第99話「秘密と覚悟」
#第99話「秘密と覚悟」
エレンはエリシアに対してレオンの魔道具に対する特異性について話をした。宮廷魔道具師の自分が足元にも及ばない人物ということだと。
そして、エレンは静かに言った。
「まだ実際に私の目で見てはいないから半信半疑の部分はあるのだがな」
「もし本当に彼が魔道具の修理や開発をできるなら……私は弟子入りするつもりだ」
「そこまでレオン様は凄いの?」
「その通りだ。私は魔道具の修理も開発もできない。ただ文献を漁り、それを実用化しているだけだ。その他にも多少の研究はしているがその程度。レオンのやっていることは、私とは次元が全く違う」
エリシアとしてはどうしても信じがたい話ではあったが、エレンがそこまで言うのだ。信じるしかないと感じた。
そして、少しの間をおいてエレンはぽつりと呟いた。
「まだ信じられないようだね。ならば一つの実例を話そう。これも本来は秘密の話なんだが君を信じて話すよ」
「レオンはな、王女様を魔道具で救ったんだ」
「どういうことよ?」
「王女様の魔力量は……なんとS級だったんだよ」
それを聞いてエリシアは絶句した。S級と言えば10年に1人とも言われる超天才クラスだ。しかしその魔力量の多さが引き金になって9割がたは10歳までに亡くなるとされている。
「王女様は魔力過多で、ほとんど寝込んでいたんだ。しかしレオンが開発した魔力吸引魔道具によって王女様は見違えるように元気になった」
「まさか……」
「彼の開発したとされる魔道具は、魔道具革命でもあり医療革命をも起こしたんだ。私にとってはレオンは神みたいな存在だよ」
さすがに話が大きすぎてエリシアは付いていけなかった。しかし、レオンが凄い存在だということだけ理解した。
そこでエレンが続けた。
「だからまずはレオンの信頼を得る。そしてオルドと共に秘密を知る仲間になる。その上で守ろうと思っているんだよ」
「でも……大丈夫なの? そんな話を私にして」
エレンは不思議に思った。そんな大層な話ならば私にしない方がいいのではないか?秘密を知る人間はどう考えても少ない方がいい。
最初は好奇心で知りたいと思っただけだがさすがにエリシアにとって話が大きすぎた。
そこで、エレンはにやりと笑った。
「どうした? エリシアはプライドを失っただけじゃなく、卑屈にもなったか?」
「違うわよ。レオン様の迷惑になりたくないだけよ」
「なら、なおさらだ。エリシアも秘密を共有する仲間になるんだ。そして、レオンの盾になればいい」
「私は魔道具しか知らないんだ。戦うすべがないから守れない。でも、君ならば魔法で守れるだろう?」
少しの沈黙。
そしてエリシアはエレンの狙いを正確に把握した。自分は魔道具については詳しくはないが魔法は使える。すなわちレオンを守る戦力にはなるのだ。
いざとなったら自分の命を懸けてでもレオンを守ればいい。
「……分かったわ。レオン様は私が守る」
そこでエレンは、ふと思い出したことを話した。
「ちなみに、私が初めてレオンを見た時、彼は何をしていたと思う?」
「何をしていたの?」
「父親に土下座していたんだよ」
「……え? なんでそんなことを?」
「君たちを守ってくれ、引き取ってくれってな。頭を地面に擦り付けてお願いしていたんだよ」
その瞬間。
エリシアの瞳から、静かに涙がこぼれ落ちた。
(しまった……これは言わない方が良かったか?)
エレンは少し後悔した。やる気を出させようと思って話したつもりだった。ただそれだけで良いと思っていたのだ。
しかし、エリシアの目が――
完全に“決まって”いた。
揺らぎのない覚悟。濁りにも似た強い光。見るからにやばそうな目をしている。更には神に祈るように手を結んだ。
「そうですか。レオン様は私達のためにそこまでのことをしてくださったのですね」
「あなたにとってだけでなく、私にとっても神のような存在です」
「そしてエレンの言いたいことは分かりました。私はレオン様を一生かけて守ります。それこそが私の使命、そして運命だったのでしょう。全てが今、繋がりました」
エリシアの断言だった。しかし、使命やら運命とやら、さすがにその言葉の一つ一つが重すぎる。これはちょっとやばい状況だとエレンは危惧した。
一方でエリシアは更に続けた。
「私も必ず秘密は守ります。そして秘密の輪に加われるよう努力します。だから――エレン、あなたも私を手伝ってよ」
「……分かったよ。でも思いつめすぎるなよ。今のエリシアはさすがにちょっと怖いよ」
エレンはやや引いていた。変なプライドが無くなって良かったとは思ったが、今度は変な方向に走りすぎだ。
自分の責任でもあるから彼女自身もちょっと悪かったとは思ってはいたが、さすがにこれは予想しなかった展開。
「大丈夫。私はレオン様のためなら何でもします」
(いや、そこが大丈夫じゃないんだよなぁ……まあ、いいか。時間が解決してくれるだろう。少しずつ説得しよう。人は変わるはずだ。エリシアも一回変わったんだから今度も変わるよね)
そう思いながらエレンは苦笑し、静かに頷いた。
もちろん、この時点でエレンは知らない。ギルベルト、セレナ、オルドからは、エレンもやばい人物認定され、危険視されているということを。




