第13話「剣聖の追放」
#第13話「剣聖の追放」
帝国の唯一のS級、最強クラン「ノーザンライト」を支える2人の傑物。レオニードとライゼンは微妙なバランスを保っていた。
レオニードは表のリーダー。貴族であり帝国宮廷魔導師団の出身で頭脳明晰、身分も高いこともありクランの中でも特別な存在。帝国の皇族に謁見や報告もできる唯一無二の存在だ。
ライゼンは実質的なリーダーと言われた。戦闘でも危険を顧みず先頭に立って動いてくれる存在。とにかく頼もしい。しかも下働きも厭わずにする。誰にでも分け隔てなく接してくれる。
自然とメンバーは彼を慕った。悩みがあればレオニードではなくライゼンを頼った。真摯になってメンバーに対応するライゼンは誰にも好かれた。
そうなるとメンバーとしてはやはりライゼンを実質的なリーダーとして喧伝する。飲み屋でもレオニードの名前は出てこない。ライゼンの雄姿だけを語るメンバーの姿は多かった。
結果的に街で広がるのは剣聖ライゼンの名であった。
レオニードも当然のことながら、頑張っていた。「ノーザンライト」最強クランが帝国で唯一Sクランになったのは彼の功績が大きかった。やはりなんだかんだ言っても帝国皇族に認められる必要があるからだ。
そして帝国皇族との橋渡しをした、レオニードなくしては「ノーザンライト」はSランクに到達することはできなかったであろう。戦闘をこなしながらリーダーとしての様々な仕事をこなした。その功績はとてつもないと言える。
ただしメンバーにはその功績は非常に分かりにくい。上にいい顔をしているだけの存在と考えているメンバーもいた。そういったメンバーの声はライゼンが窘めてはいたものの、やはり雰囲気を変えることはできなかった。
日に日にレオニードの鬱憤は溜まっていった。リーダーは自分なのに、懸命に頑張っているのにメンバーに慕われることもなく名声もない。全てライゼンが持っていくことを苦々しく思っていた。
そんな時にレオニードにとって大きな問題が起きた。
密かに想いを寄せていた女性クランメンバーまでもが、ライゼンに好意を寄せていることを知ったのだ。
告白が実らなかった。ライゼンのことが好きだと言われてしまった。
その日、何かが壊れた。
怒りと嫉妬、そして焦り。
自分よりも下の男が、魔法ができない剣だけの男が、名声も仲間の信頼も、そして好きな女性の気持ちまでをもすべてを掴んでいる。
レオニードの胸の奥で、黒い感情が渦を巻いた。嫉妬にかられてしまったのだ。そこにはいつもの冷静なレオニードの姿はすでになかった。
やがて、それは形を持った。
――「追放」という名の策略として。
ある夜、レオニードはライゼンを呼び出した。
酒場の裏路地、人気のない石畳の上。ふたりきりの対話だった。
「ライゼン……申し訳ないが、クランを抜けてほしい。君が頑張っていることは俺が一番よく知っているが、もう俺にはどうしようもない」
ライゼンは目を瞬かせた。
最初は冗談かと思った。だが、レオニードの手には一枚の紙が握られている。
それは、クランメンバーほぼ全員の署名が入った“委任状”だった。
内容は――『ライゼン・アルトリウスの脱退を希望する』というもの。
これはもちろん偽造したものだ。上に上申書を出す時などもあるからメンバーの署名はすぐに集まる。レオニードはそれを一部、差し替えて利用した。
「どうして……?」
「君は知らないだろうが陰で皆が言っているんだ。ライゼンは剣しかできないと。今は魔法と剣を融合させた魔法剣士が主流。剣しか振れない君は戦闘の邪魔と判断されている。なんとか俺が押さえてきたが……このままではクランをまとめ続けることは困難だ。申し訳ないが何も言わずに抜けて欲しい」
「クランメンバーの誰かに相談したい気持ちはあるかもしれないが、できればそれもしないで欲しい。一部の人間は君を慕っており亀裂が深まる結果になる。クランのことを考えて、このまま何も言わず静かに去ってくれないか?」とレオニードは頭を深く下げた。
ライゼンは黙ってその紙を見つめた。
自分は剣だけしかできない――。たしかに、それは事実だった。
だが、彼はそれを補うために人一倍努力してきた。誰よりも仲間を守り、戦場を支え、背中を預け合ってきたつもりだった。クランのメンバーは自分を信頼してくれていると思っていた。
それでも、彼らの答えはこれか。陰では、自分の見えないところでは剣しかできない邪魔者と馬鹿にするメンバーが多数だったのか……その瞬間にライゼンの中で何かが崩れた。
そしてライゼンはクランのことを人一倍、思っていた。だから自分がみんなに相談してクランが混乱する事態は避けたいとも考えた。
「……分かりました」
その声は静かで、痛いほどに落ち着いていた。
彼は何も言い返さず、自らサインをして、長く過ごしたクランの本拠地を後にした。
そして、そのまま後ろを振り返ることはなかった。
それ以降、剣聖ライゼン・アルトリウスの消息は途絶えた。
多くのメンバーが悲しみ、彼を探したが一向に見つからない。
「王国方面に向かったらしい」という噂だけが帝国の街角で語られることになった――。
そして数年後。
彼は運命のように、ひとりの少年と出会うことになる。




