第138話「王都の裏の均衡」
#第138話「王都の裏の均衡」
王都には三つの裏組織が存在している。
・パラダイス
・シルバーコイン
・シャドウズ
王都は華やかで整然としているように見えるが、現実には様々な思惑がうごめき、常に争いごとが起きていた。
そして表の世界だけで解決できない話は裏にやってくる。当然のことながら、裏は表以上に複雑怪奇な状況になっていたが、それでも一定のバランスが保たれていた。
基本的には表からの依頼は、ほぼ三つの組織が受けていたのだ。すなわち裏の王都はこの三つが支配していると言っても過言ではない。
そして、その三つの組織にはそれぞれに強みがある。
一つ目のパラダイス。
ここは荒事に強い組織。基本的には特に何も考えずに暴力で解決する組織だ。
王都の商店からみかじめ料を要求している。
仮に逆らえば店に若いならず者を押しかけさせる。そして「助けてやる」と言って金を取る、いわゆるマッチポンプも日常茶飯事。
貴族の用心棒、敵対貴族への嫌がらせ、裏の処理。血と暴力にまみれた仕事をメインに請け負うのがこの組織の特徴だ。
二つ目のシルバーコイン。
こちらは力よりも金で動く組織になる。法律の抜け道を突くのが得意で、ぎりぎりを攻める。
表向きは商店や商会を構え、まともな商売をしているように見える。だが裏では闇金融、高利貸し、債権回収、立ち退きビジネス、不動産の強奪、違法投資、賄賂の仲介、裏口座の管理などありとあらゆるあくどい商売を手掛けていた。魔道具全盛の世の中になったことで勢力を伸ばしている。
荒事ができないわけでもないが血は好まない。そんなことをしても、たいした金にならないからだ。じわじわと人生を奪っていくタイプの組織でもある。
そして三つ目、シャドウズ。
ここは情報に特化した組織だ。王都のありとあらゆる噂、取引、密会、裏約束。それらを把握している。
その情報網は貴族よりも優れていると言われている。そのため情報が命とも言える貴族との繋がりも強い。
金よりも、力よりも、“知っていること”を武器にしてきた組織だ。
やはり荒事ができないわけでもないが血は好まない。義理と人情を大切にして組織を運営していた。
こうして三つの組織で王都の裏はバランスが取れていた。
だが最近、シャドウズのトップがパラダイスの凄腕三人組に暗殺された。そして、その後を継いだのが娘のナイラだった。
ナイラとしては父を殺されて悲しい状況ではあったが、そんなことも言ってられない。そのままでは組織が崩壊する。組織をまとめるために懸命に動いた。
しかし、そのナイラまでもがパラダイスの凄腕三人組に狙われた。急襲を受けて命からがらゴミ箱の中に逃げ込んだのだ。
そのままであればナイラも父と同じ運命をたどり、シャドウズはパラダイスに吸収される可能性もあった。
しかし結果は逆だった。凄腕の三人組は返り討ちにあい、ナイラは生き延びたのだ。
そう、たまたま通りがかったレオンとライゼンによって救われた形だ。
シャドウズのトップが暗殺されたことで、三組織の均衡は崩れかけていた。いや、ほぼ崩れたと言ってもいい状態だった。
パラダイスが幅を利かせ、その暴力を恐れたシルバーコイン、シャドウズは一気に劣勢に。
特にシャドウズはトップが変わったばかりでまとまりがなかった。組織を抜けようとする人間も出て混乱に陥った。
そんな状況でパラダイスは一気に畳みかけるつもりだった。凄腕三人に更に大金を積んで、ナイラの暗殺も依頼したのだ。
しかしながら、その三人があっさりと返り討ちに。これによりパラダイスは警戒することになった。
そうしてパラダイスの幹部はシャドウズへの対応を協議した。
「シャドウズにはまだ隠れた裏の力があるようだ。簡単にはいかない。下手をすれば、うちが逆に狙われる可能性すらあるかもしれんぞ」
「まさか……しかしあの三人組があっさりと返り討ちにあったならばあり得るな。今は攻めるべきではない。守りを固め警戒した方がいいだろう」
そうしてパラダイスに疑心暗鬼と守りの意識が広がった。今がチャンスではある。しかし、これ以上、腕利きの兵を失うのは痛い。
あの凄腕三人に勝る戦力をシャドウズが保持しているならば再度の返り討ちにあう可能性は高い。
自分たちが勢力を落とせばシルバーコインが介入してくるかもしれない。それは非常にまずい。
そうしてパラダイス幹部は、シャドウズのトップを暗殺したことでひとまずは満足し終わりにしようと考えた。わざわざ不必要なリスクを負う必要もないだろうとの判断である。
結果、シャドウズに対して追加の刺客は送られなかった。
こうして一旦は崩れかけた王都の裏組織の均衡は、かろうじて保たれたのだ。再び三つ巴の状態が続いた。
当然のことながら、一つが少しでも動けば残りの二つは警戒する。いくら強い組織でも二つの組織を相手にするのは厳しい。
よほどの力の差がなければその均衡は崩れない。そのまま膠着状態となっていった。
こうして……。
どこぞやの貴族の子息の迷子騒動が、王都の裏組織に大きな動揺と影響を与えたのであった。
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