフィアのみだった。
「あれっ、カタリーナ様は?」
「お母様は緊急の用事ができたそうですわ」
「なるほど、そうでしたか」
カタリーナが不在なのはエレンの報告を受けるためであり、あながち嘘ではない。
しかし最初からレオンとソフィアを二人きりにする計画だから予定調和にすぎない話でもある。当然のことながらレオンはそれを知らない。
そしてレオンは困った。王女のソフィア様と二人きり。それだけで十分に緊張する状況と言える。
しかもソフィア様はかわいい。かわいい女の子と二人きり……レオンにとってそんな状況は前世を含めても、ほぼ経験がない。
頭の中は軽くパンク状態だった。
そして混乱しつつもレオンは記憶を辿った。女の子と二人きりという状況ほとんど経験がないはずなのに、確か以前も似たようなことがあった気がする。
はてどういうことか?そう思案をしていたのだ。しかし、そのまま考え事をしているわけにもいかない。
何よりもレオンは、ソフィアがやや悲しそうな顔をしていると感じ取った。何か言わないといけないだろう。しかし、元々陰キャのレオンは何も思いつかなかった。
そして天気の話は駄目だよな……落ち着け、エレンさんに教わったはず。という感じであたふたするだけであった。
そんな状況で先に口を開いたのはソフィアだった。
「レオンは冷たいですわ」
「えっ?」
”俺、知らないうちに何かやらかした?”そうレオンが思っているとソフィアが言葉を続けた。
「今回、王都に来た初日に、私のところに来て欲しいと申し上げましたのに。一度も来てくれませんでした。レオンは来てくれると言ったはずですよね……本当にひどいです」
「あっ!」
レオンは記憶を辿った。そして確かに、王都に来た初日にそんな話をした記憶があった。
これはまずいとしてレオンは慌てて謝罪した。
「すみません。私からご挨拶に伺うべきでした」
「では、次回からはレオンが王都に来る際には、必ず連絡をくださいね。そしてお話をする時間を取ってください」
「はい、分かりました」
レオンは焦った。とにかく約束を破ったのは駄目だ、謝罪するしかない。そして謝罪する勢いで次回からは毎回必ずレオン自らが挨拶に行くことになった。
そこではたと気付いた。自分から挨拶ってどうしたらいいのだ?と。
しかし、今さらどうしようもない。しっかり約束してしまったのだ。
当然、ソフィアはそこまで悲しんでいたわけでもない。レオンから来なくてもたいした問題でもないのだ。こうして直接呼び出しすればいいだけの話。すなわち約束うんぬんの話は使えるカードとして残しておいただけだったのだ。
そうしてレオンは完全にソフィアの術中に嵌っていった。どんどん約束事のハードルが上がっている状態。
しかし、レオンにはソフィアの心の中について分かりようがない。罠に嵌まっているとは思いつきもしなかった。
そしてレオンは今の不思議な状況について考えた。何故、ここまでソフィア様に頼られるのかと。
そして、とりあえずの結論としては、ソフィア様も自分と同じでまだ友達が少ないのかもしれないと推測した。
何と言ってもソフィア様は病気で長く外に出られなかったのが大きい。王都に同年代の友人が来る機会なんて、そう多くないだろう。自分が王都に来た時に会いに来て欲しいと依頼するのも、もっともなことだ。
そして自分がもっと気を利かせるべきだったのかもしれないと反省したのだ。
更にレオンは考えた。今回は毎回自分から訪れますと言ってしまったけど、王女様にはいずれ友達も増えるはずだと。そうなれば自分から行く機会を減らせばいい。
それまでは、少しぐらい支えてもいいだろうと思ったのだった。
そして、その後は何気ない会話が続いた。お互いの近況報告のような会話が続く。
「レオンは勉強はどうですか?」
「面倒ですね。覚えることが多くて大変です」
「私もですわ。でも王国民のためですもの」
「私も領民のために頑張らないといけません」
立場は違っても二人ともに背負うものはある。特に王女は領単位ではない。王国全体を考える必要がある。
レオンとしてはソフィアは本当に大変だと感じた。
こんな小さな女の子が自分よりも大きなものを背負わなければいけないということを少し気の毒にも感じていた。
するとソフィアが声を少し落として語り掛けた。
「時には辛いこともありますわ。好きな人にもなかなか会えませんし」
その爆弾のような言葉にレオンはびっくりした。そのうちにソフィアは更なる行動に出るのであった。
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