第105話「エレンの確信」
#第105話「エレンの確信」
オルドとエレンはレオンが魔道具の修理をしているところを覗き見していた。オルドによるとレオンは本当に魔道具の修理ができるという。
まるで熟練の職人のようにも見えるレオンにエレンはびっくりした。凄い集中力だ。
そして魔道具の修理を終えたようであった。しかし現実には照明の魔道具は点灯しなかった。
少し期待していたのでエレンはがっかりした。その一方で安堵するような複雑な気持ちにもなった。やはり無理だったのかと……。
しかし、レオンは動きを止めない、まるでそれが当たり前であるかのように作業を続けている。
オルドの説明によると今度は指でなぞって故障箇所を探っているという、本当にそんなことが可能なのか?
混乱しながらエレンはレオンの覗き見を続けた。
そして、しばしの静寂と共にレオンが動きを止めた。
そして魔石をセット。
すると……ぱっと照明の魔道具に光が灯ったのだ。エレンにとってあり得ない光景がそこに広がった。
「よし!」
レオンの自然な声だった。成功して当然、という響きだ。
エレンとしては、まずはびっくりした。照明の魔道具を修理したこと自体とんでもないことだ。
その一方で、これほどあり得ないことを達成したにも関わらず、レオンは特別に喜んでいる様子には見えない。当たり前のように平然としている。
その姿を見てエレンの頭の中は混乱した。今のは何だ、何が起きたのだ?魔道具の修理は極めて困難。それなのにこの短時間であっさりと修理しただと……?
そして“よし”って何だよ?
エレンとしてはもっと喜べよと感じていた。そんなのあり得ない。本当にレオンにとっては修理の成功が当たり前で、それが普通のことなのか?自分は失敗ばかりだったのに……。
「あり得ない……ちょっと待ってくださいよ、これはおかしいですよ。オルドさん」
「やはり、宮廷魔道具師のエレンでもそう見えますか。やはりおかしいですよね」
興奮するエレンの一方で冷静なオルド。もちろんオルドは何度も見ているからこそ平静を保っているのであるが、その状況が更にエレンを混乱させた。
エレンから見れば、何でオルドさんまでそんなに冷静なんだよ!と叫びたいところだ。しかしそれはまずい、覗き見していたことがバレてしまう。微かに残っていた冷静さがエレンをぎりぎり踏みとどまらせていた。
ともかく、何がどうなっているのか?エレンから見て理解の範疇を超えていた。本来は魔道具がこんなに簡単に修理できるはずがないのだ。思わずオルドに質問を続けた。
「やはり彼は本当に魔道回路の意味を分かっているのですか?」
「私にもその詳細は分かりません。でもレオン坊ちゃんはそう言っていますね」
宮廷魔道具師と呼ばれた自分でさえも、魔道回路の意味はさっぱり理解できていない。自分はその回路を真似することしかやっていない。
一方でレオンはその意味を理解しているという。本当にあり得ないことだ。だが、今ならばそれを信じざるを得ない。
さらには、指でなぞるだけで、なんで故障箇所が分かるのか?
一体どういう原理なのかエレンにはさっぱり意味が分からない。早くその原理を知りたい。
エレンは急に胸が熱くなるのを感じた。ここで見るまでは半信半疑だったこともありまだ余裕があった。しかし実際の修理を見て、レオンの成し遂げたことに間違いないと確信してしまった。
それまでの余裕は完全に消えた。呼吸が苦しくなり鼓動が早くなっている。心臓のドキドキが止まらない。急に緊張してきた。
興奮と衝撃と悔しさと敬意など様々な気持ちが混ざった。そして次の瞬間には視界が滲んだ。自然と涙が出ていたのだ。それを必死に拭った。
……まさにレオンは神だ。
(エリシアが神と呼んでいたが今なら分かる。彼女の言う通りだ。どこか半信半疑で、信じ切ることができなかった自分が愚かで間違っていた。レオンは間違いなく本物の神だ。魔道具の神に違いない)
その後、いくつかの魔道具の修理をしてレオンが静かに動き出した。一つだけでなく複数の修理を成功させたことで、エレンの中でのレオンが更に格上げされた。もう、やばいことになっている。
出てきたレオンに今すぐ聞こう!どうやって直したのか、なぜ故障箇所が分かるのか、そしてその理屈は?と前のめりになった。
だがその動きをオルドが制してきた。
「もう少しお待ちください」
「何故ですか? レオンにすぐに話を聞きたいのですが?」
「落ち着いてください。質問はレオン坊ちゃんの秘密共有後という話だったではないですか」
そうだった。まずはレオンの特殊性を知る人間の仲間になることが先だった。その後で質問をするという話だったのだ。これまでそのためにレオンと魔道具に関する詳しい話をしなかったのだ。エレンは冷静さを欠いていることを自覚した。
そこでオルドは続けた。
「まずは私が坊ちゃんに、エレンも秘密を共有する仲間にしようと進言いたします」
「おそらく良いお返事をいただけるでしょう。レオン坊ちゃんは魔道具の知識に飢えておりますので」
「今からレオン坊ちゃんに相談し、その件についてすぐに確認します。その確認が取れるまで少々、お待ちください」
「分かりました……」
エレンは混乱する頭の中で何とか頷いた。それで何とか冷静さを保とうとした。
しかし、それと同時に困惑していた。そんなの待てるわけがない。でも仕方がない……待つしかないのだ。なんとも歯がゆい。
いわゆる、お預け状態だった。
ずっと息苦しく心臓が落ち着かない。ソワソワする。そして時には天を仰ぎながら考え込む。その場をうろちょろもした。これでは、はたから見たら完全に不審者だろう。それでもいい、早く聞きたい。
やがて魔道具の修理を終えたレオンが廊下へ出てきた。危ない、目が合いそうになった。バレてはまずいと感じ慌ててエレンは目をそらした。逆に不自然なのに。
確実に今のエレンは挙動不審だった。そんな彼女を見てレオンはすぐに違和感を覚えた。何とか冷静さを保とうとするエレンだったが、興奮状態でさすがに無理があった。
そんな様子のエレンをレオンは不思議そうに見つめて首をひねった。さすがにバレたか!どうしようか……とエレンは困惑した。
しかし、すかさずオルドがレオンを呼び止めた。
「レオン坊ちゃん、少しよろしいでしょうか。相談があります」
「うん、何?」とレオン。やや不思議そうな顔をしながらもオルドの声に呼応した。
そして二人は相談するために部屋へ移動。その扉が閉まった。
エレンとしてはおかしな状況をレオンに指摘されることがなくなったことは助かったのではあるが、待ちぼうけ状態となった。
彼女にとってはとてつもなく長い時間だ。一秒一秒がとにかく長い。早く話を聞きたいのに!
そして。
「エレンさーん!」
声が響いた。話は付いたようだとエレンは確信した。
心臓が跳ねた。もう待てない。エレンも慌ててレオンの方に向かった。




