第122話「初めての剣の素振り」
#第122話「初めての剣の素振り」
「レオンも剣をやろうよ!」
イリス姉さんに何度か誘われ、ついに騎士団の訓練場を見学することになった。広い訓練場では騎士団の人たちが真剣な表情で剣を振っている。その中に、まだ幼い子供たちの姿もあった。
そして、その中に姉さんの姿もある。一生懸命に剣を振る姉さんの姿は、驚くほど様になっていた。
「すごいな……」
思わず感心してしまう。剣といえば、やはりライゼンだろう。自称とはいえ剣聖なのだから。そこでライゼンに姉さんの腕前について聞いてみると――
ライゼンは迷いなく断言した。
「領主様が言われていた通りイリス嬢ちゃんは剣の天才ですな」
父さんの言っていたことは本当だったようだ。とはいえ、天才と言われると少し大げさな気もする。確かに他の子供たちと比べて動きが滑らかで、剣のスピードも明らかに速い。
その理由を尋ねると、ライゼンはにこやかに答えた。
「レオン坊ちゃん、良いところに気づかれましたな。イリス嬢ちゃんは身体強化の魔法を上手に使っておられる。この歳では異例ですな」
「身体強化の魔法?」
聞き慣れない言葉に首をかしげると、ライゼンは少し困ったように頭をかいた。
「自分も無意識のうちに使っているので詳しい理屈は分かりませんが、剣の腕が上がってくると自然と発動します。動きが速くなり、攻撃力や防御力もわずかに向上します」
なるほど。身体強化は前世でいうところの“火事場の馬鹿力”のようなものかもしれない。体のリミッターを少し外すような感覚なのだろうか?
上達すると自然と発動するとのことだけど、姉さんはまだ剣を初めてそれほど時間が経っていないはず。すでに発動しているならばかなりのものなのだろう。天才というのも頷ける。
そこで姉さんのように魔力が多いほど有利なのかと思って聞いてみた。
「姉さんは魔力が多いから有利なの? 身体強化を発動しやすいとか?」
すると横で話を聞いていたエリシアさんが穏やかに答えてくれた。
「いえ、それは違いますね。魔力の小さい人の方が発動しやすいという説もあるぐらいです。ただし魔力が小さい人の方が剣を重視する傾向があるので単純には言えません。ライゼンさんが言われるように腕が上がると、魔力量に関係なく自然発動するだけかもしれません」
「なるほどね」
「また、魔力量が多くても身体強化の魔法が強いという話もないみたいですね。勝手にセーブされるみたいです」
どうやら身体強化の発動に魔力の大小は関係ないらしい。魔力が少ない方が発動しやすいという説もあるぐらいだから、少なくとも魔力が多い方が発動に有利ということはないのだろう。
そして勝手にセーブされるとなると……身体強化で無理をすれば体に負担がかかるので、無意識のうちにブレーキをかけるという感じだろうか。
「だからライゼンも身体強化を使えるんだね。確か魔力はFランクだよね。それでも身体強化の魔法を使えるならば鍛えれば誰でも使えるということかな?」
「おそらくそうかと。身体強化の魔法については魔力はほとんど必要ないらしいですな」
「なるほどね……ならば俺も鍛えれば使えるようになるのかな?」
「おそらくは使えるでしょうな」
なるほど身体強化が使えるとか、かなりロマンがあるじゃないか。ならば俺も身体強化の魔法が使えるようになることを目指そう。剣も少しはやろうじゃないか。
その後、僕も軽い木刀を用意してもらい、素振りに挑戦することになった。
しかし難しい。
「うーん……思った通りにいかないな」
頭の中では姉さんのようにきれいに振れているのに、実際の動きはどうにもぎこちない。身体がイメージについていってない。
見かねたライゼンが正しい姿勢と型を丁寧に教えてくれた。
「坊ちゃんはまだ体ができておりません。素振りは一日五十回まで。それもゆっくり、姿勢と型を意識して体に覚え込ませるのがよろしいでしょう。疲れてくると、どうしても姿勢が悪くなります。それを繰り返しても意味がありません。最悪は体を壊しますので」
確かに無理をしても上達しないならば意味がない。更に体を壊すようであれば本末転倒だ。素直に従うことにしよう。
とにかく、ゆっくりと丁寧に。これならば理想の形に近づけるのはそれほど難しくないはず。
一振り、一振り、型を意識してイメージし、ゆっくりと木刀を振る。だがゆっくりやっていても、すぐにイメージとずれてしまう。
思った以上に難しい。それでも焦らず、呼吸を整えながら振り続けた。
どれくらい時間が経っただろうか。
「はい、そこまで! もう五十回を超えておりますぞ!」
突然のライゼンの大声に、思わず肩が跳ねた。もう少し優しく伝えてくれてもいいのに。
「び、びっくりするなぁ、もう……」
「いや、坊ちゃん、何度か声をかけたのですが、聞こえてなかったようなので」
何度も声掛けしてくれていたの?ならば仕方ないか。そうして息を整えていると、ライゼンが満足そうに頷いた。
「レオン坊ちゃん、とんでもない集中力ですな。坊ちゃんにも剣の素質がありますぞ。将来が楽しみです」
ほう、素質ありときたか。
なるほど、ライゼンは褒めて伸ばすタイプの指導者らしい。そういうのは嫌いじゃない。むしろ大歓迎だ。どんどん褒めて欲しい。
「よし、毎日五十回。続けてみよう」
こうして俺は、新たな日課として剣の素振りを始めることにしたのだった。




