第134話「反省会」
#第134話「反省会」
イリスがアストラル学園の入学式で圧倒的な魔法と剣の実力を見せつけ、王城へ戻ったその日のこと。
王城の一室で――
イリスは正座をしていた。その前に立っているのはエリシアである。
「イリス様。余計な力を見せるものではありません」
エリシアの声は静かではあったが、怒っているのは明らかだった。
「……ごめんなさい」
イリスは素直に頭を下げた。普段から何度も言われてきたことだ。
力を発揮するのはいざという時のみ。例えば、大切な人を守る時などだ。それを条件に、エリシアは魔法を教えてきた。
人前で実力を誇示しても何も得るものはない。むしろ余計な嫉妬や警戒、そしてトラブルを抱えるだけだ。
それはエリシアの人生経験で得たものでもあった。そしてイリスとレオンの両親であるロラン、エリザにもその教育方針を伝えており、厳しくすることに了承を得ていた。
その場にはライゼンもいた。
イリスがライゼンに視線を送りながら訴えた。
「ライゼン、助けて……」
だが返ってきたのは冷たい言葉だった。
「エリシア殿の言う通りですな。イリス嬢は明らかにやりすぎです」
「えっ」
「私も常日頃から申し上げています。剣の実力は見せつけるものではないと。そしてイリス嬢はレオン坊ちゃんを守りたいからというので剣を教えましたが……現実には今回の大騒ぎ。その行動に何の意味もありません。猛省が必要でしょう」
完全に突き放された。
イリスはがっくりと肩を落とした。確かにライゼンに何度も同じことを言われてきた。そして剣を教えてもらっているのはレオンを守るためなのだ。
世間一般に対してその剣の腕前を見せつけたところで何の意味もない。
そしてイリスは最後の希望へと視線を向けた。
「レオン、助けて~」
救いを求めるような声。
レオンは少し考えた。
「俺は……姉さん、かっこよかったと思うよ」
イリスの顔がぱっと明るくなった。さすが私の弟だ。ちゃんと見てくれていたと喜んだ。
だがそれは一瞬だけだった。レオンは続けた。
「でも、エリシアさんの言う通りかもしれない。目立つことは良い面も悪い面もあるけど……トータルで考えると、あまり良くないかもしれない」
「……えぇ」
レオンにも言われ、イリスは再び沈んだ。もうこの場にはイリスの味方はいない。残るのはエレンだが仕事に出ていてこの場にはいなかった。
落ち込むイリスを見て、レオンは慌ててフォローした。
「でもさ! 姉さんが凄かったから、俺はすごく誇らしかったよ。本当だよ!」
その言葉に、イリスは満面の笑みを浮かべた。やっぱりいい弟だ。ちゃんとフォローしてくれる。レオンの助けを借りてなんとかこの場を脱出しようと考えた。
だが……。
「レオン様、イリス様を甘やかしてはいけません」
エリシアの一言で空気が一気に引き締まった。少しだけ味方となってくれたレオンのフォローはもうそれ以上、期待できそうになかった。
そしてエリシアの冷たい一言が放たれた。
「イリス嬢。本日は一日反省です。外出禁止にします」
「ええー!? レオンと遊びたかったのに!」
「駄目です。言うことを聞かないのであれば、今後は魔法を教えることができません」
「そうですな。今のままでは剣も教えられん」
エリシアの言葉にライゼンが追撃した。
その二人の圧に、イリスはもう観念するしかなかった。魔法と剣を教えてもらえないのは今のイリスには辛すぎるのだ。
「……分かりました。一日反省します。今後は目立つことは控えるようにします」
イリスはしゅんと肩を落とした。でもレオンと遊ぶのは明日からでもできる。今日だけはおとなしくしておこうと決断した。
そうなのだ。まだ子供ということで、ずるがしこいところもあるのだ。
しかし、それを見透かしていたエリシアが更に追撃した。
「ではレオンはライゼンさんと出かけてください。私はイリス様を見守っています」
「ええ、レオンだけ外出するの? ひどい!」
「だってレオンがここにいたら反省になりませんよね」
「うう……エリシアさんが冷たい」
「反省が見られないようでしたら外出禁止の日数を増やしますのでそのつもりで」
「分かりました……反省します」
イリスはせっかく王都に来たのに、部屋に一日中籠って反省することになった。しかもレオンは自由行動だ。あまりにも厳しい現実を突きつけられイリスはうなだれた。
そしてエリシアはその一日を使ってイリスに様々なことを伝えた。もちろん貴族と平民で立場は違うから一概には言えない。
しかし腕前を見せつけ注目を浴びたことでプラスになることはあまりない。自分の失敗事例や、過去に問題となった貴族の例などを伝えた。
そして、それはレオンを守ることに繋がらない。
しかも魔法をそこまで使えないレオンは、周りからイリスと比較され落ち込むことになるかもしれないとも指摘した。
そのエリシアの言葉にイリスは何よりもショックを受けた。
確かにそうだった。レオンは魔力測定の場で馬鹿にされ泣き出していたじゃないか。自分が魔法や剣の実力を見せつければ見せつけるほど、レオンは比較され落ち込むかもしれない。
自分は何を見ていたのだろうと猛省した。そしてもう、むやみに魔法や剣の実力を発揮しないと心に決めた。
そして涙ぐみながらエリシアに謝った。
「ぐすっ。ごめんなさい、エリシアさん、私が間違ってました」
「その気持ちがあれば大丈夫ですよ。私もあなたを止められなかった責任がありますので一緒に反省しますね」
イリスの真剣に反省する姿を見てエリシアは安心した。一方でイリスも魔法だけでなく大事なことを教えてくれる先生としてエリシアを尊敬するようになった。
こうして学園では喝采を浴びたイリスの魔法と剣だが、当面は表に出さないという結論になったのだった。
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