第110話「魔力の少なさという才能」
#第110話「魔力の少なさという才能」
オルド、エレン、ライゼンの中で魔道具回路の魔力の流れの震えを感知できたのがライゼンだけだった。
そこでレオンは、魔力が少ない方が感知に有利ではないかと考えたのだった。
その後、レオンはエリシアと屋敷にいる子供たちを広間へと集めた。
突然の招集に、エレンはもちろん、オルドとライゼンも顔を見合わせた。いったい何をしようというのか?
「……今度は何を始めるのですか?」とエレン。
「坊ちゃんは思いつくと止まりませんからなぁ」とオルド。
「レオン坊ちゃんのやることですからな。何か意味があるのでしょう」とライゼン。
レオンは気にした様子もなく、小さな魔道具を取り出した。
それは魔力視認魔道具だ。
レオンが独自に小型化した、魔力量を視覚する魔道具である。
せっかく優秀な魔道具なのに使われないのはもったいないとばかりに小型化し、愛用していたのだ。
「みんな、俺が言うように順番に並んでみてくれる?」
レオンは子供たちを見ながら魔力の多い順番に並び替えを始めた。
魔力視認魔道具からの表示が、魔力の強い弱いを明確に示していくので簡単な話だった。
一方でエレンはその魔道具から目が離せなかった。
(あれが魔力を視認する魔道具だと? 過去の文献を参考にして作られたものはもっと大きかったはずだ。本当にレオンは凄いな。私が思いも付かなかったことをいくつも実現している。魔道具の修理だけでなく小型化の実現まで……とんでもないな)
エレンは自分も使わせて欲しい、そういった知的好奇心がむくむくと湧き上がった。
だが今はレオンが何かを確かめようとしている最中だ。問いかけるのは後にしようとなんとか自制した。
そして順番が整ったところで、レオンは先と同じように、魔道回路に子供たちを順番に触れさせた。
「震えが分かるかな?」
結果は明確だった。
魔道回路に流れる魔力の“震え”を感じ取れたのは――やはり魔力の少ない側に並んでいた子供たちだった。
その人数は十七人。おそらくは魔力量がEランク以下の子供たちなのだろう。
エレン、オルド、ライゼンはレオンの考えを聞いて完全に理解した。その推測は間違っていなかったと。
そしてレオンはにこりと笑った。
「良かったね、エレンさん」
「……え?」
エレンには意味が分からない。何が良かったというのだろうか。
しかし次のレオンの言葉に彼女は息を呑んだ。
「エレンさんには分からないかもしれないけど、この子たちは分かるみたいだよ。なら、魔道具の修理のときに手伝ってもらえばいいよ」
あまりにも自然な口調だった。まるで最初からそうあるべきだとでも言うように。
「……なるほど、そうですね。私にできないことは、この子供達にお願いすればいいですね」
エレンは、はっとした。自分は“できない”ことばかりを見ていた。だがレオンは、“できる者を組み合わせる”という発想をしていたのだ。
自分には魔道具の知識はあってもできないことは山のようにある。それは当たり前のことだ。誰かを頼ればいいのだ。落ち込むばかりでそんな当たり前のことを忘れていたと自分を恥じた。
レオンは探求心だけではない。優しさもある。おそらく、落ち込んでいる自分の様子を見てすぐに考えてくれたのだろう。
エレンは胸の奥が熱くなった。
再び涙がこぼれそうになるのを、必死にこらえた。
(この方は本当に……知識、向上心、そして上に立つ人間の資質まで兼ね備えていますね。やはり私は本気で仕えるしかないでしょう)
そしてまた一段、エレンの中で何かが格上げされた。
やばいほどの忠誠心――それがさらに増した瞬間と言えるだろう。まさに天井知らずの状況だ。
「この中でエレンさんと一緒に仕事をしたい人いる?」
レオンが軽く声をかける。当然のように、全員が手を挙げた。その様子を見て、レオンは満足そうに頷いた。
「さすがエレンさんは人気者だね。じゃあ、あとの人選とかはエレンさんに任せるね」
「……承知しました」
エレンの声は少し震えていた。人気者とまで言ってくれる。魔道具に傾倒してきた人生でそんなことを言われたのはおそらくは初めてだ。本当に優しい人だと感激していた。
一方でレオンは違う。
(これでエレンさんも魔道具の修理ができる。手伝ってくれる人が増えたしラッキー)
レオンは気軽にそう思っていた。エレンのためを全く思っていなかったわけではないが、現実には邪心だらけだ。どう考えてもエレンの思うような聖人ではない。
だがレオンは知らない。
自分がしめしめと思っているその一方で、エレンの忠誠心が爆発的に上昇していることを。
そしてライゼンは静かにそのエレンの様子を見ていた。
(……ふむ)
あの目。あれは、自分と同じ考えをしている人間の目だろう。本気で命を捧げる覚悟を決めた者の目。
間違いなく――同志だ。
こうして、レオンの知らぬところで危険なまでに忠誠心の高い人間が増えただけでなく、そこに謎の連帯感、同盟のようなものが作られつつあった。
静かに、屋敷の内側でおかしな何かが生まれ、動き始めている。いつ、その状況にレオンが気が付くのか?まだ、誰も知らなかった。
そしてレオンが気が付いた時にはもう手遅れになっているかもしれない。




